※ 309th down「THE WORLD IS MINE」ネタバレ注意
こつん、こつん、かつん、ころん、ばらばらばらばら
平べったい箱が斜めに傾いで、丸みを帯びた包みが雨あられと降り注ぐ。
「たっ!いたたたたたたたたたたっ、ちょっ、ドン…ちょ、バレンタインはチョコレートを人に撒いて厄払いをする日じゃないってば!」
「理解の上だ」
「それではなにゆえ私は2月14日に頭から大量のチョコレートをぶつけられなければならないのかなMr.ドン!」
ゆったりとしたソファーに腰掛けて、箱を斜めにする手はそのままにすました顔のドンを睨む。
地味に堪えるこの仕打ちの意味を計りかねて、の頭は考えることをしばし放棄した。
頭上から雪崩を起こすそれを防ぐように掲げた腕をかいくぐるように、すこんっ、最後の一粒がのつむじに当たって床に転がる。
色とりどりのラッピングをされた小さなチョコレートがを取り巻いていた。
「食べ物粗末にすんのやめなさいよね…」
ぶん、頭を振るって溜め息を吐く。
ソファーに、床に、抽象模様のようなパターンを展開しているチョコレートを雪掻きの要領で集めるの頭に、ドンの掌が乗った。
髪を梳くように、指先が伝う。
求められるように顔を上げたに、ふ、ドンが笑った。
「ちょっとしたゲームだ、Kitty」
「…ゲーム?」
「この中に一つだけ当たりがある。それを見つけられたら賢いお前の勝ち。分かり易いだろう?」
「ちょ、どんな素敵な確率だそれ!!」
事も無げに言われた言葉に思わず声が荒ぶる。
身を乗り出しかけて、ぐらり、折角集めたチョコレートがまた、ころころとソファーの上で転がった。
箱をぶっちゃかしてばらまかれた色とりどりは優に二桁。
その中から一つなどどんな無茶振りだと辟易するにも構わず、ドンは悠然と構えるだけだ。
「ほら、頑張れよ」
自らの手元にあったチョコレートをに投げやって、ドンが嘯く。
後で覚えとけこのドS、口の中でぼやいて、は床にまで転がっていったものを拾い集めて再びドンと向かい合った。ここまで来たらやってやる、半ば自棄気味に。(何だかんだでドンに従うその姿が、思う壺であるとはまだ気付かない)
銀や赤、青、オレンジ、緑、七色には足りない五つの色を集めて数えれば総勢50。
ひとところに纏めた小山を築くチョコレートを一粒一粒吟味して選り分けるのを繰り返して、最後に残ったのは赤色のものだった。
「これだな?」
「ん」
他のものを箱に戻してサイドボードに追いやる。
選んだひとつをドンの掌に。
ぴり、包みをほどくと、ドンは何のためらいもなくの口にチョコレートを突っ込んだ。
「ぅ」
押しつけるように親指が唇をなぞる。
残りの四本の指が輪郭に添えられて、ゆっくりと頬を撫でた。
口の中でチョコレートが溶ける。
とろりとした甘い欠片の中に、がじ、なにか硬質な物が混ざっていた。
舌先で手繰って眉根を寄せる。
ドンの笑みが、一層深いものに変わった。
「!!」
「お利口だ、。飲み込むなよ?」
くるり、小さな輪が継ぎ目なく浮き上がる。
唇の間からするり、部屋の明かりに照らされた銀色が煌めいた。
「…………キザ」
「の割には嬉しそうだな、Dear?」
「るっせ!」
ドンの手すがら、ハンカチにくるまれてもう一度掌に載せられる。
の口から引き抜かれたのは、シンプルな造りの、一目で上等とわかるプラチナリングだ。
あるべきところに収まるように、それはぴったりと、薬指に。
恭しく持ち上げられた左手に唇が這う。
「…ありがと」
「どういたしまして、Dear」
09 いちばんドラマチック
(ああもうかっこいいな…くそうなんか悔しい!!)
++あとがき+++
滑り込みバレンタイン企画第二弾Mr.ドン
一昔前のプロポーズみたいごめんなさい趣味(ちょ)
Mr.ドンにいちいちときめく夢主が書けたので菱満足。
的中率2%にも関わらず見事当たりを引いたのはさまの深い愛。←…
無駄に金掛けた愛情表現はMr.ドンの専売特許です。
ハッピーバレンタイン!
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