※ 312th down「新世代へ」ネタバレ注意

白く厚い、上質な紙に達筆なアルファベットが形を成す。
大仰でも、難解でも、白々しくもない。真摯で洗練されたうつくしい、この世で、もっとも誠実な想いをブルーブラックのインクがに語りかけてくる。
きらきらしい世界を凝縮させたような手紙はきっと今この瞬間の全て余すことなく極上に表したものだ。
きっと今もう一度ドンがインクをしたためたならまた、まったく別のものを書くに違いない。それほどに、かけがえのない。
もう無理、限界だ。こんなラブレター、世界中の何処を探したって太刀打ちできるものがあるのか、これ以上のものなんて、には想像すら出来ない。

「―――……………」
「Kitty、顔が赤いぞ?……どうした、泣くなよ」

目の前でその囁きをしたためた張本人は、何も知らない振りをして涼しい顔で唇で弧を描く。
の想いの丈も戸惑いも好意も憂いも葛藤も歓喜も躊躇も親愛も敬愛も信頼も恋情も慕情も傾倒も何もかも、何もかもを、知っている癖に!

「っ、ちょっ…とは、こっちの身にもなればかぁ!もう、ホントやだこの鬼畜、性悪、ひとでなし…っ」

頬を伝う大きな手指に、涙が絡む。
平素の達者な口回りはどこへやら、はぼそぼそと泣くしかできなかった。
しゃくりあげる姿を見て、ドンはまた笑みを深くする。

「心外だな、俺のありのままだ。何を隠す必要がある。一字一句逃さず速やかに受け取れ」

“逃さず”と囁いた折りに、はドンの腕の中に引き寄せられた。
頭を優しく撫でる掌に余計と涙を誘われて、たまらずに顔をスーツの肩に押し付ける。

「かっ、返せっていっても返さないんだから………!」
「お前が望むならいつでもくれてやる。受け取る覚悟が出来たら言え」
「今は…それよりもっとこっち来て」
「……喜んで、可愛い可愛い俺のDear」

首に抱きつくを支えるように、ドンの腕が頭と背中を優しく伝う。
距離をなくした屈強な体躯から微笑みを感じ取ったは、また涙を落とした。



 



(この世界の何よりも相応しいとっておきをお前に)


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