しっかりと二の腕を掴んでしまった左手を見て、本庄は内心焦っていた。
なんの先触れもない本庄の振る舞いで不自然に、半固形ぐらいに中途半端で固まった室内の空気が居心地悪そうに静まりかえる。
ぱちくりと黒目がちな瞳を見開いたの足は、ソファーから半歩踏み出しかけて止まったままだ。本庄が引き留めるように腕を掴んだから。
「本庄さん?」
「あ…あぁ、ごめん。急に」
自分でも不可解な気持ちで、左手を開く。名残惜しがる感覚が指先に纏わりついた。(何故だろうか)
まだ、半日は自由に過ごせる時間だってある。何なら明日の朝一で送っていく事をが嫌がらなければ、もっと長く居ることもできるのだ。今だって別に、がどこかへ出かけるとか、そんなことでもない。(―それが、どうして?)
「なにか、ありましたか?」
そっ、と本庄に向き直ってが首を傾げる。さらりとした髪が肩から滑った。
「いや、ほんとに何でもないんだ。ごめんな」
ぽんぽん、と二回の頭に手を滑らせる。柔らかい手触りが心地よい。
思えばは、何かに気付いたのかもしれない。本庄自身すらわからない、なにか。
「―?」
「し、しつれいしまーす…」
些細な機微に敏感な、やさしいこの子らしいごく自然な振る舞いで、は本庄を包むように腕を回した。
抱きしめて頭を撫でるように右手が、背筋を労るように左手が、それぞれを愛おしむように触れる。
本庄の額に、唇が触れた。
「なにかあっても、なにもなくても…少し、こうしてましょう?」
きゅう、とまだ少し遠慮がちな抱擁。
本庄に比べれば断然の線は細いが、それを差し引いても抜群の包容力だ。
いつもは大抵本庄がそうするように、の手のひらがゆるやかに上下する。
誘われるように重心をへと傾けると、心得たように両手が本庄を支えた。
スポーツをする人間らしく危なげない自然な所作は、ただそうするだけではなく(これはむしろ人間性のほうが発揮されているのだろう)穏やかに、本庄の心を凪いだものにしていった。
の、こういうところに、つくづく本庄は感服する。
年齢差を微塵も感じさせないようなおおらかさや、根ざしたやさしさといったものが、ここまでごく自然に息づくことに。
「―」
名前を呼べば、声ではなく、纏う空気が本庄に応える。
顔を見なくても、が微笑んでいるのがわかった。安心できる、とっておきの笑顔。
遊ばせていた腕を両方の背中に這わせて、本庄は静かに目を閉じた。
ただひたすらに君を求める
(きっと100年経ったって)
++あとがき+++
本庄さんを抱きしめるニアーイコール職員室に入るときの緊張感がどうやらうちの夢主の認識らしい(爆)
「おじゃまします」か「しつれいします」かで最後まで悩んだという余談。
珍しく本庄さんを甘やかす話です。たまにはね!
夢主の包容力だってすごいんだぜってことを書きたかった。思っただけだった(白目)本庄さんを癒し隊。
よく「何かあったらいつでも〜」って台詞はあるけど「何かあっても何もなくても〜」っていう無償の関係が書きたかった。思っただけだった(白ry
大人の余裕しゃくしゃくの本庄さんが好きだけど、青臭い本庄さん(…)も楽しかったです。戸惑ってドギマギすればいいよ!(にこ!)(くさった笑顔)
自分の甘えたに気付かない本庄さんとか絶対かわいいやばいかわいいかわいい※「あっ、基本菱ってかわいそうな人なんだな」って軽く読み流してあげてください。※
最近本庄さんに顕著に飢えすぎて困ってます。ぐるるるる(けもの)
タイトル*流星雨さまより
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