FIGHTING A LICENSED COOK

 【お帰り、ハニー】



 ディジー マティアル
             〔実働派〕
              ・エクソシスト
               装備型)アリジオル
               エクソシスト歴 2年
              ・男性
              ・年齢 35
               ※備考 娘 
                    オーストリア出身

  マティアル
             〔サポート派〕
              配属)本部
               総合管理班(本属)
               兼 科学班
               兼 通信班
               兼 対外調整班
                本属4年目
              ・女性
              ・年齢 17
               ※備考 父 ディジー
                    オーストリア出身


  “いいかい、。絶対にエクソシストをしないとパパに約束できるね?”

  “に二言はないんだよ?パパ。『約束』”

  “いい子だ。私の可愛い



  「・・・・ずいぶん懐かしい夢だわ」

 はそう言うとベッドから身を起こした。
 あたりは暗く、まだ夜明けは遠い。
 パチン、と首から下げた時計のふたを開いて時間を確認した。

  (この時間じゃさすがに料理長も起きてないよね)

 ジェリーと同じ総合管理班の厨房担当のは朝が早い。
 だが時計の針はまだ夜中の3時であることを告げている。
 二度寝をするには時間が足りない。の起床は4時半だ。

  「科学班になら誰かいるかな・・・」

 そうひとりごちるとは身仕度をはじめた。

 は11歳の時から教団で生活している。昔は総合管理班 厨房担当のみであったが
 能力を買われ、科学班、通信班、対外調整班と4班を兼任するようになった。

 本属は厨房だが、食事を作る時間帯以外はほとんど厨房を離れて別の班の仕事が入っている。
 比率は厨房5に、科学班3、対外調整と通信班にそれぞれ1といったトコロだ。

 厨房でコーヒーを入れてから、は科学班へ向かった。


          * * *


  「おはよーございます」
  「あれ?、どうしたの。こんな朝早くから」
  「早起きしたので厨房がまわるまで雑用でも、と思って。なんか仕事あります?室長」

 コーヒーを配りながら、が言う。

  「助かるよ。雑用どころかに頼みたいことがあってさ。無線ゴーレムの修理を2体
   それがおわったらジョニーの手伝いしてくれる?」
  「りょーかい」

 片手に二体のゴーレムを受け取ってはほぼ専用になってしまった予備の机に向かった。


          * * *


  「は〜、相変わらず器用なもんだな」
  「リーバー班長」

 2体目のゴーレムの修理も終盤にさしかかろうかというところでリーバーがの手元を覗き込む。

  「まだ三十分も経ってないだろ。ホント今からでも科学班に入ってほしいよ・・・」
  「あたしの第二のフィールドは科学班ですよ。それだけじゃ足りませんか?」
  「実際何人増えても足りないな・・・」
  「あ〜、やめてやめて、リーバーくん。勧誘すると、ジェリーから苦情が来るんだから」
  「室長」
  「あらま、料理長はそんなことしてるんですか」
  「すごいよ?ジェリーったら目が本気だった
  「なら、あたしは異動するわけにいきませんね」
  「そんな仕事に追われるリーバーくんに対外調整班からいいお知らせ」
  「?」
  「先日、各国の研究機関に班員要請を出したら結構派遣してもらえることになりました」
  「ぉわ、スゲェな。よくあの堅物機関が人材を回すことになったもんだ」
  「相変わらずの外交手腕だねぇ。?」
  「ふふ、これもあたしの“オシゴト”ですから」

 そう言うと、はゴーレムをコムイに渡す。

  「配線の外部損傷が12ヶ所、回路のショート8ヶ所、バッテリー切れが2ヶ所。
   以上22ヶ所の不備、修理完了致しました」
  「はい、確かに。ご苦労さま」
  「じゃあ、あたしはジョニーのお手伝いに回ります」
  「よろしくね〜」

 ジョニーの元に向かうを見送りながらコムイがぽつりと言う。

  「ホントに、は働き者だねぇ」
  「ちゃんと寝てるんスかね、あんなに仕事して」
  「・・・もっと気を抜いたって誰も叱らないのにね。
   休むことに引け目を感じてるんだよ。働くことで自分を保ってるようにも思えるなぁ」
  「・・・ディジーの為に、ですか」
  「だろうね」

 リーバーの溜め息とともに会話は打ち切られた。


          * * *


  「アラん!?新入りさん?んまーこれはまたカワイイ子が入ったわねー!何食べる?何でも作っちゃうわよアタシ!!」
  「り、料理長・・・」
  「あらあら・・・」

 ジェリーのはしゃいだ声が厨房に響きわたる。
 一緒に洗い物を片付けていた同僚の引きつった声とは裏腹にはどこか微笑ましいものでも見るような態度だ。

  「ね、入団者は久しぶりなんじゃない?」
  「あぁ、なんか昨日は大変だったらしいぞ。神田と新入りが手違いで戦ったらしくて」
  「あの子相変わらず血の気多いね」
  「お前よく神田のこと“あの子”呼ばわりできるな・・・・」
  「あら、ああ見えて結構かわいいのよ?自分に素直すぎるトコとか特に
  「ねぇ !!できた料理から運んでってくれなーい?」
  「はーい!今行きまーす!!ゴメン、すぐ戻ってくるから此処お願いね」
  「おー」


