※ 312th down「新世代へ」ネタバレ注意

うっすら白み始めた空に、アラームが鳴る。
冬の寒さも一番のこの季節、十分朝と言えるこの時間でも日の出にはまだ遠く部屋の四隅は夜の気配を残していた。
デジタル計時板のてっぺんについたボタンを押し付けて片肘を付く。
中途半端に上体を起こした体からぱさり、と毛布が滑り落ちた。

「――……‥」

まだぼんやりとする頭で、ぐぅっと伸びをする。
ごく近いところには、横たわる明星がいる。星条旗に集った英雄だ。
が目を覚ましてからもずっと腰に巻きついたままの腕を外すことから朝の日課は始まる。夏でも冬でも変わらず。
普段ならてこでも動かない逞しい腕も、この時ばかりはほどける(ただし比較的の話)(すんなり、と言うわけではないのだ)
よいしょ、と暖かな体温を退かしてはだけてしまった毛布を直し、自身はベッドから抜け出すと共に電気スタンドに手を伸ばす。

はずであった。

「・・・バ――――ッド」

スイッチに伸ばしかけた指や、起き上がりかけた上半身に被さるように、のしかかってくるバッド一名。
寝ぼけてるのかという呆れを込めて名前を呼べば、かすれた声がぼそぼそと呟いた。
の髪の毛に顔を埋めるようにして喋るものだからくすぐったい。あと聞き取りづらい。(小声の上に低音で掠れてるから)
背中を見やるようにぐい、と首をもたげても、わずかに香水が薫るだけだった。

「なに、喉乾いたの?水?」
「違・・・う、」

うとうとと夢の端っこから、なけなしの理性を引っ張って来てバッドは受け答えを成立させる。
まあ、普段はあんなにカッコつけの癖に、可愛らしいこって(逆襲が鬱陶しいので死んでも言わないが)
がさがさに掠れた声が、所々ささくれながら言葉を紡いでいった。

「雪、降ったんだよ」
「あー…道理で寒いと思った」

その言葉を肯定するように、先程引き剥がしたばかりの腕が顎の下に差し込まれた。確実に捕獲体勢。(重っ)
うつ伏せのの上にうつ伏せのバッドが乗っかって、迂闊に気を抜いたら潰れそうだ。
マネージャーと選手の体格差というものを、バッドは微塵も気にとめない。
体とベッドの間に無理やり左の肘をたてて、せめてもの酸素を確保した。
寒いと呟いて、いっそう腕に力を込めてくるバッドに押しつぶされそうになりながらも、必要最低限のツッコミはさせていただきたい。

「その上半身裸で寝る癖を直したら多少は改善されると思うんですが」
「・・・面倒い」
「このやろう」

(無駄に良い声で身も蓋もないことを・・・)

がっくしとうなだれながら、溜め息をひとつ。
普段も子供心を忘れてはいないが、今朝は輪をかけて聞き分けのない大きな子供のようだ。(いや、やっぱりこんな子供いやだ。鬱陶い
ぴくりとも身じろぎをしなくなったバッドにいやな予感がしては眉根をよせる。
妙なところから飛び出てきた前髪を撫でつけながら、は目を塞いだ。

「ちょっと、バッド。このままで寝るな。起きたいんですけど」
「諦めて」
「・・・ぶっ殺すぞ」

幾分かバッドの声が芯を持つ。
尚更距離をなくしていく手指が一本一本を絡めるように握り締められた。寒いとか言う割に手は温かい。
ふぬ、ともう一度左手に力を入れて二度寝を防ごうとしたの試みは、やはりというか、阻止された。

、動かないで」

人間ドームはタタンカの二つ名であるが、目の前(上?)の男にも是非この由緒ある称号を贈りたい。(柔道の寝技じゃないんだからさ)
抱き込められたは、遂に動きを封じられた。
え、みっしみし言ってますけど私の背骨。

「バッド、苦しい」
「そりゃ、よかったな」
「そんな趣味ないっての!」
「へぇ?初耳」
「てんめぇえ〜」

再び夢の通い路に旅立ってしまいそうなバッドに若干の殺意を抱きながら拳を握る。
自然と大きな手のひらを巻き込む形になった。
骨張った、長い手指はどうあっても離れようとしない。(…湯たんぽと抱き枕代わりとか)
そして、また、バッドが目を瞑った。

