「―、」

 、と愛おしく優しい声が微睡みの中でを呼ぶ。
 囁くようにさらさらと、耳元をくすぐる声と、頬や肩を包み込む温かな体温が心地良い。

  「、ぅ」

 鼻にかかったような声を零してゆっくりと瞼を持ち上げたを見て、本庄が笑う。
 薄暗い部屋の中ではに見えなかったが、それはそれは優しい笑み。

  「ほんじょうさん?」
  「、外見てみな」
  「そと・・・?」
  「よっ、と」

 本庄の胸元に埋もれるように身を寄せていたはベランダ側に―つまり窓に背を向ける形で本庄と向き合っている。
 ちょうど身を起こした本庄に抱き起こされる形で支えられたの肩越しに本庄がカーテンを引いた。
 途端、部屋に影ができる。
 太陽とは全く質の異なる光が寝室を照らした。

  「わ、あ」
  「さっき見たらな、晴れてたんだ」
  「すごい、天の、川」
  「きれいだな」

 うっとりと星空を眺めるの肩からこぼれ落ちた髪を大きな手が撫でる。
 ちょうど親子のように本庄に乗っかるの手を握って本庄はまた微笑みを零した。

  「笹と短冊ぐらい、用意しとけば良かったか。まさか晴れるとは思わなかった」
  「星にねがいを、ですね。懐かしいなぁ」
  「最後にやったのいつだったっけか・・・確か鷹が小学生の時に笹を持って帰ってきたような」
  「鷹が、笹・・・」

 今となってはイベントにさして興味を示さない本庄家の長男である。
 最低でも10年は固そうだ。
 短冊を渡しても、鷹ならば白紙で吊しそうな気がする。
 本庄と同じことを考えたのか、がくすくす笑った。

  「あぁ、でも苦手でした。七夕の短冊」
  「苦手?」
  「書くことが思い付かなくて」
  「なんとまあ・・・」

 その頃から無欲だったのか、と本庄は半ば感心するように嘆息する。
 白紙で短冊を吊すのは鷹だけではなかったようだ。

  「小学校に上がってからは、アメフトの練習もありましたからね。
   早く行きたいのに残されちゃったりするのがすごく嫌で」
  「絵に描いたようなアメフト好きだったわけだ」
  「ふふ。だから隣の子の二番目の願い事を教えてもらって書いてたんです」

 “かわいくない子どもですよねぇ”と、苦笑い。
 だからずいぶん先生が困ってました、と言った横顔に見たこともないの小さな頃の姿が重なった気がした。

  他人の願い事を、短冊に書いて吊すなんて。

  そんなのありか、と

  「ぶっ・・・くく、ははははっ、っ、おまっ!そんなことしてたのか!!あははははは!」
  「わ、笑いすぎですよ!」
  「こ、これが笑わずにいれるかよ・・・そんなちっさいときからお前っ、だったんだなぁ。
   っくく・・・あー、お前はほんとにかわいい、つくづく思うよ」

 素知らぬ顔で、他の子の願い事を書いた短冊を吊す姿が本庄の目裏に浮かび上がる。
 その時から背は高かったんだろうか、きっと今と変わらず優しい良い子だったんだろうな、そんな思いが心に湧いた。
 破裂したように笑う本庄を見てが恥ずかしそうに唇を尖らす。

  「い、今はもうそんなことしませんよ!ちゃんとあります。願い事」
  「ほお」

 目尻の涙を拭いながら、本庄が先を促せば二言、三言とが囁く。
 天ではなく己に届いた願い事に、本庄はまた笑みを深くしたのだった。

  「―それは俺が叶えるさ」


  (ゆったりと蜜色の時間が流れていく。)



 



 七夕なので季節ネタをば
 本庄さん本庄さん。
 本庄さんは季節を大切にするといいと思うんだ。
 本庄さんに叶えて貰いたいことをセルフドリーミングでお願いします。

 願い事とか急に言われても思いつきませんという管理人の経験を捏造発展させてできたお話(爆)


  タイトル*暗くなるまで待ってさまより

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