すぅ、いつもはやんわりとした笑みを纏う横顔が緊張した面持ちで唇を引き結ぶ。
まだ学生のの正装は、学園のブレザーだ。
羽ばたく鷲の校章が、左の襟できらりと瞬く。
二色のバリエーションのうちの真っ白なほうのカッターシャツに袖を通し、これも双色のうちの黒いネクタイを締めた姿は、いつもの黒に山吹ではない見慣れないスタイルというのを差し引いても普段のとは違っていた。

重々しい、コンサートホールのように両開きのスイングドアは、今は閉じられたまま沈黙を貫くが、この先にある空間が、雰囲気が、どれほどに重圧をかけるだろうか。
刻限になれば口を開き、を飲み込んでしまう扉。
本庄は手前までしか付き添えない。この先は、ひとりで行かなくてはならない。
ぎゅ、とが固く拳を握り締めた。



必死に正される肩に、手を置いて抱き寄せる。
顎の下、首筋辺りに収まった旋毛に唇を寄せて本庄は腕に力を込めた。
ゆっくりと、顔を離す。
本庄を見上げる眼差しは硬い。けれど、揺るがない。

(―つよい子だ)

今度は額に唇を落として、本庄は心の中でだけ囁いた。
そっと襟元を正してやろうとした、本庄の指がぴくりとひらめきを纏う。
一度はへと向かった右手を、自らの方へと引き返した。

          * * *


しゅるり、滑らかな衣擦れの音と共に真っ黒で上質な本庄のネクタイが形を解く。
長く逞しい指先がひとつの形を失わせていくのを目の当たりにしては目を丸くした。
一本の帯になってしまったネクタイを本庄はの肩にかけると、先程と同じようにのネクタイも解く。
するすると引き抜かれていった襟元の閉塞に釣られるように、は本庄の名前を呼んだ。

「本庄さん…?」
「俺は、待ってることしか出来ないから」

カラーを立てていく指先が少しだけ首元に触れて、灯るように、温かさを残す。
髪の毛を巻き込まないように細やかな注意を払って、同じ色の、ほんの数分前まで本庄の襟を飾っていたネクタイが今度はのシャツに結ばれていった。
一挙一動に心を込めていくように丁寧に、指先はウィンザー・ノットの手順を踏む。
本庄と過ごすようになってからはすっかり覚えた、フォアインハンドより複雑な結び方だ。
きゅ、と行儀良く収まった結び目を大きな掌が優しく包む。
温かい、穏やかな熱の宿る本庄のぬくもりが鎖骨の下を通って、の強張りを和らげた。

「代わりに、お守りだ」

そう言って、ネクタイの裏側に指を這わす。
滑らせた布を緩く持ち上げると大剣の下あたりに、厳かに口づけを落とす、その仕草に、の頬が熱を持った。
ブレザーの下に、ネクタイを戻す。
見た目はさして変わらない、けれども何よりも意味を持つ黒はあたたかい。
何にも縁取られていない本庄の襟元に、は腕を重ねた。
真っ白なシャツに頬をうずめて目を瞑る。しっかりと、身を寄せる。

「―いってきます、本庄さん」

いつも通りとはいかなくても、それに近付いた形では囁いて微笑んだ。
触れていたがる指先を下ろして本庄に背を向ける。
ただ前を見据えて、歩みを進め、扉を、押す。今は。
音もなく、ゆっくりと開いた先に、飲み込まれるのではなく自らの意志では部屋へと足を踏み入れた。

本庄の手にもある揃いの色のネクタイだけが、その先の行方を知る。










(確信にもよく似た祈りは、彼女の襟を彩った)


++あとがき+++
本庄さんとネクタイ交換とかもうこれどんな夢ですか(←夢だよ)
本当は受験シーズンまで我慢するつもりだったんですがご存知の通り出来ませんでした
頑張るあなたに捧げます!
以前チャットでも熱いトークを繰り広げたのですが、もうスーツとかネクタイとか…ネクタイの破壊力は国が一つ滅ぶほどの脅威です。ホントけしからん(*´д`*)大事なことなので二回言いますけしからん。だがしかし菱の場合はむしろ本庄さんがけしからん←…
ネクタイは結ぶより解く方が色っぽい魔力がありますよね!悶絶!(←ばか)
それにしても始めはネクタイ交換するだけだったのに本庄さんいつの間にチューを…(オイ)
ネクタイを引っ張ってる(持ち上げてる?)本庄さんとかもう最近拝見した言葉を借りるならばはげ萌える
(『大剣』はネクタイを結んだ時正面にくる布の所の名称らしいです。多分ネクタイの広い幅の方のことだと思って書いてます。)
てか何かしら重要な場の目の前で…何度か言ってますが 何 処 で イ チ ャ こ い て ん の お ま い ら (・∀・)
いや、夜中に夢を書き始めると思いもよらない事になりますね^q^(お前だけな)

ちなみに帝黒の校章=鷲とかは一度花梨がはめてたのを見たきりでかなり適当なのでスルーの方向でお願いしまsssssss
シャツ・ネクタイに関しては大和・花梨は白シャツ、鷹は黒シャツだったので勝手に二色あることにしました。ネクタイの色とかもスルーの方針で(爆)

タイトル*流星雨さまより


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