※ 315th down「五芒の星」ネタバレ注意
うららかな日差しが降り注ぐリビング。
ゆったりと十分なスペースをもったソファーに体をはめ込むようにして、細い寝息だけが部屋の真ん中あたりを漂っていた。
緩やかなS字を描いた背中の下のあたり、めくれてしまったシャツを直してやりながら、バッドは唇に弧を乗せる。
すやすやと眠るには、何もかもを安心しきった、愛らしさが満ちていた。
静謐な横顔を眺めていたがる視線を恋人から引き剥がして、一度寝室に引っ込むと、ダブルベッドから毛布だけを剥がしてまたリビングに舞い戻る。
有り余る大きさのキャメルにすっぽりと収まったが、ぴくりと肩を震わせた。目覚めの気配はまだ、ない。
ワールドユースが閉会してから一週間ほど、ばたばたと慌ただしく働き回っていたの身辺も落ち着いてきたためか、ここのところ彼女はようやく安息の一時を得ることが出来たようで、今までの疲れが一気に来たのだろう。
肘掛けに太ももを半分乗せるようにして腰掛け、の顔を覗き込みながらバッドは惚れ惚れしたくなるほど艶かな黒髪に手を伸ばした。
つるりとしたさわり心地は上質な手入れを受ける女優のものより余程気持ちいい。
重力に従って流れる髪を全部梳き直す頃に、の瞼がかすかに意思を見せた。
う、子供がむずかるような声を上げて、きっと眩しいのだろう眉をしかめる。
「お?おぉ、ごめん。起こしちゃった?」
「バッ、ド…」
「ん?」
「……いま、なんじ」
もそもそと日光から逃れるように身じろいでいく腕が、バッドの腰をぐるりと捕まえた。
回りきらないまましがみついて、しばらくしっくりくる位置を探していた額が左の脇腹から腰骨のあたりにその肌をうずめる。すこし、こそばゆい。
しっかりと落ち着いてしまったの頭に掌を這わせながら、バッドは唇がもはや笑みを記憶してしまったことを知る。
「しごと、は?」
きゅう、の腕が、ほんの少しの甘えを持ってバッドの動きに躊躇いを与えた。
言葉と気持ちは裏腹だ。の指先が今この一時の保持を望む。
離れがたいと、思ってくれているのなら(ねぇ何コレ反則じゃない?)
「んー…?今日は、オフ」
に、することに決めた、と心の中のみで呟いて、後ろ手で携帯の電源を切った。
家電の受話器も中指の先を引っ掛けて少しずらしておくことにもぬかりはない。
「、ちょっとだけ詰めて」
あやふやな覚醒を辿るの頭を抱え込むように熱い抱擁でくるむと、そのままバッドはソファーと毛布に滑り込んだ。大きめのソファーを買っておいて良かったと心から思った瞬間。
左の腕をの頭に差し込んで、くるるとすり寄ってきた額に鼻先を埋めると、心行くまで至福の時がバッドのすぐそばに寝転んでいた。
薔薇色の嘘ついてみようか
(極上にとろけるかぐわしき嘘)
タイトル*ララドールさまより
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