― かたん、
靴箱を開け放ってひらり、風に揺れる薄っぺらい切り抜き。
単色刷りの紙は少し古ぼけていて、刻んだ年月に相応のシワが文面を波打たせる。
顔をしかめるでもなく、ただ静かに、けれどはっきりと悲しげに佇むの肩越しに、鷹は手を伸ばした。
ぐしゃり、乱暴にひっばるとテープで張り付けられていた部分が少し千切れる。
押し込めるように丸めると、一面はわしゃわしゃと音を立てた。
ひゅっ、花梨ほどのコントロールはないけれど、真っ直ぐな軌跡を描いて、低俗な週刊誌の記事をごみ箱に投げ入れる。
不本意とは言え写し出された父の事を考えると、それを丸めて捨てるのは少し複雑な気持ちもした。
「…こんなの気にしなくて良いから」
「、うん」
ほら、と止まっていたの右手の代わりに靴を出す。
指定のローファーの中に異変が無いことを確認するのも抜からなかった。
靴箱に、いやがらせ。ありがちすぎてうんざりする。
「…いいのかな」
鷹から受け取った靴に履き替える傍ら、ぽそり、が呟いた。
俯いたままの顔は髪の毛に隠されてよく見えない。
鷹の『母親』として、父さんの『妻』として。
ありふれた、とは言い難い境遇をは懸念するのだろう。
その五文字が内包する意味を思って、鷹は瞼を下ろす。
息を深く吸って、吐き出す代わりに唇に言葉を乗せて、音を形に変えた。
これ以外の答えを、鷹は知らない。
「俺は、じゃないと嫌だよ」
「鷹…」
弾かれたように顔を上げて、は鷹を見つめる。
「俺の母さんは、だ。今更誰が何を言おうとそんな事知らない。俺はを悪く言う奴なんて嫌いだ」
一般に外れるからなんていう理由で、軽んじられる謂われなどない。
誰より何より、相応しいかたちで隣り合う二人が鷹は好きだ。
「こんな下らない記事、俺が何回でも破いてあげる。だからは、母さんでいいんだよ」
父さんがそうするように鷹が頭を撫でると、ぶわあ、丸く膨らんだ涙が眦に浮かぶ。
口元を押さえたの手が震えた。
曲げた関節の上に滴だけを乗せるように、鷹は手を添える。
必死で涙を弾く睫毛がきらきらと揺れた。
「擦ると父さんにバレるよ、、我慢して」
「っ…、うん………」
2人でああでもないこうでもないと何とか涙を引っ込めて、部活へ急ぐ。
少し開始に遅れた以外はすべていつも通りにメニューをこなして、目敏い大和にも、気遣い屋の花梨にも気付かれなかったというのに、やはり、父さんの目は誤魔化しきれないらしい。
いつもの場所に、迎えに来てくれた父さんはを見るなり真っ先に眉をひそめた。
「、何かあったか?」
「え、あ、…むっ」
隠し事が無理だと悟った鷹は考えるより早くの口を右手で塞ぐ。
お世辞にも口がうまいとは言えない鷹には、隠せないしかわせない、ならこうする他ないのだ。
「…何でもないよ」
「鷹」
「父さんが心配する様なことは何にもない。だから大丈夫。何でもない」
オロオロと、が鷹と父さんを見比べる。
まっすぐに目を見て鷹が言い切ると、父さんは少し目を丸くした。
「鷹との秘密?」
「そう」
「―なら俺も聞かないよ」
「本庄さん…」
鷹揚に微笑みを浮かべると、帰ろうか、そう言って踵を返す背中に続く。
確信めいた気持ちで、鷹はの耳元に唇を寄せた。
涙は秘密だから振り返らない
(「どうしよう、」
「?」
「…多分父さん何があったか大体勘付いてる」
「うそっ!」)
++あとがき+++
親は何でも知っていると相場が決まってるモンみたいな(爆)
長男かつ友人な鷹はほんとに楽しいなあ…!すごく家族思いがイメージです。
ひばりちゃんは多分本庄さん寄り(オリキャラ姉の鶫的ポジション)で嫁を引っ張ってくれるタイプ
鷹は見守って支えてくれるタイプ
ああああ家族ってほんとすき!だいすき!
タイトル*ララドールさまより
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