※ 312th down「新世代へ」ネタバレ注意
沈黙を貫いたタタンカと向かい合ってテーブルに座る。
タタンカの手元には、に当てられたラブレターがあって、痛々しいぐらいの白さが蛍光灯の光を反射する。
事情聴取中の刑事長のようで少し滑稽な日常のワンシーンだ。
なかなか言葉を介さないタタンカにいたたまれなくなったがこわごわと、彼の名を口の端に乗せる。
「あの…タタンカ、さん?」
「一つ教えて欲しい」
「う、うん?」
意を決したように、唇を引き結んだ、真面目な眼差しに少しどきりとするのはやはり惚れた弱みというものなのだろう。
自然と背筋を正したにタタンカは静かに問いかけた。
「やっぱりこういうことを言われたら嬉しいものか?」
「え、あ、いや…まぁ、人にもよる…けど、うん、タタンカになら、嬉しい、よ?」
「………」
いつだって飾りをいっさい削ぎ落とした実直で誠実な言葉は、の本音を容易く引き出してしまう。
だからこそ、困らせてしまったのだろうか、瞳を細めてタタンカは黙す。
慌てては身を乗り出した。
「や、ごめん、無理しなくても、ほら、タタンカはそういうの苦手なんだし」
「…いや、善処する。だから今は」
「!」
近付いたの額にふわり、と柔らかな口付けが落とされる。
静かでおごそかな、幸福な。
「これで許してくれないか」
「(…初めてタタンカからキスされた)」
額を確かめるように覆い隠して、は頬に熱が集まるのを感じた。
黙りこんでしまった眼差しを慈しむように、タタンカは優しい瞳でをその目に映す。
「上手く出来なくて…すまない」
「気にしてないし、上手く出来てなくなんかないから」
「―ありがとう。いつか、必ずありのままを伝える」
テーブルの上に組んだ両手を包み込むように、掌が覆う。
じわり、あたたかなものが通い合うのを感じた。
繋いだ手からラブコール
(想いの丈をすべて残さず伝えるには、一生かけてもすこし足りないかもしれない)
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