さら、細く長く柔らかな、指によく馴染む髪を梳く。
本庄の胸にもたれ掛かるように、くたり、身を預けるの眉間には苦しげな皺が刻まれていた。
足の上にを座らせて、自らは背もたれの役割に徹するようにその体を抱き寄せる本庄は、静かに愛しいと思わせる仕草で白い額に唇を這わす。

、大丈夫か?」

うぅ、身じろぎを落とす気力すら残さないが呻くように声を落とす。
本庄の低い声に伏せられていた瞼がほんの少し持ち上がる。
へにゃり、芯が溶けだしてしまったような表情で、は本庄を見上げた。

「髪も体も服も甘いにおいがします…」

こてん、すべてを本庄に任せてが呟く。
上下する本庄の掌に寄りかかるように、けそり、あまり宜しくない顔色のは目を閉じた。
ああ、と悩ましげな溜息が零れる。

「甘いのは、やっぱり、駄目みたいで」
「無理しないでいい。苦手なのは仕方ないさ」
「でも、折角…その…バレンタインなのに」

しょんぼりと俯いてしまったの、伏し目がちな視線を長い睫毛が縁取る。
甘いものがことに苦手なには辛い行事だ。
街中を歩くだけでも命取りなこの季節に、それでも勇気を振り絞って作ったのであろうガトーショコラがダイニングテーブルに。
そしてその隣に、有名店のチョコレートが置かれていたのを見て、本庄は思わず苦笑いをこぼしたのだった。

「だからその、味にあんまり保証ができないので、出来れば、赤い箱の方を」
「いや?の作ったほう美味かったよ、ありがとな」
「―……本庄さん」

の声が震える。遠慮がちな腕が、そ、本庄の腕に添えられた。

「ごめんなさい、本庄さん」

唇が、謝罪を囁く。悲しげに。
街中がバレンタイン一色に染まるにつれて、の瞳には寂しさが増すのに本庄は気付いていた。
甘い物が苦手なことに、はコンプレックスを抱いているのだ。
いつかの帰り道も、はその横顔に悲しい色を湛えていた。



そぅっ、と眦に浮かぶきらめきを拭って、本庄が囁く。
優しく頬を撫でて、口付けを落とす。

「俺は、が好きだよ」
「本庄さん…」
「全部だ。甘い物が苦手なのも、恥ずかしがり屋なのも、アメフトの試合の時だけちょっとサドっ気出るのも」
「さ、サドっ気……」

本庄の歯に衣着せぬ言い方にが気まずそうに目を伏せる。
そんな姿すら愛らしく思えて本庄はますます抱き寄せる腕を絡ませた。

「全部がいい。無理しないで、作らなくていいから」

耳朶に甘く囁いて唇を寄せる。
の頬が、じわ、と熱を持つのがわかった。

「そのままのを、俺に見せてくれないか。今まで17年間会えなかった分も、全部」

額、瞼、目尻を通って輪郭をなぞる。
ひとつひとつに、とリップ音を立てて、キスを繋いだ。
陳腐な台詞を使うならば、チョコレートよりも余程甘い。

「――…まさ」
「愛してる」

本庄の言葉に、余すことなく頬を染めた、の肌がふるり、と震える。
ふわり、甘い甘い二月の香りが本庄の鼻先をくすぐった。



01 の影



(ああもうどうしようこの殺人的にかわいい子)


++あとがき+++
滑り込みバレンタイン企画第一弾本庄勝
以前のものと似たような話ですみません…
雰囲気だけはと砂吐くぐらい甘い目に
ただしバレンタインでなくてもこのぐらいのスウィーツなムードは朝飯前な本庄クオリティ
【CERAMIC】この冬のバレンタイン企画コンセプトはコード1122(いい夫婦)(爆)
この時点でかなり限定的な企画ですが…お付き合いいただきありがとうございました!ハッピーバレンタイン^^


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