※ 317th down「配られたカードは」/318th down「COUNT DOWN13」ネタバレ注意
アメリカ選抜クォーターバック、クリフォード・D・ルイス
彼は本当に、色々な意味で王子だと、はしばしば考える。
公言してはばからないそれも、ただの強気のカードであると聞いたときはそれはもう驚いたものだ。(そしてその驚いたを見つめる時の、いかにも残念な子を見るような瞳は多分一生忘れられない心の傷であると思う)(あのクリフォードが、あれほどに気の毒そうな色を讃えたことなど、思い出しただけで涙が出そうだ)
容姿、言動、立ち振る舞いのすべてには気品というかオーラというか、とにかく人がそうそう醸し出せないものを振りまいていたし(以前一度だけ、垂れ流して、と評したら足の小指辺りをピンポイントに踵で抉るように踏まれたことがある)、何より自分の意のままに周囲を退けようとする、その手腕と言ったら見事なものだ。
躍起になるわけでも、神経をすり減らすわけでもない。泰然と、優雅に、脚でも組み替えながら涼しい顔で、彼は瞬きすら洗練された策略の一手に使うのである。
傍らで見ていたからこそ分かる、その才走る眼差しが、彼の言葉を借りるならば生まれて初めてコケにされた、と
信じがたいその綱渡りを、やってのけた人が居たのだという。
青二才(サニー)、クリフォードはその人のことを忌々しくそう呼んでいたらしいのだが、パンサーから聞くに、一つ年下の選抜日本の選手らしい。
逆立てた金髪、ツリ目の三白眼、強気とブラフと策略と、銃火器を携えた、確か名前は…
「蛭魔妖一、くん」
いつぞやの試合会場で、それはそれは爽やかな笑みを浮かべていたその人は、ケケケケ!一転してどこか挑戦的な笑い声を上げた。
初対面時には眼鏡をドンに預けていた手前、顔の細部はあまり見えなかったのだが、それにしてもクリフォードを彷彿させる顔立ちの彼である。(うっかりクリフォードの前で口に出した日には埋められるかもしれないので用心しよう、堅く心に誓う)
犬歯を覗かせて唇をつり上げる蛭魔に若干の薄ら寒いものを感じながら、は眼鏡を押し上げた。
「えーと、あの、何か?」
「取り引きに来た」
「とりひき」
ずい、のほうに一歩詰め寄って、蛭魔が黒革の手帳を取り出す。
釘で引っかいたような字で、書いてあるのは“脅迫手帳”の四文字だ。(あれ、私日本語忘れたのかな明らかにおかしな熟語なんだけどいやいやいやだって漢検持ってるよ?)
付箋のびっしり貼ってある手帳をパラパラとめくって、とあるページでにぃ、と笑みを深くする。
じり、壁に背中をくっつけたをあざ笑うかのように蛭魔は目線を合わせるようにまた、距離を縮めた。(あの、うちの星の王子さまに見つかると後が怖いので離れて下さい)…言えたらいいのに。
の思考が空へと羽ばたく前に、タン、蛭魔の右手が壁に、片方の退路を塞がれて、また、いやな予感が胸をよぎった。
「日本選抜に鞍替えしろ。オメーほどアメリカチームに詳しい奴はいねぇ」
「ハイそうですか喜んでなんて言った次の日には私がお星さまになりそうなので嫌です謹んでお断りします」
素直な気持ちを正直に伝えると、ほぉ〜?とやたらめったらしゃくに障る笑い方をされた。
ドンの口癖といい勝負だ。あれは別にいいけど(だってドンだもの、それだけで十分だ)
またも明後日に向かったの額に、ぺたり、同じポジションのクリフォードとはまた違う、ほそりとした長い指で手帳から剥がれた付箋が貼られた。
「それが、大事の王子さまにバレてもか?」
「―――………」
剥がした付箋に細かな字がびしりと並ぶ。
“、18歳、Mr.ドンと同棲、渡米した理由は――”
「あ ほ か っ!」
ぐしゃっ!勢いよく付箋を握り潰しては叫ぶ。
紙片を床に叩き付けかけて、第三者の目に触れる危険性に思いとどまった自分を褒めてやりたい。褒め称えたい。
「あのねぇ、なんだこのやましい書き方!大体っドンとは同棲じゃなくてれっきとしたルームシェア!昼ドラみたいな過去をでっち上げるなこの中二病っ!」
ぶはーとワンブレスでそう叫んでがっくりとうなだれる。
コイツうちのお星さま達と同じ匂いがする、切にそう感じた。(ああもう疲れる!)
ゲラゲラと笑い転げる蛭魔を後目に、は壁に拳を入れた。
「ケケケケ!からかい甲斐は世界一ってワケか」
「アンタ相当趣味悪いな…!」
きつく目を伏せて、眉間に皺を刻む。
きりきりと痛む胃の辺りを抑えて呻くと、蛭魔はまた活き活きとした爆笑を見せた。
眉間を指先で平坦にならしながら、は大きな悪戯っ子を説き伏せるように言葉を紡ぐ。
「なにが悲しくて、ペンタグラム以外の、ただ同じ日本人ってだけでチームに貢献する義務があるのよ。何が何でも勝ちたいってそのやり方は尊敬するけど賛成しない」
「んなこたぁハナから判ってる…俺の狙いは別だ」
「は……?」
きらり、鋭い瞳が光った気がして、は知らずと顔をひきつらせる。
蛭魔の視線がを外して右の方へ(ちょ、待て待て落ち着け。ま、さ、か…)
恐る恐る、視線を蛭魔から外す。そしてすぐさまそれを後悔した。
「…死にたいか、青二才」
「クククククククリフォード………さん」
の最低音域よりなお低い響きを持った声が、よどんだ空気を誘い込む。
氷の女王顔負けの凍てついた雰囲気に、いち早くは凍りついた。(とてもとても怒っていらっしゃる!)
