【以為―オモヘラク―】


 ピタン、とエメラルド色の髪から雫が滴れる。
 しばらくここでそうしていたのだろうか、大理石に小さな水溜まりをつくりながらはお祖父さまのコレクションのひとつをどこか愛おしそうに見つめていた。

 「?どうかしたのであるか?」
 「あぁ、ごめんなさい。少し考え事を」
 「この絵が気に入ったであるか?」

 その絵はとある画家のもので、お祖父さまのコレクションにしてはめずらしい趣向の一品だった。

 「やはり師弟であるな。クロス元帥もこの絵を見ていたである。気に入られた様であった」
 「ぇ?・・・あぁ、やっぱりそうだったのね」
 「“やっぱり”?」

 クロウリーがそう聞き返せば、は照れたように笑って頬を染めた。

 「ふふ、実はね元帥の好きそうな絵だわと思ってたの。この雰囲気なんて特にそう。クロスの好みを形にしたみたい」

 その横顔を見て、その絵を見ていたクロスを思い出す。

 “いい趣味だ、絵は悪くない”



す、と手袋をはめた手が一輪の花を抜き取る。  
クロスが滞在する折にはいつも使う部屋に生けられた花々達、今まではこんな風に手に取ることなどなかった彼が花瓶から抜き出したのは淡く控えめなあつ桜だ。  

「クロス様?何か御座いますか?」  
「いや、別に大した事でも何でもない」  
「その花がお気に召しましたか?」  

 クロスが選んだ花は慎ましやか、豪華な物を好む彼がその花を好んでいたのかと少し意外だった。  

「その花がお好みで御座いましたか?あまり艶やかな趣ではないので気付きませんでした」
「まぁ確かに艶やかではないな。目立たない」  
「・・・・?えぇ」  

ならば何故、と思ったアニタを見透かしたようにクロスが言葉を零す。  

「・・・あれの若葉色にはかえってこのぐらいの物の方が映えそうだ。飾り立てる華美よりは香りを好むだろうしな」  

その後に来た若葉髪の彼女はその花を見てこう言った。  

“素敵な花ですね。いい香り”  


何をして、何を見て、貴方は今何を思っていますか?






++++あとがき+++++
 【BEAUTIFUL】番外編をお送りしました。
 背景も話の雰囲気にあわせて選んでみたんですが、如何でしょうか。
 【交換条件】と同じく、サラとクロスの二つのシーン
 字数をこっそり一緒にしてみましょう企画第二弾
 そして、こちらも製作時間一時間半シリーズ第二弾もうひとつのお礼夢、阪さん夢(【多分人生最悪の日】)と一緒です
 なんでかはわからないんですがすんなり出てきましたよ(笑)
 作中に出てくる『あつ桜』はホントにあります。『アッツ桜』とも言うらしいんですが。
 濃いピンクのものがどうやら主流のようですが、菱的には白いほうが好きです。
 白なんだけどふちがほんっとに淡いピンク色になっててきれいなんですよ〜
 ただいい匂いかどうかはいまいち覚えてません(オイ)