ビンディの粉を持て余して、は溜息を吐く。

「…ほんとにやるの?」

普段は巻かないターバンを四苦八苦しながら操るジャイルをちらりと横目で見やる。
アメフトのワールドユース大会出場に差し当たり、彼は全世界の期待に答えることを決意したらしく、黙っていればそれなりに麗しい顔に良い笑顔を浮かべてこう言ったのだ。

“せっかくほらワールドカップだから、みんなが期待するインド人のイメージに応えていこうぜ!”

…いや、こんな風には言わなかったかな、でも趣旨的にはこんな感じだった気がします。

その第一歩が彼にとってはターバンであり、にとってはビンディなのであった。
みんなのイメージがどうであれ、普段ジャイルはターバンを巻かないし、は赤だけの飾り気のないビンディなんて付けないのに。

今時誰も付けないような赤いビンディの粉はわざわざ祖母から分けてもらったものだ。
額の真ん中に付けるそれは、昔こそ宗教的な意味合いが強かったが、今ではインドの女性のおしゃれの一つ。
花のモチーフだったり、きらきらと光るものだったりと色んなバリエーションのシールが売っているのが当たり前だ。というか主流。
なのに、わざわざ赤い丸(それも粉!)を額に付けた日には、流行遅れどころではなく本当に笑われてしまう。

インド人のイメージに一番忠実だとは確かに思うけれど、正直付けたくない。(赤い丸のシールだって勿論あるのだが、それは“知らない人が見たらがっかりする”というキャプテンジャイルの独断と偏見にまみれた持論によって当然のように却下された。)
そんな女の子の事情なんて全く気にしていないように、ジャイルは不思議そうな顔でを見やるばかりだ。

「赤が一番それっぽいだろう?」
「…さようでございますか」
「早くしないと飛行機に遅れるぞ」

…彼の名誉を守るために言うなれば、普段は負けず嫌いで向上心や闘争心に溢るる頼もしいキャプテンなのだ。ただほんの少し、ノリが良すぎるだけで。

とうとう額にのせてしまった赤い丸を鏡越しに見やってまた溜息をつく。
時を同じくしてターバンに飾り帯をとめたジャイルはを見て満足そうに笑みを浮かべた。

「これならきっとイメージにぴったりだ」
「男の人はみんな頭にターバンを巻いて?シェーシャには蛇使いみたいな格好させて、私は額に時代遅れの赤いビンディ?」
「そうするとにも動物が要るな…喋るオウムか、ベンガルトラ辺り」
「それはアラジンの話で、しかも映画のオリジナルでしょ!」
「イメージだ、イメージ」

唇を尖らせて呆れるを宥めるようにくしゃりと頭を撫でてジャイルは体をぐるりとこちらに向きなおす。
急に居住まいを正すものだから何事だと、具体的に言うなればよもやあの着付けが物凄く面倒くさいサリーでも着てこいとか言わないだろうかと構えたの予想は僅かに外れた。

「俺は本当ならシンドゥールもしたいぐらいなんだぞ」

…シンドゥールとは、髪の分け目に赤い粉を付けて既婚の証とするもののことです。
ビンディよりも遥かに、面倒くさいとはしばしば聞き及んでいます。

「…結婚もしてないのにあんな面倒くさい儀式は嫌よ。髪の分け目が赤いなんて絶対嫌」
「世界的に見てもインドの女性は美人だ。を狙う不埒な輩が居ないとは限らない」
「いい加減ググっただけの情報鵜呑みにするのやめたらいかが?」
「俺はだから心配だと言ってるんだ」
「………そ」
「むやみやたらと、一人になるなよ。絶対にだ」

頷くまで決して反らさないであろう視線から逃れるように、はこくりと頭を縦に振る。
本当は、ビンディと同じように赤くなった顔を隠したくて俯いたのだけれども、それを了承の証しととったジャイルは手荷物を纏めて空いた手での手を握るとすんなりと歩を進め出した。
まったく、言うだけ言って、いつもそうやって進むのだから。
前を歩く背中をこっそりと見やりながら、は繋いでいない方の手で額を隠す。
みんなに会うまでには、顔の火照りも収まりますようにとジャイルの手を握り返しながら、しばしの別れを故郷に告げた。



は続く



(さあ世界に会いに行こう)


++あとがき+++
ジャイルくんっていうのは、ユース大会インドチームの一人だけターバンに飾りがついてる人だよ!アメリカに対して「フン…聖地アメリカか」とか言ってた人だよ!思い出したかな?
え、なんでなんでなんで?なんでジャイル夢?^q^菱にもわかりませnnnnn←…
超脇役名選手列伝のあのちょびっとでなんでここまで話広がった?
ちなみにこの後ジャイルくんの予想に違わず不埒なバッド・ハリウッドさんがさんにちょっかいを出す所まで妄想しましたが、流石に、なんというかゴニョゴニョ
ジャイルくんはどっちかって言うとひねくれ者だと思ってたからキャラがいまいち掴めなかった…OTL
G○ogleに踊らされるジャイル^q^取りあえずさんに対する独占欲はハンパない、と←オイ
インド文化はPCでちゃちゃっと調べただけなのであまり信じないでくださいね(滝汗)
シュルツ夢より先にジャイル夢!需要と供給を果てしなく覆した俺WOOOOOO!!(殴)

タイトル*流星雨さまより


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