ここしばらく見ていなかったエメラルドと同じ艶やかな色だ。
相変らず良く馴染む手触りの細髪を梳く。
吐息だけで名前を呼べばまるで聞こえたように双眸を繙(ひもと)いた。
「久ぶりだな、半年ぶりか」
「・・・8ヶ月、ですよ」
「クッ・・・そうか」
顔に這わした手はそのままにして笑えば、寝ぼけ眼ながらは不満なのだろう眉を寄せてなんとも情けない顔だ。
なにがしかの不満に憮然としたまま、それでもぺたりと赤い花の咲いた手が頬に伸びてきて確かめる様に輪郭をなぞっていく。
「髪、随分伸びましたね・・・あぁ、おひげも・・・少々」
「“8ヶ月”ぶりに会って言う言葉がそれか?」
「・・・会いたかったです」
「ほう?」
重ねて咲いた右手に左手を重ねて取る。
唇を額に這わせば面映ゆそうに身じろいだ。
「会いたかったし、話したかったし、言いたいことだって沢山」
ぽつりぽつりとが言い募る声色は謀らずとも着々とクロスの思い通りに形作られていく。
上出来だと胸中のみで呟いて、落とすようにして口付けを交わす。
影を落とす睫毛すら記憶とは違わない。
目の当りにして改めての不在を退屈に思った。
離れて尚最果てより君想う
ざり、と砂利を踏む2対の音が微睡んだ意識を縁側に呼んだ。
「チッ、視界にゴミが入った」
「ぁあ゛ー!!?なんっだぁーコイツちょームカつくー!!」
「ヒヒっ、生意気生意気――!!」
「無駄に語尾を伸ばすな。3割増でアホに見えるぞ」
隈どりのある男と口に縫い目のある男がギャイギャイ騒ぐ。
可愛い恋人との折角の粋な逢瀬を台無しにされたクロスは早くも殺気垂れ流しだ。
「まっ・・・まままマリアん!このお二人はノア様だっちょ!!」
「腕は?立つんだろうな。弱いものイジメは良心が咎めて適わん」
「んなぁ―――――にが良心だ!!!!????伯爵様に聞いたぞ!!神父のくせに
酒と女ばっか引っ掛けやがって!!!しかも大本命のちゃんは15歳だぁ?笑わせんなロリコン!!!!」
「口の聞き方には気を付けろ」
隈どりから“”という名詞が飛び出た途端にサチコの肩が飛び跳ねる。
隣に立つエクソシストを伺いをたてるように恐る恐る見やれば、
クロスは顔が凍りついて・・・いやむしろサチコの与り知れぬところまで彼の苛立ちが達してしまったようだ。
(ヤバイっちょ・・・ミセスの名前が出ちまったぁ〜)
“ミセス”とはクロスがサチコを始めとするありとあらゆる存在に強要したの呼び名だ。
一定内以外の人間に恋人を気安く呼ばれるのを肚の底から嫌ったが故の、彼なりの譲歩である。
それほどに“ミセス”に対する執着は、強い。
「フン、品のない野郎のおかげで今夜は酒が不味そうだ」
【暁に思う夢】