「うーわー寝たし・・・このやろうっ」

、渾身の一撃。左手は繋がったままで、意識の分だけ弛まった腕から大脱出。
このワイルドハリウッドと行動を共にし始めてからというもの不必要なほど身体能力が磨き上げられている気がした。(はー、くるしかった・・・)
今度こそようやく上体を起き上がらせ、一息。本当の意味の脱出までも、あと一息だ。
最後の砦の左手を掲げて、のほうの手を開く。
指の間を縫うように、大きな掌が肌を繋いでいた。

「相変わらずデッカイ手」

そう一人ごち、体をぐるりとバッドの方に向けて寝返りを打つ。
いかにも熟睡な顔をしたお馬鹿(おっと失礼)もといバッドはピクリとも動かないままだ。
それをいいことに、しばらく髪を撫でたり顔をなぞったりと好き勝手には指を這わせた。
眉間を伝うの指がくすぐったいのか、ほんの少しだけバッドがみじろぐ。

「ははっ、18歳の顔だ」

プライドも意地も鋭さも、今はなりを潜めて、英雄は眠る。
その姿には思わず笑みが込み上げた。
もう少し(ほんとに少しだけ)、こうして居たい気もないではないが、明けどきを迎えた光に追い立てられるように、は繋がり合う指を解く。
まだ温もりが残っているうちに、バッドに毛布をかけ直すと、ようやくの起床。
つま先をルームシューズに突っ込む。

その行動はまたしてもバッドによって阻止をされた。

「―っわ!!」

ぼふん!背中から倒れたの両肩には、二本の腕。
引っかけるように肩を倒されたを覗き込むバッドの顔が逆さまに見えた。
すらり、腹立たしいほど綺麗な隆起を描いた喉が陰りを作る。
上下逆さま互い違いに向かい合った唇が、のそれを塞いだ。
不満と文句と怒りの言葉が、喉の奥で綯い交ぜになって渋滞を起こす。(朝っぱらから、なにを、考えてやがるこの 阿呆!)
ぎぎ、ベッドのスプリングが軋んで、埋まるようにの身が沈んだ。
抗議に開いた唇の隙間から、するり、触れるだけのキスが尚更深いものに変わる。
もうそろそろ呼吸すら危うくなった頃、ひょい、とバッドが身を離した。
名残惜しむようにもう一度、ちゅ、とリップ音。
啄むような口付けを落とした男の脇腹辺りをは思い切り殴った。勿論グーで。

「いてっ!」
「長い!殺す気かこのエロっ!!」
「そのエロに惚れてるのはだぁれ??」
「知らん!」
「ははっ、顔真っ赤」

ドスッ!、べったりと引っ付いてきたバッドの腹をもう一発殴る。顔を控えてやるのはせめてもの情けだ。
いててと顔をしかめながらも嬉しそうに笑うバッドを、白い目で見やってはフンと鼻を鳴らす。
ちょうど胡座をかいた足の上に頭を乗せるの脇腹にバッドが手を差し込んで持ち上げた。
背中越しの体温がバッドの胸板にじわりと染み込む。

「―……一緒に居て」

の首から肩に掛けてのラインに自らの顎を乗せて、そう囁く。
溜め息の後に、静寂。

「じゃあ初めっからそう口で言いなさい!」

勢い良く背中に体重をかけてきたを抱きとめてバッドは静かに相好を崩す。
するり、抱き締める腕をさらに絡めて繋がりをより強固なものにすると、“こそばゆい”が身じろぎをひとつ落とした。



04 



(この優しさにたどり着くのが俺だけになれば良い)


++あとがき+++
なんか無駄にほのぼの。バッドお相手で甘ったるいのを書きたかったのに な ぜ に
Mr.ドン相手にならデレも見せるくせにバッド相手だと急にツンに磨きが掛かるワイフでした(爆)終盤は若干のデレを垣間見せましたけども←黙れば
バッドならば上半身どころか素っ裸で寝てそうな気もやぶさかではないですが色々越えてはいけない壁がありますので自重(くたばれ)
海外スターは裸で寝るという偏見でs(ry
バッドの抱き枕と化したワイフ。冬場はまだしも夏は暑苦しいとかお星さま達にうっかり愚痴って真っ赤になってればいいと思うの。
Mr.ドン、クリフォード、バッド、どの彼女バージョンにしろワイフは何だかんだで墓穴を掘る子。楽しいツンデレのすヽめ←…
全国のバッド・ウォーカーファンの皆様すみませんでした(爆)


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