白くて長い指が、ぬっと飛び出して天を遮る。
陽の光を存分に浴び、反射する手のひらは、日本人とは違う色の白さが際立っていた。
切りそろえられた爪は根本的な形からして指先の品を損ねていなかったし、体調を表す血色や表面も言うことはなく最良の状態で五指に収まっている。
もともと長いそれらが余計とすらりと見えるような見事な比を醸し出していた。
細くもなく太くもなく、指の一本一本がそれぞれに骨張っているが仕草に武骨さもなく、流れるように速やかに、しかしどこか優雅に親指と人差し指が意思を持つ。
目的を有した二本の指は的確に、かつ無駄のない動きで持ち主の命令に従った。
掴み、力を込めて、腕を浮かす。
「いぅっ!?」
「レオ、俺の目の前で猫背になるなと何回言ったら理解する。いい加減にしろ」
突如現れた指先は、容赦ない様で、ぎゅうぅ、との鼻をつまみ上げた。
クォーターバック特有の、抜群の捕獲力を持つ指先で―、もう一度言おう、容赦なく。
背丈からすればクリフォードの方が幾ばくか低いのだが、彼のリーチの長さにプラスくだんの猫背がうまい具合に噛み合って、はまるで釣り上げられた魚のようにその全身を本来あるべき最大限にまで引き伸ばされていた。
「クリフォードさん、あの、せせせせせめてチームのみんなの見てる前でこの扱いは………」
「他に言うことがあるだろうが、このお口は飾りか?レオ、言いつけを守らなかったら何て言う」
「す、すみませんでしたっ!」
「……ヘコヘコしてんじゃねぇよ」
「え、えぇええええ!」
“365”度どこから見ても完全なる包囲網、隙なく横暴としか言いようのない素振りで、クリフォードが更に指先を天に向けて持ち上げる。
正規の位置をとっくに越えてしまった鼻先がじんと痛みだしても、一つ向こうのセクションに居る日本チームの一角が色めき立つ様を見てもなお、クリフォードは糾弾の手をなにひとつ緩めようとはしなかった。
「お前の背は長所だと教えてやっただろう」
「つい、昔の、癖で、」
「…それが不愉快だ。下らない人間の言葉に一々耳を貸すな。だらしない」
「仰る通りです………」
いつまでたっても強気になれない声に、はぁあ、と溜息を吐いて、レオ、厳しい眼差しが、をそう呼ぶ。
もう一段上の力がその手に力がこもろうかという時にようやく、絶対的な力関係に別の人物が介入した。
「こらこらこらこらクリフォ――――――ド!!何やってんだ放してやれって!!」
「日本チームのみんなが今にも瞳からレーザーを出しそうだよ!」
「知ったことか、こいつが悪い」
ぽこん、バッドが振り下ろした丸めた雑誌を左手で受け止めて、クリフォードはハン、と鼻を鳴らす。
日本チームが、パンサーの言うように目からレーザーを出そうがビームを出そうがまるで興味はない、それがどうしたと言わんばかりだ。
それどころか、ちらり、碧眼の見やった先で思い切りいきり立った様子の―今にも駆けだしてきそうな―のチームメイトのひとりにあからさまに小馬鹿にした仕草をFor you!(オイあれ今のは絶対キレただろ!)
が遠巻きに日本語で彼を宥めてくれなければ確実にアメフト以外の何か(俗に言う前哨戦)が始まってしまう所だった。
「いいから早く離してあげてよクリフォード!」
「どんだけ頑張ったっての鼻はお前より高くなんねーよ!」
「…試してみるか」
「うあ!待っ、流石に、これはそのかなり痛い、ですっ!」
「ギャー!!さんの鼻が取れる!」
「やめんかこのドS!」
一向に解決へと向かわない右手に更なる意思が宿る。
バッドの雑誌が第二撃を構えるより早く、ぺしん、クリフォードの背後から伸びた大きな手指がたしなめるようにをつねる手の甲を(あくまで軽く)打った。―タタンカだ。
「クリフォード、が可哀相だろウ」
諭すように言って、眼差しがちらりと指先に移る。
畳みかけるようにドンがの背後に回ってクリフォードと向かい合い、ちょうどタタンカと彼の間に挟まれるような形になった。
鷹揚で低い、演説向けのドンの声が、珍しくの肩を持つ。(普段は9:1の割合でクリフォード側だ)
「獅子とて悪気があっての事ではない。長い目で見てやるのも年長の務めだ」
『務め』『礼儀』『礼節』―こういう重苦しい言葉がドンから出てしまうと、もう独壇場である。
8つの眼(まなこ)に促されて、クリフォードはやっと右手に力を込めるのを止めた。
不意に支えを失ってよろけるをドンの掌が支える。
今だって文句のひとつも言えないに、クリフォードの眉がまた吊り上がった。
「お前らがそうやって甘やかすからいつまでたってもレオは情けない」
「す、すみませっ…」
「みっともない謝罪の安売りはやめろ」
「う…」
「クリフォードが激辛すぎるんだよ…」
パンサーが糸の切れた操り人形のようにかくりと肩を落とす。
と初めて会った時から(正確には二度目だったのだが一度目は変装中だったので数えないことにする)クリフォードは幾度となくの猫背を矯正しようと試みているのだ。もの凄くスパルタなやり方で。
初めこそ厳しく攻撃的な言葉だけで済んでいたが、それでも改善の余地なしと見るや、クリフォードは次の段階に進んだ。
「背中にドリンクボトルを突っ込んだりな」
「それもガンガンに冷やしタ奴」
「あれ本当に冷たかった…」
「なにそれ俺聞いてねえよそんな話!」
「取材か何かで休んでたんじゃないカ?」
代表例である。
「クリフォード、おま、ホントやめろってっ!」
「レオの猫背が直ったら考えてやるよ」
「フィールドの外では半永久的に無理!」
「ぱ、パンサーくん言い切られると流石に落ち込む…」
熱を入れて言い放ったパンサーの言葉がをえぐる。
しれっとした顔でクリフォードは鼻白んだ。
痛々しい表情が
よくお似合いで
(とある気弱なライオンから王者のプライドを引き出す試みについて)
++あとがき+++
な、なんてまとまりのない話OTL最後の一行締めるのに2ヶ月かかったOTL
クリフォードと夢主の関係はまあ言うまでもなくこんな感じです。クリフォード>>>>>>>>>>>>夢主
ドンは『獅子』って呼ぶけどクリフォードは『レオ』って呼ぶよ!猫背で歩いてたら鼻つねられたりするよ!
とりあえずクリフォ様はさんのギャップが納得いかないようです^q^
カンに障るとすぐ鼻つねりにくるクリフォードさん。握力は常にマックスで。もうそろそろ鼻が千切れやしないかとみんな心配してる(爆)
ある種しつけをするおかん的クリフォ。面倒見がいいんだか悪いんだか!
タイトル*流星雨さまより
MENU