「…46点、だな」

ぽい、無造作に赤いボールペンを投げる仕草すらどこか優雅に、原尾はゆるりと瞼を上下させる。
突き返されたラブレターは誤字脱字に接頭語から接続語、改行、漢字の止めや跳ねに至るまでを原尾直々の鑑定眼によって厳正に訂正され、全面的に痛々しいほど真っ赤だ。
達筆な原尾の文字が横に並ぶともはや暴力的なまでに差出人がいたたまれない。
何とも言えない心地で目を泳がせていると、原尾は事も無げにの髪をもてあそんだ。
こめかみを横切って毛先に向かう掌はびっくりするほど綺麗でしなやかに逞しい。


「は、はいっ」
「これを返事代わりに突き返せ。お前がわざわざ心を砕く必要はない」

さらりと囁かれた言葉に、理解が遅れを取った。返事代わりに突き返せ?
これ、が“添削された手紙”
“突き返せ”の相手は…差出人
“心を砕く”必要がないのがならば…
間をおいて、は原尾と添削された手紙とを交互に見やって目を白黒させる。
そんなとは対照的に原尾はゆったりと眼差しを寄越すだけだ。

「え!あの、こ、この手紙をですか!?」
「そうだ。余の伝言としてしかと届けてやれ、良いな」
「で、でも、原尾さん…こ、これは流石に…なんて言うか、その」

原尾さん、そう呼んだときにかすかに眉がしかめられる。
まっすぐにを見つめ返して、言い聞かせるように彼は呟いた。

「王成」

声に出さない要求にひとときの思考が止まる。
未だにすんなりと口に出せないのは、単に原尾が年上だからと言うわけでもなさそうだ。

「き、王成さん」
「そう、良い子だ…、お前は賢いな?余の言いつけを破ったりはしないだろう?」
「う…」

漂っていた指先が、頬を辿る。
切れ長の眼差しがすうっと細められて、唇は優しく微笑みを讃えた。
艶やかなその姿に対抗する術はない。

「か、かえします…返してきます…」
「それで良い。―褒めてやろう、

半ばうなだれるように頷いたに、そう機嫌良く囁いた彼は、ますます笑みを深めて瞼を伏せた。







(これが当然の報いであろう?)


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