真っ白なシャツに、真っ赤な、とまでは行かないがのキスマーク。





左の襟の、第一ボタン寄りに位置する所にくっきりと形を残す口紅の痕跡に、目を見張る。
確かめるように二、三回瞳を瞬いてみても、やはりそれは映画やドラマで見かけそうな姿を保っていた。現実で目の当たりにしたのは初めてだ。


まさか、と信じがたい気持ちばかりが頭を占める。
だからこそ、反応が遅れをとった。

名前を呼ばれて、振り向いた先には、このシャツの持ち主である―

「―――

さあっ、との顔が青ざめていく。
こぼれ落ちそうなほど見開かれた眼差しが本庄を射抜いた。

そして

「っキャ―――――!!!!」

ひどく敏捷な、試合中を彷彿させる仕草で、“は”本庄“の”手から学園指定のシャツを引ったくった。

「ち…違っ、これは、そのっ、ご…ごごごご誤解です本庄さんっ!!」

あたふたと全身で動揺するを見て、本庄は複雑な気分に陥ってしまいそうになる。
自身のシャツにアイロンをかけるついでにと、目に付いたハンカチやブラウスや、件のキスマーク付きのシャツを拾い上げてしまったのが可哀想になるほどは追いつめられた表情に磨きを掛けていた。
これが本庄や鷹のシャツであれば殊更に問題であるが、今まさに手にしているのは何を隠そうのシャツである。(いや、違う意味ではの方が大問題だが)

………これはその、どうしたものか。

女の子のの襟元に口紅、別にそれを咎める気はさらさらないが、放任もしかねる本庄はとにもかくにも困惑してしまったのだった。
(本庄の困惑以上に混乱してうちひしがれるを見て、すぐに我に返ったのだが)

、叱ったりしないから、落ち着け。な?」
「ほ、本庄さ〜ん…」
「よーしよし、いい子だ」

頭を抱えて縮こまってしまったを何とか宥めるべく、本庄は強張って丸まった背中に腕を回して柔らかな髪に顎を埋める。
節を付けて背中や頭を撫でながら、ひたすら疑問をオブラートに何重にも包んで静かに時間をやり過ごした。
の額が鎖骨辺りに収まって髪が微かに首筋をくすぐる。沈黙が、耳に痛い。
自身の顔を覆っていたの両手のひらがそろりと本庄の背に回った。

「こ、このまえ」

ぎゅう、しがみつくように力のこもった指先は、どこか必死に本庄に縋る。
…声も、心なしか震えているような。

、いやなら無理に言わなくてもいいんだぞ?」

そっと呟いた本庄の言葉に、は顔を上げないまま、子供がそうするようにいやいやと首を左右に振るった。
なお一層力のこもった腕に本庄は口を噤む。
呼応するように抱き締める形を取りながらの次の言葉を待った。

「部活の、マネージャーをやってた、OGの先輩が、高校のほうに、練習を、見に来てくれて、それで、すこし、話を、」

5W1Hの手順を踏んでは話す。
…言葉を重ねるに連れて段々顔色が悪くなっているのが非常に気になるところだ。

「はじめは、平良さんと、天間さんも一緒だったんですけど、そのうち、二人が離れた時があって、そのあと、な…なんて言うか、えっと、ものすごく、ノリがおかしな方向に…なってしまって」

消え入りそうな声。昔からは年上からいじられる傾向が、年下からは頼られる傾向がある。
その場にいなかった本庄は推して図るしかないのだが、現に物的なアレが出てきている為、そう離れた予測ではきっとないのだろう。

「く、口は死守したんですけど」

つまりは、悪ノリしたお姉さん達のキス責めにあったというわけである。
女・子供、目上や友人と人類の大部分に優しくを地でいくようなには、振り払う腕力こそあれど選択肢がない。
なるべくして起きてしまった事だけにが不憫だ。
今度から多少なりとも“拒む”ということを教えてやらなければと本庄は思った。

「指輪じゃ足りなかったか…」

左手の薬指、まだエンゲージではあるが“悪い虫”以外には効果を発揮できなかったらしい。(むしろ余計と、彼女たちを焚き付ける結果になったとまでは、本庄もも知る由がなかった)
どうしたものか、取りあえずしわくちゃになってしまったのシャツは手洗いで何とかするとして、もう一つのほうの打開策を打ち出すべく思案を張り巡らせる。

にはまだ早いと思ってたんだけどなあ…仕方ないか」

そうひとりごちて、本庄は足をソファーのほうへと動かした。
やんわりと体を離して、互いの額を付き合わせるように向かい合って座ると、きょとりと目を円くするの顔に手を添えて額にキスを落とす。
軽く肌に触れるだけの唇を緩やかに滑らせて、額から瞼、目頭、頬を辿って同じく唇。それぞれの箇所へ丁寧に口付ける。
見上げる形で顔を上げていたの顎を僅かに持ち上げて首筋にもキスを。

「っう…?」

くすぐったそうに身を捩る背中に片腕を回す。
薄い皮膚を軽くなぞって、うっすらと唇を開いた所で痕を付ける。
ちゅ、僅かに立ったリップ音では首までを真っ赤に染めあげた。

「ほ、ほんじょうさ…っ!」
「大丈夫大丈夫、取って喰ったりしないから」
「違っ、というかあの、そこで話すとくすぐったい…」
「んー…」
「あ、あそばないでくださいよぅ…」

蚊の鳴くような声に、ふ、と息を吐く。
本庄の吐息が首筋を掠めた所為か、ひぃ!と肩を竦ませたに、少なからずくすぐられ始めた加虐心を鋼の理性で追いやると、かすかな悪戯に留めて本庄はようやく唇を離した。

「ま、こんなもんか」
「…??」

いまだに情けない顔のままで首を傾げたの疑問に気付かないふりをして、本庄は微笑む。
中指でまだ幼さの残る唇をなぞって、もう一度キスをする傍ら、ほんの少しはだけさせた襟や髪をさり気なく直して目隠しを作っておく。
さて、どこまで効果を発揮するか。
不謹慎とも取れるような本庄の画策を気付かないまま肌に隠したが、その意図に気付くことはまだなかった。









(結果的に、第一発見者は花梨、二次被害は鷹、第三者の視点で大和と天間、それぞれが違う意味で、神経や腹筋を酷使する事になりました)
(確かに効果は抜群のようで)


++あとがき+++
花梨は悲鳴、鷹は怒声、大和と天間は馬鹿笑い。
シャツにアイロンをかけてたら不意に思い付いたネタです^q^
冒頭でどこまで誤解を招くかが勝負所だったのですが、いかがでしょうか(笑)
アメフト馬鹿一代を地でいく夢主はルージュの伝言inシャツはともかくキスマークなんてものはまだ知りません。ので気を使うのはむしろ周囲
花梨ちゃんがやたらとどもったり、鷹が無言で絆創膏を差し出してきたり、大和・天間が床に沈むほど笑ったりと大忙し\(^o^)/<超 傍 迷 惑 !
後半の本庄さん書くのにものすごく体力使ったー!!
気を抜くとエロスに陥りそうになるもんだかrrrrr(殴)
あくまでさらりとしたつもりです。リアルに考えたら多分菱が失血死するはあはあ(主に鼻から)←最低
取りあえずハグキスが基本になりつつある二人^q^
自分だけが楽しんでる感満載な気もしないでもない(爆)男女逆転ルージュの伝言楽しかった!

タイトル*流星雨さまより


MENU