強いて言うならほんの、ごくごく僅かにほんの少し顔が歪んだ気がした。
そのくらい些細なその予兆。
それがポーカーフェイスの賜物であると
気付いたのは高見の大きな掌から紙吹雪が舞った瞬間だった。
まさに、流れるような手つきで
あまりに当たり前の動作のように
「相手にしなくてよろしい」
そう、高見が言うものだから
人は、ラブレターをもらった後はびりびりに破いて捨てるのが普通だという錯覚に陥ってしまいそうだった。
「た、高見 先輩・・・なにも、そこまで」
「必要?」
あくまで穏やかに紙片をゴミ箱へと捨てる高見はまるで期限切れのチケットか何かを処分するぐらい事も無げにその存在の意義を問う。
確かに必要かどうかと聞かれれば、は答えをひとつしか持たなかった。
けれど人の好意を無駄にするのに些細な抵抗を感じて言いよどんでしまったに、高見は静かにたたみかけた。
「要らないだろう?それとも、は俺だけじゃ足りない?」
「へ・・・?」
「常々愛情注いでるつもりだけど、足りてないなら遠慮はしないよ?」
こつん、と靴が音を立てて、空いていた距離が埋められる。
呟かれた言葉の端に、今度ははっきりて高見の心を感じ取った。
「たか、」
普段は穏やかに眇められているその瞳の様にぎょっとした。
頭から冷水をかぶせられたような、衝撃が背中に走る。
試合中時折見せる、絶対的な―
「待ったはなしだ」
追い詰めるように両腕がの逃げ道を塞ぐ。
顎に手が掛かって
「」
愉しげに名前を呼んで、無邪気に優しく
「俺は怒ると怖いんだよ」
そう微笑む姿に、はただただひたすら見とれることしかもうできない。
まるで百獣の王のように
(愛しさと優しさは君に、他はまだ見ぬ恋敵に全身全霊を込めてぶつけるとしよう)
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