“試合、終了―――!!!”

実況席から音響を介して高らかに声が告げる。
の高校三年間の幕を閉じる最後の試合が、今終わった。
フィールドの中央で列をなし互いに礼をしあうとそれぞれに背を向ける選手達を、正確にはその中にいるを本庄は見ていた。

白地に青と黒のユニフォームは先ほどまでの試合を物語るかのようにあちこちにその痕を色濃く残す。
感慨深そうに伏せられた瞳は吸い込まれるような色をたたえていた。
きらり、とヘルメットが太陽の光を反射する。
は静かに、ホワイトナイツとしての最後の試合を受け止めているのだろう。
切り取った一枚の情景のようになにもかもがひっそりと華奢な背中を気遣いながら取り巻いているように見えた。
それを、本庄も静かに見守る。
かける言葉はきっと無用だ。
いつだって、前を向いて走ってきた彼女はもう一度瞬き、そしてサイドラインをすり抜けた。

「―本庄さん」

試合の終わった後の、普段より少し凛々しくゲームの最中よりは穏やかな特有の表情。
標準より少し高めののっぺりとしたフェンスを挟んで笑いかけた本庄に、も笑顔で応えた。
晴れやかな、抜けるようなその顔がより本庄の笑みを深くさせる。
隔たりに柵がないのをいいことに、本庄はその右手をの頭に乗せた。
ヘルメットをかぶってもそこまで大くずれしたことのない、のトレードマークとも言えるあちこちに跳ねさせた髪の毛をポンポンと撫でる。

「三年間おつかれ、頑張ったな。

ねぎらいの言葉をかけると、少しだけを纏う空気が揺らいだ。静かに。
微笑みが落とす僅かな寂しさが、それでも強い輝きを放っているように見えた。

その名に違わず誇り高い騎士のように、まっすぐに立つその姿が、すべてが、やはり本庄は好きだ。
まだ成長過程を抜け出し切れていない体躯や軽やかな声色に、戸惑いを感じたのも感じるのも一度や二度の話ではない。
問題だとは言いたくないが、ただの差異だと笑えるほど、歳の差は浅くはなかった。
それでも、―それでも


「は・・・い?―え、本庄さ、ぅわぁ!?

ふわりとの足が宙に浮く。
爪先が、軽くの胸元まであったはずの深緑のフェンスを乗り越えてスタンド席のほうへ。
それが本庄に抱き上げられたのだとが気付いた時には―額に、リップノイズ。
軽々と持ち上げられたまま放心していたが状況を理解するまでの間、まだフィールドに立つ選手やスタンドに残っていた観客たちの視線を根こそぎさらうには十分過ぎる時間だった。
ぎゅ、と逞しい腕が回されて、しらじらとの頬が熱を帯びて染まっていく。

「ほっ・・・本庄さん!おおお降ろしてください今私砂だらけでっ、ぼっ、防具!防具も全部そのままそれになんだか視界の端で高笑いしてる蛭魔くんが・・・

おたおたと収められた腕の中でが慌てふためくも、本庄は腕を緩めなかった。
左腕一本の力での体を抱え、右手は髪を梳いたまま、本庄は額をの肩口にうずめて微動だにしない。
それはかみしめるように、という表現がしっくりくるような力強い所作。



ようやく顔を上げた本庄は(それでもを抱え上げたままで)を呼ぶ。
たしなめるような瞳で本庄を見下ろしたは思わず息を呑んだ。
たじろいでしまいそうなぐらい、ひたすらまっすぐに真摯な眼。
いつだってゆったりと微笑んでいる本庄から笑みが消えるだけで、その眼差しは思わず居住まいを正してしまうほどに強い。
それは緊張から来ていたものだと気付くのは、大分後の事。

「―?ほん、じょうさん」

戸惑いが、の声を詰まらせる。
どこか焦がれるような空気を、雰囲気を纏った本庄をは今まで見たことがなかったのだ。
だからこそ、何かあるなら話してほしい、打ち明けてほしい。
しかし告げられた言葉は少しも予想だにしなかった意味を持って響いた。

、好きだ―結婚してくれ」
「っ本庄さん!!?」

こぼれ落ちんばかりに見開かれた瞳が忙しなく瞬いて揺れる。
信じがたいこの展開を、すんなり受け入れられる程の処理能力などにはもちろん備わっていない。
嬉しいやら恥ずかしいやらでぐずぐずになってしまった頭はそれでも必死に現実に追いつこうと躍起になって
しかしその甲斐虚しくふりだしに戻るしか、道はなかった。
再び顔を真っ赤にして唖然とするの目は、ゆるゆると水の膜に覆われていく。

「なっ、なんで今言うんですかぁ・・・!」

は素直だ。
本庄からプロポーズをされれば嬉しいし、それを沢山の人に見られればやはり恥ずかしい。
どちらにせよ、こみ上げてきた涙で上擦った声でそう言ったに、本庄はようやく少し微笑んだ。
幼い子供にそうするように頭を撫でて、言い含めるように言葉を交わす。
やっていることはまるで子供を宥める親のようだが、言っていることはまったくその逆である。

「我慢の限界。俺もう無理だ。理性が切れた」
「〜っ・・・」
「それに、」

端々に苦笑いと愛おしさを滲ませて本庄は言う。

「軽々しく言うもんじゃねえからな、これは」

いずれ、必ず、と、約束はしていた。けれど本庄はやはり、気掛かりだったのだ。
昔のことや、歳のこと、これからの鷹やのこと。
自身に負い目がありすぎる、そうどこかで思っていたから核心に触れる言葉は中々出せなかった。

だから、

「―やっと言えた」
「本庄さん・・・」
「好きだ、。ずっと、一緒に居てくれないか」
「―――……‥」

ころり、と隠しきれない涙が一粒、溢れての頬を滑る。
本庄さん、と震える声でもう一度呼ばれた名前には切ない響きがこもっていた。
それまで行き場を失っていた掌が本庄の肩に添えられる。
涙を弾いた睫毛が優しい光を湛えていた。

「わたしが断る理由が、どこにあるんですか・・・?」

まるでその答えしか知らないと言うように何のためらいもなく、はそう微笑んだ。
瞬いた拍子に次々涙が流れて火照った頬の熱を持つ。
花が綻ぶような、そんな笑顔を浮かべると額を合わせて、本庄は太陽のように笑った。



 12 




++あとがき+++
や、やりきった―――――い!
出ました!!外野手本庄勝必殺フェンス越えプロポ――――ズ!!
本庄さん夢を書くに当たっては絶対やってみたかった、やってみたかったシチュエーション!!ムフー(二回言った)
卒業、101回目のプロポーズなみに印象に残ること間・違・い・な・し!!
ヒル魔にはちゃっかり脅迫手帳に収納されてたり、鷹が非常に残念な顔をしてたり、次の日のスポーツ新聞の一面飾ったり月刊アメフトでぶち抜き特集されたり、何年後かに“あの人は今!”的な企画番組で取り上げられたりして夢主は照れ死にしそうになってると良いな!←鬼畜
【CERAMIC】初プロポーズは本庄勝さんでした^q^うぷぷ
しかしこの二人はどこでもいちゃつきますね(オイ待てコラ)


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