※ 312th down「新世代へ」ネタバレ注意

すぅ、骨張った指が、見た目とは裏腹に繊細な仕草で、優しくの髪を梳く。
熱っぽい眼差しが、遮れないほど近い距離から視線で双眸を射抜いていた。
低い、意図して掠れるように囁く声が鼻先をくすぐって肌を撫でる。

「――………一目見たときから、ずっと心に残ってた。ひたむきな横顔も、真摯な瞳も、優しい声も全部が俺の胸を焦がすみたいに」

きし、押し倒されたソファーが遠慮がちに軋む。
顔の両サイドに付かれた腕がを逃がさないように一層の存在を増す。
髪から顎へと添えられた指に、ぞわ、と背筋が粟立った。
ふるり、その爪の切りそろえられたバッドの指で心臓を直に引っかかれたようなそんな錯覚に陥りそう。
何時になく俳優モードに入ったバッドをは力の限り遮った。

ちょちょちょちょっと待て!アンタ、何考えて……」
「ん?俺に言われたのとこのぺらい安っぽい便箋に書かれてるのとどっちがときめくか身を持って判断してもらおうかと思って。さ、続き行くぞー」

スイッチ、オフ。チャンネルの変わったテレビ画面のごとく、バッドの雰囲気も一気に変わる。
右手の人差し指と中指の間に挟んだ手紙をひらひらさせながらバッドは再びに覆い被さってきた(冗談じゃない!!)
顔の前に交差させた両腕を掲げてバッドを押し返す。
ぴくりとも動かない体躯に、は声を張りあげた。

「〜〜〜もーいいお腹一杯よ!てか何でこんな時に限って差出人もロマンチスト過ぎなのっ!!」
「あ、ごめん。どこまで読んだか忘れたからもう一回頭からやっていい?」
「もういいから早く退け―――!!!!」

判り辛い嫉妬(本人すら気付いてないかもしれない)を振りかざして、バッドはするりとを抱き寄せる。
俳優業に勤しむバッドのあらぬ攻撃にはひたすら耳をふさいだ。



 



(どんなにありきたりな愛の言葉だって世界一甘く囁いてみせるよ)


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