ケンカにしては穏やかすぎる、それでも普段よりは明らかに居心地のよくない車内に、ぱたぱたと叩く雨音だけが物悲しく響く。
二人で車に乗るときはオーディオの類をつけないのが常で、それは普段からどちらとも無く会話をするからなのだが、言葉の行き来が無い今はひどく気まずく感じられた。多分も同じだろう。
当たり前だが進行方向を向く本庄の、視界の片隅に映るの眼差しは、もうずっと窓の外だ。
さほど景色が見れる訳でもない、水滴と結露でぼやけたガラスではがどんな顔をしているかも見えない。
きっと浮かない顔だというのは明確だが、それが憤りか、寂しさか、何からくるかを本庄ははっきりさせたいと少し思った。

諍い…よりは些細な、こうして信号に捕まっても隣を振り向くのがはばかられるくらいには譲れない意見の食い違いが、と生じたのは初めてで、お互いにどうしたらいいかわからないまま今もこうして口を噤んでしまう。
が我を通すことは、アメフト以外ではあまりなかったし、本庄は本庄で引くことを知っていた。
それが今日になって初めて、互いの譲れない部分が重なって、程度としてはほんの少しだが、確かにズレが出来た。それに二人して戸惑ったのだ。
本庄が大人げないと言えばそこまでかもしれないが、けれどどうしても引けなかったから今こうやって少し重い空間で過ごしている。
ヘタに口を開いて状況を悪いものに変えるのは避けたかったし、頭を冷やす意味でも不用意に話すべきではないと思った。
相手がだからこそ、誤魔化すような真似はしたくない。(その所為で余計と頑なになってしまっているということには残念ながら気付けなかった)
怒ってなんかいない。ただ、いつもと違う、すれ違いが少しかなしい。

意識を運転に集中させた所為かいつもより多く時間を取って、本庄は車をが一人暮らしをするマンション前の通りに着けた。
ハザードをたいて、サイドブレーキを上げる。

…間。

なんと声をかけたらいいか、恐らくは2人して同時に悩んだ瞬間だ。
―いつもと変わらない振る舞いは、おかしい。怒っているわけでもないのに、不機嫌な声を出すのはもっとおかしい。無言でなんて絶対嫌だ。
色々な考えを張り巡らせて結局先に声を出したのは、蚊の鳴くような声ではあったけれど、

「あの…ありがとうございました」
「…ああ、うん。また明日な」

シートベルトを外して、頭を下げたの周りの空気が、一瞬、ふるえたような気がした。

瞬く間に、滑るように外へ、ドアを閉めてから、もう一度頭を下げると小走りにエントランスまで駆けてゆく背中を一枚のガラス越しに見やって、―気付く。
子供がよくそうするように、湿気で曇ったガラスを指でなぞった跡が残っていた。
何時の間に、と一瞬考えてやめた。今日ならばいくらでも、その機会はあった。
運転席から身を乗り出して、確かめるようにガラスをなぞる。
ああ、と溜め息が口から零れた。

『 ご め ん な さ い 』

心底申し訳なさそうな6文字が、水気を持って涙を流す。
それはそのまま、の謝罪を表すようで。
車通りが少ないのをいいことに、本庄はそのまま車のエンジンを切った。
鍵を引っこ抜いて、車から降り立つ。
確信めいた気持ちで、まっすぐにエントランスのドアをくぐると案の定、道路側から隠れるようにしゃがみこんだままのを見つけた。
いつも、本庄の車が大通りに出るまで、は見送りを欠かさない。本当にいつもだ。

「―

肩や髪や頬に伝う水滴を払う間も惜しい。
かつりかつりと本庄がどうしてコンクリートを踏みしめているのかがわからない
様で瞳を見開くの頬から今日の降水確率を明らかに上回る量の粒が滑った。
スーツの襟元で、それを受け止める。

、ごめんな。俺が黙ったままだった所為で悲しくさせたな。もうあんなふうにしない。ちゃんと話して、二人で決めよう?」
「ぅ、…〜〜っ」
「仲直りしよう、
「っほんじょうさぁん………!」

堰を切ったように、しゃくりあげる声が震えた。
本庄に必死にしがみついて、ますます縮こまっていく背中を撫でる。
傘でも屋根でも防げない、とめどなく溢れる雨を、本庄は唇でなぞった。



その先には



(雨、のち雨を虹に変えて)


++あとがき+++
梅雨にムシャクシャして書きましtttttt(殴)
ほんとなんでこうこの二人はいちいち、アレなんでしょうか(きさま)
そこはかとなくまだ初々しい二人。多分引っ付いてすぐぐらiiii(おだまり)
梅雨と言えば窓の結露→結露に字を書いてほにゃららら→ということは口に出しては言えないこと?→喧嘩の謝罪とか…み!た!い!な!←うるさい
本庄さんが夢主を叱る、ならともかく本庄さんと夢主のケンカとか諍いというものがまったく想像がつかなくて書きにくかった…!結局ケンカっていうよりはただのすれ違い、的な、もの、に(滝汗)
でも何にせよこういうのは絶対夢主が先に折れるに決まってると思います。一万年と二千年前から決まってると思いまsssss(黙れ)
むしろ大抵の場合は二秒で折れると思います。HE・TA・RE!
泣き声とか笑い声とかの台詞は相変わらず苦手。たまにはすれ違うよ夫婦!

タイトル*ララドールさまより


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