聞き慣れたブーツの足音がしていたのには気付いていた。
教団内では飛び抜けて小柄な
しかしその実黒の教団本部警固軍団団長という肩書きを持つ少女の薄い足音が
室長室の前で止まったのにも気付いていた。
けれど、
「しっちょーのバーカ」
急なこの言葉の意味は、さすがに気付かなかった。
【君が居るから】
「へ!?なっ、なに?急に」
普段は必ずノックと名乗りをする彼女―・ハインリッヒ・カートラードが
珍しく前触れもなく部屋に足を踏み入れ、部屋の主人の顔を見て開口一番に辛辣な一言。
それに面食らったコムイに構いもせずは彼を睨ねめ上げた。
「バーカバーカバァーカ、今の発言で室長のあたしのなかでの権威ガタ落ちー。
ランク失墜ー。明日から室長に対しての愛想三割カット」
「こら!くん!何なんだい急にッてうわ!!?」
コムイの胸ぐらを掴み上げるという荒々しい諸方をもって話の腰をがへし折る。
普段の頭二つ分の差は机の上に膝立ちでカバー。
ただでさえ滅多と上から見下ろされる事のないという不慣れな事実が
不機嫌そうに、真面目そうに、こちらを射る目線の鋭さの拍車を掛けていた。
この顔は昔、一度だけ見たことがある。
確かあの時も、はこんな顔をしていた。
「くん」
「なんすか」
「・・・怒って、る?」
「さぁね。自分で考えな」
ケッと投げ遣りに顔を逸らして、やぐされたように手を離した。
書類にまみれたデスクの前の一人掛けのチェアに飛び乗って
本来のコムイの仕事を陣取り手当たり次第にペンを走らせる。
一見何の規則性ももたないような作業だが、仕事の質はこれですこぶる良質で
リーバー班長のお墨付きだ。
(ってそんな事を考えてる場合じゃなくて!!)
自分で自分にツッコミを入れつつ先程締め上げられた襟元とずれてしまった眼鏡を正す。
自分の世界に入って黙々と書類と向き合うに机を挟んで向き合い直した。
「くん」
「・・・・・・」
「」
呼び掛けを呼び捨てに変えれば、ゆっくりとが顔を上げた。
左手には書類の束を、右手にはペンを持ったままコムイを見やる。
14歳らしからぬ、軍団長らしい、鋭い眼。
「・・・46番隊のことを怒ってるの?」
「・・・・・・」
『例外は認めない』
『彼らには世界のために消えてもらう』
遺体を故郷へ―そう言った探索班の隊員に出した答え。
「確かに僕は、非道い事を言ったかもしれないけど。でもね」
「・・・違う」
「え?」
「コムイの何が非道いの」
「?」
「コムイのどこが悪いの」
畳み掛ける側だったコムイと、聞き役に撤していたの位置が入れ替わる。
矢継ぎ早に流れるようにまだ成長過程の声がコムイにぶつかった。
「あんなのあいつらの覚悟が足りないだけだ。好き勝手言って後のことなんも考えてないくせに
頭も手も足も動かさないくせに口ばっかりで何にも分かってない」
「そんなふうに言うもんじゃないよ。誰だって、最期は家族と居たいものだ」
「でも此処じゃそれは通用しない。団内火葬は故人の尊厳を守るために教団で規定を作った。
なのに、あれじゃまるでコムイの意地悪みたいだ」
「・・・仕方ないことさ」
「コムイは悪くないのに」
キッと細められた眼がまた下を向く。
うなだれるようにも見えるその姿は本気で憤いきどおって、真剣に怒ってくれた。
何よりも心強い、味方
真直ぐに伝わる言葉が―不謹慎ながら、嬉しい。
顔を上げる気配のないの手からそれぞれ書類とペンを取り上げ
机越しに手を握って小さな頭に額を寄せる。
伝えたい、事があるから。
「君が分かってくれてたらそれでもういいよ。僕は幸せ者だ」
「・・・安い幸せ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「でも僕にとってはすごく幸せなことなんだよ」
「・・・後であの46番隊の奴ブン殴ってやる」
「やめなさい。僕のハナシ聞いてた?」
「・・・・・・」
「」
名前を呼べばフイ、とまた顔をつれなく逸らされてしまった。
けれど返事をしないのは、肯定の証だ。
そっぽをむいた彼女の頬はきっと赤い。
愛しい愛しい照れ屋の彼女。
「彼を殴るのはナシだよ。怪我人なんだからね」
「・・・左手で殴るよ」
「・・・ウン、それが君なりの譲歩なのはちゃんと分かってるんだけどね。でもそれもダメ」
「・・・・・・」
「君が謹慎処分になったりしたら哀しいよ」
「コムイの思ってるほど軍団長の権威は低くないんだよ」
「怖い事言わないの。権力を嵩かさにする気?」
「・・・しない」
「いい子だね」
「・・・コムイのほうが“善い”人でしょ」
「そうかな?」
「そうだよ」
それまで逸らしていた顔を上げて、まっすぐがコムイを見る。
「でも全部コムイが背負う事ない」
「うん」
「仲間のためを思うならちゃんと頼らないと失礼だ」
「・・・うん」
「覚えといてね」
「わかった」
「ならいいよ」
ふ、とようやく笑ったの髪を撫ぜる。
君が居るから大丈夫だよ
++あとがき+++++
半日足らずで仕上がりました初コムイ夢。5巻を読み返してた時にドゥーンと出てきました。
まさかクロス夢主張りに歳の差のある(と思われる)設定誕生になるとは思いませんでした。
15歳差だもんね
蛇補足までに ↓ HOW TO 夢主
(デフォルト:エラルド)・ハインリッヒ・カートラード
黒の教団本部警固軍団 軍団長兼 科学班室長臨時補佐役
警固軍団は菱が勝手に作った妄想の産物です(笑)
1巻に出てたハゲマッチョ軍団の上にある組織ぐらいに思っていただければこれ幸い。
NOTエクソシストですが、何故か師匠はクロス元帥という設定。趣味です(オイ)
新人エクソシストと組んで任務へ行く事もあるくらい実力があります。
BACK