※ 315th down「五芒の星」ネタバレ注意

対面式のキッチンにはカウンターテーブルがあり、丁度バーなどのように中の様子が広々と見える。
エプロンをつけたバッドと向かい合う形で、その真ん前のスツールにが座る。
こまこまとした調理器具一式を扱う様子は料理番組というよりテレフォンショッピングのようだ。
あの大げさかつダイナミックにスマイリーそしてメロドラマチックな深夜とか早朝にやってるやつ。ドレスのシミが落ちたら君をディナーに誘って良いかい的なものがは一番好きだ。

かしょかしょとハンドミキサーではなく泡立て器を使ってホイップクリームを作り上げる手つきは鮮やかなもので、相変わらず器用な恋人のハイスペックさには驚くばかり。

、ん」

砂糖を足した生クリームをスプーンに救って、味見、に差し出す。
直接口元にまで持ってきたシルバーに促されてはそれを口に入れた。

「砂糖このぐらいでいい?」
「おいしいよ」
「よし」

満足そうに笑って絞り出し袋に半分を詰め替える。
昨日から下拵えをしたと言っていたケーキの土台に残りの半分を均等に塗って、その上に白い薔薇の花をクリームで描く。平面的ではなくすこぶる立体的なデコレーションだ。
真ん中にメインの薔薇を一つ、その周りに可愛らしいサイズのものを二つ作り上げるとアラザンで周りを縁取ってデザイン性の高い飾り付けに。
白い本物の花びらを砂糖菓子にしたものを散らして、仕上げにパウダーシュガーを振りかけると、白一色の、だからこそセンスの問われる繊細なケーキの完成だ。

くるり、プレートの向きをに合わせて差し出す。
その完成度の高さに、は溜め息を吐いた。

「…すっごい」
「気に入った?」

唇で弧を描くバッドの視線の先にいるのは、こくこくと頷く、普段より少し幼さを増しただ。
少し紅潮した頬が可愛らしくて、指先を押さえるのにバッドは徹底的に葛藤する。
ものを一から作り上げる、そのプロフェッショナルが好きなはバッドが手を動かす間中ずっと、瞳をきらきらと輝かせていた。(何度理性が吹っ飛びそうになったことか)

「形崩すのもったいない…」
「大丈夫、そんなこともあろうかと真ん中は丸くくり抜いて取れるようにしてあるから。最後のお楽しみだな」

バッドの予想を裏切らず呟いたのつむじにキスを落としてそう言うと、また、彼女は正しくバッドの神経を揺さぶる仕草で微笑みを形どった。
まあ、なんて喜ばせ甲斐のある顔をするのだろう。
桃色のオーラを醸し出す勢いでの全身に喜色を滲ませている姿を見やりながら、バッドは手早くキッチンツールを片付けた。
もうしばらくは眺めさせてあげようか。
先にボウルやヘラを洗ってしまおうと踵を返したバッドの背中にぽすん、軽い衝撃。
ウエストを回りきらずに、エプロンの左右のポケット辺りを掴んだの掌がきゅう、と握り締められた。

「…バッド」
「ん?」
「ケーキすごくかわいい。ありがとう、うれしい」

シンプルに、だからこそ溢れんばかりの感謝を、バッドは背中に受け止める。
取りあえず両手を塞ぐ銀色たちをシンクに投げ込んだら、を背中から引き剥がして改めて抱き締めようと決心した。



隠し味に



(あまいあまいひとときを)


++あとがき+++
あれ?バッドがまともだ(爆)
珍しくデレるワイフが難しかったです。うちのワイフはツンツンしててなんぼ(殴)
俳優業ネタは【こいのおてがみ】でやっちゃったので今回は演出編で。
某選手権のようなプロフェッショナルが好きです。あとドレスのシミが落ちたら君をディナーに誘ってもいいかい的なテレフォンショッピング
バッドは役作りの関係でオールマイティーになんでもするといいよという妄想。家事とかも協業してくれそうですよね!
菱の中でバッドは協業派、タタンカとパンサーは分業派だと思っています(何の話だ)
Mr.ドンも大統領の息子でさえなければアイロン掛けとかしてくれそう。王子はひたすら亭主関白でも偶に家事やると凄い上手いとかね!妄想!

タイトル*ララドールさまより


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