滑るように、すり抜けるように、必要最低限のハンドル操作でゆったりとタイヤを動かしていく。舗装された道は、車通りが少なく、見通しが良い。
これが晴れの昼間ならもっと良いのだが、天気は雨、あいにく時刻は22時近く。
ごくまれに出会う対向車が跳ねた水を、一定のリズムで黒い影が弾いた。
視界は少しだけ悪い。
それでも真夜中一歩手前のドライブは決して嫌なものにはならなかった。
をマンションまで迎えに行ったときはひっきりなしに降っていた雨も、今は小雨にまでそのなりを潜める。
ワイパーの動きを最小のものに替えて、本庄はまたアクセルを踏んだ。
フォグランプのうっすらとした灯りが、細かい雨を映し出す。
ふと、そうしたくなって、本庄は左手だけにハンドルを任せると、空いた手で行儀よくしていたの左手を捕まえた。
視線は抜かりなく進行方向を向いたまま、かすかな視界と肌でおろおろとしたを感じる。
運転中なのを気遣ってか、逡巡を繰り返すの掌は、それでも離れないことを本庄は知っていた。
少しの間の後に、本当に申し訳なさそうに、本庄の誘惑に押される形で、はおずおずと絡めた指先に意思を覗かせる。
(ああ、かわいいな)本庄の腕がつらくならないように、サイドブレーキをゆっくり乗り越えてくる手がいとおしい。
つっ…緩めた指を伝わせると、は小さく息を呑んだ。
繋いだ形を覆うものに変えて、本庄の指先はの手の甲をするりと這う。
薬指の指輪をなぞって、指と指の間を動いて、手首から指先までをゆったりと丁寧に触る。手触りを楽しむように撫でる。
少しぎこちなくなる細い掌は正直だ。
「そんなふうにしてると、ワルイおっさんに捕まるぞ」
俺が言えたことじゃないけどな
くつくつと笑いながらそう呟いた本庄に、今度のは少し飛び上がった。
空いた右手で目元を覆う。叶うことなら両手でしたかったろうそれは、勿論、本庄の右手に阻止をされた。
肩を強ばらせた姿は本当に素直である。
素直で正直で純真な、本庄の唯一。
ただしこれ以上限りなく際どい愛情を注いだり困らせるのは主義に反するので。
そっと何回かにわけて徐々にブレーキを踏むと、車を側道に付けた。
手を離して、サイドブレーキをあげて、ワイパーを止め、ハザードをたく。
はたと目を見張ったに微笑んでみせると、本庄はライトも切った。
先に運転席から降りて、車道側の助手席を開ける。
タイミングの良いことに、目の前に広がるのは、遮るもののない砂浜に海だ。
人の明かりを避けるように、堤防を下りて砂浜を踏む。
二人で4つ並んだ足跡を付けながら、次第に近くなる潮騒を聞く。
どちらともなく顔を空に向けて、息をついた。
雨を振り切って、雲を追い越して、ようやく見ることの叶った星が頭上に瞬く。
星座表も天体望遠鏡も必要なかった。そこにひしめく景色さえあれば。
7月7日、今日の月齢は満月だ。
月明かりがなければもっとくっきり星が見れるらしいが、それでなくても光る夜空はうつくしく壮観である。
絶景、夜にも影が出来ることを本庄は知る。
―晴れている所まで、それだけを決めて車を出してからそれなりに経った所為か、ひんやりした風がの髪を揺らした。
砂が少し削り取られていく。
足場をとられないようにとその背中に手を回すと、穏やかな声が本庄の耳朶を打った。
「…晴れてる」
ぽつりと呟いた唇に、そっと指を添える。
親指の腹で柔らかな所を撫でて、互いの額を合わせるように近付けた。
ごく近いところで囁く。
「ああ。忘れるなよ、」
例え、雨が降っていても
いつか、なにがあったとしても
「どこか必ず、晴れてる所はある。俺が連れて行ってやるから」
心配なんかしなくていい。
星空だけではなくて、すべてにおいて、本庄はそう心に誓う。
好きだ、呟くが早いか、本庄は唇を合わせた。
からだじゅう 愛で埋めて
「…気付いてないんですか?本庄さん」
長いキスの後で、は静かに微笑んだ。
(ああ、だいすきな人、あなたがすべて)
++あとがき+++
『描写でしっとり大人な本庄さん』を目指して見事華麗なる返り討ち(白目)
あれおっかしいな…本庄さんはそこにいるだけで大人で渋いナイスミドルなはずなのに…目から汗が
去年の七夕ネタも本庄さんだったから今年は無理かな、と思ったら行けた。案外行けた
やっぱりイベントネタは当日に生まれることが多いようです。物書きの端くれとしてこの致命傷OTL
雨降って星が見れないんなら晴れてるところまで車を転がすのが本庄クオリティー
これは大人にしかできないラグジュアリーでsssss(色々イタイから黙って)
最近ことごとく本庄さんがワルイ大人になりがちなのが目下の悩み。一番の問題はそんなワルイ大人が大好きな菱だと薄々気付いてた!(泣)
魔法の言葉のように『本庄さんの理性は鋼鉄』だと唱えておく。【CERAMIC】は本庄さんと年の差の恋を推進します!
タイトル*流星雨さまより
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