止める間もなく軽やかな金属音。
500円玉を投入して、無造作にボタンが2つ押された。
がこん、がこんと硬質な物同士ぶつかって音を立てる。
「甲斐谷くん」
「―、先輩」
「どっちがいい?」
上背のある身体を折り曲げるようにして、少し窮屈な取り出し口に手を突っ込む。
白と青、それぞれを基調とした二種類のスポーツドリンクを右手三本の指になんなく収めてが聞いた。
「ありがとうございます。えと、じゃあ、こっち。貰います、と、代金」
「いいのいいの」
中指と薬指の間に挟まれた方のペットボトルを左手で掴む。
不本意だが、陸にはできない所作。
空いた右手で財布を取り出そうとした陸の掌も、なんなくの笑顔と左手に制された。
包まれるように置かれた白い手は、長くて細くて、想像以上に骨ばっている。
短く切りそろえても面積のある爪はバランスよくの指先に収まっていた。
陸にはない大きな手指。
―今まで幾度となくゲームを制してきたアメリカンフットボールプレイヤーの、手だ。
(・・・大きい、上に逞しい)
背丈からしても、と陸の間にある身長差は実に20p。
自分の掌が特別小さいわけではないが、の掌は標準より大きい。
陸が作った握り拳などはなんなく包み込まれてしまうだろう。
「なにか付いてる?」
惚れ惚れするような掌をまじまじと見つめていた陸に、の声。
相変わらず、裏表がないというかなんというか。(鈍いわけではない。断じて)(と信じたい)
なんでもないです、それより先輩おつり取りましたか、と聞けば
案の定、あ、と声を上げた後恥ずかしそうに笑って頬を染めた。
こういうところは、すごくかわいいのだけれど、
「じゃあ、今度は決勝でね。甲斐谷くん」
一度“プレイヤー”になると、の姿は一変する。
真摯で、力強く、それはもう頼もしくて。
人間的にも、身体的にも包容力があるってどんなだ、と
ひそかに混みあがってきた劣等感に、心沈ませながら陸はペットボトルのキャップを捻った。
あなたが占領するの
(ああくそ、ときめくな俺!情けないぞ!)
++あとがき+++
意外に男前な夢主の掌その他諸々に胸きゅんしてしまったらしい甲斐谷氏
乙男(とかいてオトメンと読む)っぽい一年ズ×無意識に逞しい夢主にチャレンジしてみたかったのです。
筧でもいけるかなと思ったのですが、身長差が逆転+別のネタがあったので却下。
これはこれで意外に愉しい。
菱が書くとキャラはへたれか腹黒のどちらかになると言う究極の法則(笑)
タイトル*暗くなるまで待ってさまより
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