※ ジャンプ8号ネタバレ注意
うわん、会場の空気がたわむ。
試合日和の晴天に、思わず息を呑むぐらいの大音声が響き渡っていた。
頭のてっぺんから出ているんじゃないだろうか、それぐらい、騒々しい。
「我々はァ!このミリタリア国旗の元に!軍人として弱小国日本を殲滅するゥ!」
「うわぁ…」
客席の一角に国旗を掲げ戦場に赴く軍隊さながら選手たちに檄を飛ばす声には、関係のないはずのまで身をすくめたくなった。
後ろ姿だけでも、剃り上げた頭には青筋が浮かんでいるのが見える。アキレスや番場やサンゾーよりちょっとかなりだいぶ怖い。
阿含の背中に付き従うように歩いていたは、できるだけその差を空けないように心掛けた。あと目を合わさないように。
コンクリートを踏みしめて、出来るだけ前のほうに視界を定め、いつものように猫背気味に、ひょこひょこと歩みを進める。
それが逆に、反射神経を鈍らせる結果になると、誰が予想できただろうか。
「なァんだそのふざけきった頭はァァ!!」
頭の上から怒号が降り注ぐ。
が辺りを見回そうとしたときには、はらり、阿含のドレッドが足元に横たわっていた。
立ちすくんだまま、言葉が、でない。も、阿含も。
顔から、血の気が、引くのがわかった。
だってついさっきまで、目の前にあった、見慣れた髪が、
「―あ、あああああああ阿含くんんんん!!!!かみ、髪の毛が・・・・やっ、どうしようぅ、ばっさり、うそっ」
止まっていたの手足が時を取り戻す。
おたおたオロオロと右往左往するの、跳ねた薄茶も同様に狼狽えていた。
太陽の光を浴びて存在感を増す髪の毛にも、同じ運命が迫り来る。
身長は、阿含175p、179p。
の頭は、なおいっそうバリカンに近かった。
「柔ァァァい!貴様もだ蛆虫ィ!」
「きゃ・・・」
「っ姐!!!」
銀色の刃がきらり、翻る。
ぞり、と鋭利なものが毛先を掠る感覚に足が竦んだ。動かない。
ぱらぱらと散る。シャープペンシルの芯ほどの長さの髪が、数本。
それ以上地面に落ちることはなかった。
「、大丈夫か?」
こめかみの辺りに優しい声。
追って、後頭部と肩にじんわりと温かな掌の感触がを包んだ。
深く息を着く。知らず知らずのうちに固く握り締めた手指の強張りを解いた。
守るようにを抱き締める人がそこには居る。
「――……‥本庄、さん?」
「びっくりしたな。もう平気だ。怖かったろ…?」
見上げると、ほう、と本庄が息を吐いたところだった。
確かめるように襟足の髪に指を絡めて、目を細める。
髪を断つ刃物は、数本を持っていっただけで済んだようだが、それでも本庄の眉間には悲痛な皺が刻まれた。
ぎゅう、ともう一度抱き締める腕に包まれる。
ようやく肩の力が抜けたは、額を本庄に預けた。
「母さんっ」
「た、鷹・・・」
「顔色が悪い、大丈夫なの?」
「へ、平気、ちょっと、びっくりしただけ・・・」
プロテクターもユニフォームも全て付け終わっていた鷹が焦りを片手に走ってくる。(人目もはばからずを『母さん』と呼ぶあたり相当だ)
本庄とよく似た様で溜め息を吐くと、じろりとミリタリア側を睨み付ける。
顔をしかめた息子の肩を本庄が叩く。宥めるように、ではない。
誘導するようにと鷹を並び立たせると、本庄は首をもたげた。
獲物を定めるように。
「鷹、に付いてやっててくれ。すぐ戻る」
「父さ、」
「―頼んだぞ」
有無を言わさぬ声。鷹の言葉を遮って、本庄は声を低くする。
「あり得ないだろあの野郎・・・ぶっ殺す」
「!!」
「ほ、本庄さん・・・!」
据わった眼に、唸るような最低音域を這う言葉。
が獅子、パンサーは黒豹、ならば本庄はその上を行く。
夫としても父としても、見せたことのない表情に、妻と子どもはひたすら戸惑った。(あんなに、怒ったことなんて)
最愛の家族ふたりが見守る中、本庄はミリタリアのコートに足を踏み入れる。
「ただでさえ弱小国日本の補欠ごときが」
「やあ、ちょっといいかな、ゴメリー選手」
言葉では友好的に、しかし実際はいつかの阿含がアキレスにした時のように、その大きな手のひらはゴメリーの頭を鷲掴みにしていた。
みし、不吉な音を、つるりとした頭が発している。
かつてはプロ野球で史上最強のフィールダーとしてその名を轟かせていた人だ。
当然ながら、その身体能力は現役を退いた今でも平均値をはるかに上回る―握力も。
「大人がみんな、未成年に優しいと思ったら大〜きな間違いだぞ?うちの大事な嫁に何かあったら君は責任がとれるのかな」
にっこり、表面上は穏やかな笑みで、綺麗な発音の英語で、けれど右手は美しい腱が浮き上がるほど力がほとばしっていた。
笑顔と微笑まない瞳の温度差は、万国共通で見るものに脅威を与える。本庄のそれもまた、効果は絶大だ。
反論どころか、抵抗も、ただの言葉すら許さない。ゴメリーの顔から、血の気が引いてゆく。
「――……二度とに近寄るな。わかった?」
「さ、サーイエッサー!」
万力のように、締め上げる力が最高潮に達した瞬間に震える敬礼がゴメリーの喉から飛び出した。
君の怖いものは全部殺してあげる
(「い、いつもの本庄さんじゃない」
「あんなマジギレMAXの本庄さんなんて始めて見たっス」
「が絡むと人変わるんやなぁ」
「ケケケケケ!いーんじゃねぇの?丁度良い脅しができたじゃねぇか」
「フー、やれやれ・・・君って男は」)
++あとがき+++
久々にいつもの本庄さんが書けた気がします。
関東の理事長が飛行機に乗っていたなら本庄さんだってきっと居るはず!そう意気込んだ初の王城夢主ユース大会編(笑)
愛妻家本庄勝、国境を越えユナイテッドステーツでマジギレ
ちょっとMr.ドンが頭をよぎりました。独占欲強いお嫁命な腹黒S同志!(誤字にあらず)
ちなみにこの後本庄さんは関東理事に叱られる運命^^
阿含のドレッドがアウトならば王城夢主はもっと駄目だろうという妄想。
ヤンデレ気味の本庄氏は書いてて非常に楽しかったです
あとファミリーな鷹。ビバ親思い。
最後の台詞は上から夢主・モン太・平良・蛭魔・赤羽の順番
やっぱり嫁ネタが一番好きだな!
タイトル*ララドールさまより
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