チャイムの音が苦手なんです。

透き通って、ビー玉のようにころりとした10代特有の通りのよい声が苦笑いをかたちどる。
大きくはないけれどしっかりとした輪郭の、おだやかにはっきりとした声はその人柄を表しているようだった。
きれいな、感じのよい喋り方が初めて会った頃からよく印象に残っている。

関東理事を交えた三人で、定期的に義務付けられた面談の後、熊袋と打ち合わせがある相方と別れ、帰路に着いた車の中でのことだ。
ハンドルを操る本庄の隣で、行儀よく座ったを横目に、他愛もない話をしていた延長上での言葉を繰り返す。

「チャイム?」
「はい。宅配とか郵便とか、そういうので玄関を開けると、ほとんどの人に身構えられてしまって…」

シートベルトの上で重ねた手のひらが上下組み替えられて、収まった。爪の短い、しなやかな手。まだ中学三年生になったばかりの女の子にしては、だいぶと大きいだろう。
手指だけが突出して大きいのでなく、隣に座る彼女は、同年代の男の子に比べても、世間一般の大人と比べても背が高い。

「“えっ?”ていうあの顔をされるのが苦手で、そんなこと言い出したらきりがないんですけど、だからあんまり、好きになれなくて。お店とかのドアベルも、ちょっと」
「ああ、それは分かるなあ」

本庄にも経験はある。そんなつもりはなくても、初対面の人に威圧感を感じさせてしまうのだ。
今でこそ慣れたが、何年経っても気持ちのいいものではない。
本庄ですらそうなのだから、平均を遥かに上回るはもっとはっきりとした態度に出されるのだろう。
遠慮がちな猫背ひとつとっても、が背丈をコンプレックスに思っているのは一目瞭然だ。
決して内向的ではない、人好きのする性格をしている彼女だが、アメフトをする以外では自信なさげに佇むことのほうが多い。
仕方のないことなんですけど、とまた苦笑いを零したの顔が、少し寂しそうにサイドミラーに映った。

          * * *


ちかちかと明滅だけを繰り返す携帯のイルミネーションは、白。未登録の番号から。
切り取った小窓のような背面ディスプレイには“Calling”の文字が浮かび上がった。
080から始まる数字のつながりは受話器のイラストの下でぱかぱかと点滅を繰り返す。誰だろう?
今日もいつもの面談の日だ。時間はもうすぐ二時半。本庄さんが迎えに来てくれる時間。
すぐに済むならいいけれど、長引いたらいやだなとは思った。普段は中々会えない、本庄さんに会える貴重な日なのに。
一足先にマナーモードに設定した静かな携帯の通話ボタンを押して耳に当てる。

「もしもし、です」
『ああ、くん。こんにちは』
「本庄さん!?」

機械を介して少しかすれた、けれど聞き間違えるはずのない声に思わず受話口を見やる。目をしばたかせる。
まるでそんなを目の当たりにしているように、くつくつと笑う声が携帯の小さな穴から漏れた。(は、はずかしい…)

『今着いたよ。玄関のところにいる。もう出て来れるかな?』
「え…あ、大丈夫です!い…今!今行きますっ」
『ああ、急がなくて―』

用意していた鞄を手繰り寄せて鍵を持ったままの手で靴を履く。
本庄が言い終わるより、が玄関をあける方が速かった。

『「…よかったのに」』

声が重なって聞こえる。
慌ててきたのが丸分かりだ。携帯を切るのも忘れていたなんて!
我に返ってももう遅い。顔中熱くなるのがわかった。さっきよりももっと恥ずかしい。
通話を切るタイミングを見失ったに合わせるように携帯を当てたまま、本庄は話した。

『「ほら、この前の帰りにチャイムの音が苦手だって言ってただろう?だから今度からは直接携帯にかけようと思って」』

“番号はアイツに聞いた”と事も無げに呟いて笑う。にこり。
表情の見える通話に、ごく近くで聞こえる声に、先ほどからの心拍数は上がりっぱなしだ。(それはもう、そろそろパンクしてしまいそうなぐらい)
そんなを知ってか知らずか、本庄が、ふ、と微笑みを零す。
ほんの少し空いていた距離を長い足で軽々と詰めると、携帯を支えるの両手をこれもまたやすやすと左手で包み込んだ。

『「おいで?」』
「…!!」

そんなとてもとても、心臓が持ちそうもない声で囁かれたが、たやすく気軽に電話のやりとりをできるようになるまであと二年。







(はじめてのラブコール)


++あとがき+++
なんてワルイ子持ちだよ(爆)
ただでさえ多感なお年頃の中学生にこの小悪魔的な仕打ちってなに。

これは、セーフですか?
―いいえ、一歩間違えば犯罪です

そんなワルイ子持ちの本庄さんの恋を【CERAMIC】は応援します\(^o^)/←…

電話口の声はけしからん最高。本庄さんけしからん。
まだ本庄さんが名字で夢主を呼んでる初々しい時代の話(笑)
呼び鈴のことを「ピンポン」以外になんて形容したらいいのかでものすごく悩みました。だってピンポンはピンポンだし…←おい大人
インターホンは電話メインだしドアチャイムはちょっと長い。ドアベルは喫茶店とかのからんからんってなるイメージが強い…ということで無難にチャイム。

何気に名乗る前から本庄さんの声を難なく聞き分けてる夢主がお気に入りです(・∀・)
もっと他人行儀にじれったく甘酸っぱい二人が書きたかったはずだったんですが…いつの間にやらとんでもないことに
結局恋人以上嫁未満期と大して変わりなかっ(殴)
背の高い人って結構じろじろ見られたり、身構えられたりすることが多いですよね女の子は特にというネタ。
しっかしこれ…ほんと犯罪だなぁ(きさま)

タイトル*ララドールさまより


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