          * * *


  「あの、料理長・・・」
  「言いたいことは解るわ、。全部ひとりで食べるんですってよ!」
  「・・・・こんなに?」

 がそういうのも無理はなかった。料理はしめて16品ある。

  「朝からヘビー級だなぁ・・・こんなに食べたらお腹壊さない?」
  「本人が頼むぐらいなんだから平気でしょ。
   アンタももう少し食べる量増やしなさいよ、ここまでとは言わないけど」
  「はは・・・考えときますよ。運んで来まーす」

 ジェリーの気遣いは嬉しいが正直この量を見ただけで胃もたれ気分だ。
 もともとにとって料理はあくまで食べるものではなく作るものである。
 なかば“ゴチソウサマ”気分ではトレイを持ちなおした。

  「あら・・・」

 料理を運んでいくと何やらまたしても揉め事らしい。
 随分とツンケンした空気が神田と新入りの子、探索班たちの間で流れている。

  「早死にするぜお前・・・キライなタイプだ」
  「そりゃどうも」
  「お取り込み中失礼?ご飯持ってきたよ、新入りくん」
  「!?」
  「・・・」

 険悪なムードをものともせずには二人の間にまだ湯気のたつ料理が山のようにのっているトレイをつきだした。

  「・・・・・
  「そんなに怖い顔しないの、神田くん。話の腰を折って申し訳ないけど、ここで堂々と喧嘩しちゃダメ。
   料理長のヒザ蹴り飛んできちゃうわよ〜?探索班のみなさんも、神田くん睨むのはやめ。
   この子すんごい口下手なの。さっきのはあたし的に訳して言うと
   “亡くなった探索者の人は何を言ってもやっぱり亡くなってて、それがくつがえることはないから
    それ以上悲しむのはその探索者に対して失礼だ。死を悼むなら前を見ろ”ってイミなのよ」
  「・・・」
  「あとでその人の話を聞かせてってバズに言っておいてくれる?ちゃんと送り出してあげましょ」
  「・・・あぁ」
  「チッ」
  「神田くんなにか?」
  「あ、いたいた!神田!アレン!10分でメシ食って司令室に来てくれ。任務だ」
  「・・・10分だって。新入りくん、食べれる?」
  「ぇっ、あ、ハイ!」

 それまで固まっていたアレンが動きだした。は急いで料理を並べる。

  「じゃ、頑張ってね」

 一言だけ言うとは厨房に戻った。

  ―ダン!

 否、戻ろうとした。

  「なに、まだ怒ってんの?」

 まわりの視線など何処吹く風、不機嫌2割増の神田がの退路をふさいでいる。

  「いゃぁね、怒りんぼの次は通せんぼ?」
  「・・・・来い」

 不意に腕を引っ張られたかと思えばなかば引きずりだされる形で廊下に連れてこられた。

  「・・・・
  「いやん、恐〜い」
  「テメっ、この野郎ざけんじゃねぇぞ!探索班の奴らに妙な事吹き込みやがって」
  「あぁら、吹き込むなんて心外ね。あたしは事実を言ったまでだわ。
   それともなぁに、神田くんはご自分の口が上手いとでもお思い?」
  「そっちじゃねえよ!訳とかなんとかほざいてたろうがっ」
  「なんでよ、あたしにはそう言うふうに聞こえたんだもの。はずれてないでしょ?・・・相変わらず優しい子」
  「っ!!!」

 の慈しむような声色に凄まじい勢いで神田が顔をそらす。
 その様子を見たが一呼吸置いてから笑いだした。

  「てッ、照れ屋さんめ」
  「お、前・・・マジでしばく」
  「ぅん?それはお断わり、っていうか任務帰ってきてから初めて会うのにただいまの一言もなしですか、神田くん?
   ラビとリナリーはいっつも一番に言いに来てくれるのに。さーびしーなー」
  「チッ・・・」

 満面の笑みで笑うとは対照的に神田の顔には“不覚”の二文字が浮かんでいる。
 神田はしばらく思案するように固まっていたが、意を決したのだろうか
 やけに神妙な顔をしながらずかずかととの距離を詰めた。

  「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・帰った」

 の耳にできるだけ顔を近付けているのは周りにこんなふうに言うのを聞かれたくないからだろう。
 それがまた子供の様で笑えてしまう。
 だがこれ以上拗ねたようにそっぽを向く同僚の機嫌を損ねないようにそれは堪え、代わりに

  「お帰り、神田」

 無事任務を終えたことを心からねぎらった。




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