※ 315th down「五芒の星」ネタバレ注意
高く、白く、時に蒼く、穏やかな雲は風にたなびく。
スタジアムに切り取られた抜けるような大空の、上空に、―人。
「アメリカ五芒星ペンタグラムを代表してご挨拶だ!決勝へようこそ、チームJAPAN…!!」
「ナニ アレ…!?」
「きゃぁああぁ!人ー!?」
「うお飛び降りた」
「危ねぇっ!!」
ヘリから伝う縄ばしごが風でうねる。
決して命綱や、パラシュートなどない。正真正銘の一人の人が、その痩身で宙を舞った。
ひらり、黒衣の布が大気を孕んでぶわりと波打つ。
事故ではない、意思を持った身体が着々と地面へ距離を縮めていった。
― ドゴム!!
なんの変哲もないフィールドに土煙が上がり、星条旗の使者目掛けて立ち上る。
あと数メートルの落下距離に目を見開く日本選抜を笑うかのように、客席からは耳をつんざくような歓声が上がった。
着陸の時が迫る。
「いぃ!?なんで…」
「ばーか、バッド・ウォーカーが危ねえわけ…」
考えるよりも早く、一匹の獅子がフィールドを駆ける。
空を裂く人に手を伸ばした―その体躯と大地の間に。
「―――――!!」
ズザァ、と土埃がコートから削り取られる。
二本の脚で大地を踏みしめる獅子のたてがみがはらり、不規則に乱れて跳ねた。
はぁあ、と深いため息が強ばった肩と共に落とされる。
「ま、まにあった…」
『――……………』
しん、会場が静まり、爆炎最後の名残が天に溶けてゆく。
誰もが瞬きを忘れて、その景色を凝視した。
おとぎ話の一ページを切り取ったような、その、光景に。
「ハ?」
「はぁ!?」
「はぁああぁあ!!?」
お決まりの、叫び声。
会場全ての、全世界の疑問を、十文字・黒木・戸叶が代表した瞬間だ。
後輩の叫びが起爆剤となって、蛭魔が高らかに爆笑する。
「ケケケケケケケケケ!!オメー何してやがる糞!白馬に乗った王子さまかバーカ!!!オイ、糞マネ写メ撮れ写メ!!21世紀に王子さまが現れたぞ!!」
「ちょっと、そんな言い方ないでしょ!ちゃんはあの人のことを心配して…」
「やー!姐カッコいー!」
「お前鬼最高!!」
「へ…?」
ぽかんとしたまま立ち尽くすの両腕は、中途半端に持ち上げた形のまま、その腕の中には今まさに空から飛び出して来たバッド・ウォーカーの姿があった。
と同様目をぱちくりと丸くして呆けるバッドの肩を右腕が、左腕は膝裏あたりに、それぞれを支えて抱き上げる。
上背の分長い手足とアメフトで鍛えられた筋力が、性別の壁を超えた証だ。
その姿はまるで―
「また上手いことお姫様だっこて……おま、〜」
「………母さん」
「知らんでー世界30か国に配信されてまっても」
「え、えぇ…?だって、つい夢中で その…えっと、ご、ごめんなさい」
おろおろと視線を彷徨わせながらも、腕はしっかりとバッドを持ち上げていた。
小さなパニックに陥ったに、「降ろす」という概念はなかなか生まれないらしい。
フィールドの一角が異質な空気に包まれていった。
「ぶっ…くっくっく、つくづく愛すべき性格してるな、は」
「らしいと言えば彼女らしいが…」
「あー…もう、やる事なす事いちいち可愛い。俺ほんとあの子大好きだ」
少し離れたところで、本庄が相棒にそう零す。
相変わらずなその様子に、関東理事は呆れたように小さく溜息を付いた。
「ははっ、取りあえず彼を降ろしてあげようか、」
ようやく動揺とどよめきが収まりかけた会場で、大和がの肩を叩く。
はっと我に返ったがやっとバッドを地面に降ろす頃には抱き止めた両腕がじん、と痺れかけていた。
「あぁああぁの…!!ご、ごめんなさい…えと、あの 一応聞きますけど、お怪我は…?」
「かァ〜、こんな時まで王子さま属性っちゅう話だよ」
「ンハっ、まーそこがの良いところだって!」
「だから反省してるってば〜っ……」
妙な負荷が掛かって皺になったシャツの砂埃をぱたぱたと払いながらは眉を八の字に下げる。
円子や水町に気を取られていたの腕が唐突に動きを封じられた。
