※ 312th down「新世代へ」ネタバレ注意
原色の多い、カラフルなものが溢れるイメージの強いアメリカで、珍しく淡いスミレ色の封筒。
繊細なレターセットに違わず、静かな雰囲気の人を彷彿させる文面には、の顔立ちにぴったりだと思ってこの紙質を選んだのです、などと畏れ多くもしたためられていた。
(しかし残念ながら、そんな言葉にときめけないのが、なのである)
イメージって恐いなあ…気の毒、なんて呟く恋人を後目に、クリフォードはうんざりしたように溜息を吐く。
「今時クラッシックな事をする人も居たもんよねぇ。王子にも書いてあげようか」
「くそくらえ」
「まー汚いお言葉」
ソファーの背もたれ越しに首だけをこちらにくるりと回してが茶化す。
いらり、キャスター付きのガスチェアに座って足を組み替える、クリフォードの苛立ちに彼女は気付かない。
晴れやかに笑う、その、穏やかな(まるで届かない想いを抱く差出人を慰めるような、出来の悪い子供を思いやるような)横顔の眼差しが、クリフォードは凄まじく気に食わない。
「偶には良いかもよ。うわ、“その瞳に、僕を写して微笑んで貰えたら”なんて甘い台詞久々に聞いたかも。この人クリフォード並みに王子指数が」
「――――」
「うわぁあああクリフォード!?何すんの、ちょ、前髪巻き込んだって今!」
じゃきん!鋭い刃先が見事なまでに、スミレ色の便箋を真っ二つに切り裂いた。(ついでにの前髪も二、三本)
サイドボードにハサミを叩きつけて、クリフォードは背もたれにのし掛かるようにしての顔を覗き込む。
「五月蝿い、破り捨ててしまえそんなもん」
「ハサミを持ち出す前に口で言え!口で!そのお口は何のために付いて…んんっ!?」
赤ずきんの一説を思い出す気分で、クリフォードはそんなもの、と心の中で鼻白む。
逆さまに突き合わせた唇を塞いで目を閉じた。
お前の口をふさぐため!
(名実ともに喰ってやろうかこの鈍感青二才が)
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