かしゅ、形容しがたい音でパンフレットの紙がこすれる。
黒地に鮮やかな色の車体が映えて写し出されたそのページを、本庄はどこか浮かない面持ちで見つめている。

が、車なぁ・・・」

ぽつり、そう呟いてパンフレットの青い車を骨ばった指先がなぞっていく。
本庄の向かいに座って書類やらなにやら細々としたものに目を通していたは、本庄の独り言に顔を上げた。

「何も無理して買わなくても」

先日から本庄はずっとこの調子だ。どうも今回の買い物に乗り気ではないようで。
しきりとにこう言っては考えを改めるよう言葉としては遠回しに遠回しに態度としては顕著に伝えるのだ。
普段はきはきとものを言う人だけに、その姿はどこか見慣れない。普段はあまり似ていないと絶賛される本庄親子だが、この時だけはまるで鷹のように本庄は振る舞うのだ。
向かいのソファーから本庄の隣に移動したは、苦笑いをこぼしながら注意深く言葉を選んだ。

「必要に、迫られて、ですよ。その方が本庄さんも楽でしょう?」
「別に送り迎えぐらい、いくらでもしてやるよ。車の運転は嫌いじゃない」

トン、とパンフレットの表紙を叩いて閉じる。
本庄の目は本気だ。
真剣な眼差しを受けたは、また苦笑いを落とした。

「困りましたねぇ」
「困ってるのは俺のほうだ」
「それはそれは、失礼しました」

本庄の肩に頭を預けて、視線を合わさずにわざと明後日の方へと流す。
大きな手の甲に触れた指先はすっぽりと本庄の右手に収まった。
繋いだ手はそのまま離さずに、は静かに目を閉じる。
ふぅ、と本庄が溜息を吐いたのが肩口から伝わってきた。

「これでも一応自動車学校では一回も補習をうけませんでしたよ?」
「向こうから突っ込んで来るって事もあるだろう」
「それも考えて安全性のいい車を選んだじゃないですか」
「・・・絶対に安全だって保証は、ない」
「またそんなこと言って・・・ディーラーさんが聞いたら泣いちゃいますよ」
「だからってこっちが泣きをみるのは御免だ」

頑なに折れる素振りを見せない本庄に次第にの肩が震え出す。
いつもなら強い光を宿して真っ直ぐに向けられるはずの視線が瞼の下に隠れたのを境に、さざ波のような笑いがリビングの空気を揺らした。

「っふ、あはは。本庄さん、そんな、この世の終わりみたいな顔をしないでくださいよ」
「・・・何とでも言え」

たまらずふきだしたに憮然とした様子でそう言うと、本庄は体を向き直してを引き寄せる。
すっぽり、手のひら同様にいとも容易く本庄の体はを腕の中に閉じ込めた。
逞しい首筋から鎖骨にかけてのラインとの額から鼻筋までのラインがまるでパズルのピースのように(そのためだけにあつらえたように)ぴったりと沿う。
またしても本庄の吐いた溜息がの髪に触れた。くすぐったい。
けれど身じろぐ隙間すらないほど本庄の腕には力がこもっていた。(けれども力強さはなく)(きっといつものような、積極的な力とはまったくベクトルが違うのだろう)

「――……あー・・・・・もう駄目だ。我慢しようと思ってたけど、出来ねえ。
「はい」
「やっぱり車は駄目だ。心配すぎる。あんな鉄の塊に、しかも一人で?冗談じゃない」

それまで決して口にしなかった「駄目だ」という言葉を放ったとたん、堰を切ったように本庄の一番根っこにあった気持ちが溢れ出す。
あまりに過保護なその言葉に、はおかしくなってしまった。(だって、本庄さん、私が今まで世界一危険なスポーツと言われてたアメフトしてたのを知ってるのに)(そんじょそこらの男の子にも負けなかったぐらいなのに)(なのに心配すぎる、なんて、そんなのおかしい)
くるくると猫のように喉を鳴らして笑いを堪えるに、本庄はもう構わない。

「もう納車まで決めたのに・・・」
「俺が全部なんとでもするさ。はなんにも心配しなくていい」
「鷹にまた叱られちゃう」
「お母さんに厳しくする悪い息子にはお説教だ」
「えぇー・・・?」

胸のつかえが取れたからだろうか、もはやの与りしれぬところまで一気に話が進んでしまったようだ。(ドラマの第一話を見てすぐに最終回のラスト15分を見せられた気分)(けれどこれはドラマとは違うから巻き戻しなんか出来はしないのだ。色んな意味で)

「心配性ですねぇ」
「いくらあっても足りないさ」



  どうしようもない

(結局、本庄さんは本当に、有言実行をしたのでした)


++あとがき+++
イエス!KA HO GO !!(※注 過保護)
いい大人のくせにさんのことになると途端に過保護になる本庄さんイエス!
自分は余すことなく自家用車を活用してるくせにそのことをすっかり高い高い棚に上げてる本庄さんイエス!
むしろ鷹のほうが「このままじゃがダメになる・・・」とかオカン的な心配してたらいい
母を溺愛しすぎる父の姿を見て自分がしっかりしなくてはとか思ってたらいいYO!

【CERAMIC】はどこまでも嫁を至上とする本庄さんを応援します!←オイ

  タイトル*ララドールさまより


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