しっかりとした手指が、忙しなく働いていた手首を掴む。
じぃ、と観察するような眼差しにが身じろぎをひとつ落とすのとほぼ時を同じくして、今度は腕だけでなく全身の自由を奪われていた。
「ははははは!何だこの可愛い生き物!!」
「きゃあっ」
「素面で横抱きとかめちゃくちゃいいキャラしてんじゃねえか、好きだぜそういうの!いいなこの子日本の?ウチのチームに貰ってもいいか?」
「うわわわわわぁっ!?」
がばちょ、音が聞こえてきそうなほどバッドがに抱き付く。
その長さを余すことなく活用して腕はを捕らえていた。
あたふたと焦るを後目に、上機嫌な声が弾む。
あながち冗談ではないバッドの言葉と行動に客席に残る三人の星達は一様に頭を抱えた。
「腕も体も細いけど随分鍛えてんだな。アメリカンフットボールプレイヤーの身体だ。抱き心地も申し分ねぇ」
「あ、あの……?」
「俺はバッド、アンタは?」
「え、あ、えと…、です」
「、か。綺麗で良い名前だな、俺好みだ」
「いい加減人の母親口説くのはやめてくれないか」
バッドのペースに流されかけていたを取り戻すように、凛とした声が言葉を遮る。
べり、音がしそうなほど、鷹がバッドを引き剥がしてから遠ざけた。
庇うように背中にを隠して(正確にはのほうが大きいのだが)じろりとバッドを睨む。
視界の端っこでは大和と平良が爆発的に笑っていた。(あとで手持ちの中の一番ぶ厚い本の角で殴ってやろう)鷹は密かに心で誓う。
「母親……?」
「母親だ。僕の父の大切な女性なんだから気安く触らないでくれ」
「なんだよ実の父親に恋人盗られたとかそういう系?」
「はそんなんじゃない。俺の家族だ」
茶化すようなバッドの言葉を一蹴して、赤羽のように溜息を吐く。
安っぽいドラマの睨み合いのような雰囲気を壊すようにバッドの頬をアメフトボールが掠めた。
「ぅお、あっぶね!」
「!え、あれって」
「現役の頃に比べたら球速ちょっと落ちたか、年は取りたくねぇなぁ」
「本庄さん!」
ボールの発射地点を辿って行き着いた先には悠々と歩く本庄の姿がある。
右手をひらひらとさせながら小首を傾げる本庄だが、実際投げたのは確実に豪速球に分類されるものだ。
あからさまに『殺りにいく』意思の込められたボールは大きく跳ねて、鉄馬の右手に捕獲される。
今度は遠くで関東理事と熊袋が、頭を抱えていた。
「」
「は ―ぃっ!?」
「消毒」
「わぷっ!ちょ、待っ、ほんじょ…さんっ」
ぎゅうぅ、先程のバッドの抱擁を書き換えるように本庄の腕がを抱き締める。
片腕でを捕まえ、もう片方は髪や頬に優しく這わせながら本庄はバッドと向かい合った。
「俺の嫁に手ェ出すってんなら相手になるけど」
「本庄さん目が笑ってませんっ!」
ラブコール殺到
(数秒後、バッドはその側頭部にクリフォードからの強烈なロングパスをくらうことになる)
++あとがき+++
バッド・ウォーカー(18)が意外にアホの子だった件について(爆)
なんかスカした2枚目(←)を想像してた菱としては非常にキュンとくる設定でした。(全国のバッド・ウォーカーファンの皆様すみません)
というか315th downはいろんな意味で衝撃的で…(/_・、)
あのスカイダイビング的な場面を見てふと妄想→降ってきたバッドを夢主がプリンセスホールドとかどうだろう→そして意外とバッドVS鷹とかになったりして→結果バッドVS本庄ファミリーという形に(笑)
ミリタリア戦に次いでお父氏と息子は大忙しです
「どいつもこいつもうちの嫁に手ェ出しやがって…」とか本庄さん多分思ってる
初期に比べてだいぶ大人げない大人になりつつあるバイオレンスな本庄さん(笑)
世界30か国に本庄ファミリーが知れ渡ってしまえばよいよ(・∀・)←おま…
ヤンデレぐらいがちょうど良い(ちょ)
ユース大会編楽しいな。
ペンタグラムと王城夢主を絡める方針でもっと書きたいかも…
タイトル*ララドールさまより
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