背中に暗雲を背負ったクリフォードが、無意識のうちにが引き結んだ拳を無理やりほどいて自身の手指と絡める。
片腕でを引き寄せて、眉根を寄せる、不機嫌を全身に押し出した鋭い瞳が形を眇めた。
「次にに余計な真似してみろ青二才。生まれてきたことを七日七晩後悔させてやる」
普通のレディならここでときめくんだろうが、握り締められた指先が、色を白に変色するほど力を込められてなお、この殺伐とした雰囲気に酔いしれるほどの乙女スキルはにはない。
みしみしと悲鳴を上げる掌を必死に宥めて耐え難きを耐える、それを見て蛭魔がまた笑みを深くした。(このやろう!他人事たと思いやがって!馬鹿!カジノでゲーム自体に負けた事絶対根に持ってるだろてめぇ!)
「ケケケケ!随分まあご執心だこって!チームジャパンに鞍替えされねぇように精々気を付けるんだな!」
「なんだと……?」
「(煽 る な ーっ!)」
ひぃー!と心の中でそう叫んでは眦に雫を浮かべる。
生っちょろいの指先などもうそろそろぽきりといってしまいそうだ。
「………」
「うぁい!?」
「お前…………空気読め」
「いや。ごめん、変な声出た…っていやいやだって不可抗力で「………」ごめんなさいっ!」
じろりと全ての激情を押し殺した瞳が、を睨む。(速やかにすぐさまの謝罪が王子との円滑なコミュニケーションを築く秘訣だ、この場合プライドは床に捨て置くことをお勧めする)
まあいい、“今は”不問に処す、そんな副声音が聞こえてきそうなほど広いお心を以てして、クリフォードはようやくの掌を解放した。(うぁ、じーんとする)
そのかわりにぐい、と腰に腕を回されたことは、まあ、お約束というものか。
「この青二才に二度と近寄るな」
「いやいやいや、あの、向こうに追いつめられた場合は…カウントに入るの?」
「俺が近寄るなと言ったら、近寄るな。ただそれだけだ」
「ですよねー…」
瞳を蛭魔から一ミリも逸らさずに、クリフォードはただひとつをに言いつける。(これは、なんというか相当、怒って…)
「わぷっ」
ごち!、華奢な割に存外屈強な胸板にの鼻がぶつかって押し付けられる。
自然と顔を埋めて抱きすくめられる形になったの頭を、長い指が抱きかかえた。(王子がキレた…いやさっきからキレてたけども!二次的に!)(どうしよういつもの王子じゃない…たすけてパンサー!)
背後のぎすぎすした雰囲気にひたすら萎縮するの体躯が、尚更クリフォードと密着していく。
色んな意味でふらふらするを余所に、二人の司令塔の会話はますますダーティーになっていった。
「面白ェもんを見してもらった」
「…見るな聞くな触るな近寄るな喋りかけるな。誰に断り入れてコイツに手ェ出してやがる」
「アメリカチームのアキレス腱を、使わねー手はねぇだろう?」
「――……青二才、もう一度聞く、死にたいか?」
にぃ、邪悪なものを背負った地獄の司令塔はその笑顔に嬉色を滲ませて黙する。
もうどっか行ってってまじで、ぐったりとした気分で心の内々で呟いたの願いが通じたか否か、こつん、コンクリートを踏みしめて遠退いていく足音が響き渡った。
はぁあ、溜め息を吐いて上体を離そうとしたを頭にかかるクリフォードの左の掌が阻む。
空いた右手がするり、クリフォードとの間に割って入って正確に輪郭をなぞった。ぞわり、背筋が粟立つ仕草で。
「う、わ…!」
「」
身をよじろうとしてまた、抱き締める力に阻まれる。
のつむじに唇を埋めて、クリフォードが呟いた。柔らかな吐息が地肌をくすぐる。
頭の中に直接話しかけられるような錯覚が、輪をかけての頬に熱を集めた。
香水の匂いが全身に染み込むようにを包む。(すみません王子さまあなたナチュラルにいかがわしいって自覚してくださいちくしょうかっこいいなこのやろう!)
「誓え、二度とアイツに近寄るな」
「―ク、リ フォード、っ」
「…言えよ」
言葉遣いとは裏腹に、クリフォードの指先が甘やかすように頬を撫でた。
誓いをたてるまで離さない。
寡黙な右手はそう語る。
普段は悠々と、綽々としているあのクリフォードが、こんな風に形に拘るなどにとってはゆゆしき事態だ。
彼はいつでも、優雅に、強くしなやかでなくてはいけない。
の所為で、本来彼のサポートとして働くはずのその自身の為に、クリフォードが威風堂々とした彼であることが出来ないなど、妨げになるなど、のプライドが許さない。絶対に。
ああもう、と溶けてなくなってしまいそうなほど、の頬は熱を帯びた。頭がどうにかなりそうだ。
恥じらいと躊躇いが混ざり合って突然変異を呼び起こした。
普段なら考えられない、こんな事を言うなんて!(内に秘めるのがの美学なのだ)
「何処にも行ったりしない。ドンも、パンサーもタタンカもバッドも、クリフォードも、ペンタグラムは、私の、絶対」
「――……それでいい」
褒めるように、左手がの頭を撫でて存在を増す。
髪に埋まるクリフォードの唇が、彼らしく、弧を描いたのをは自身の肌で感じた。
自由を放棄、君の胸へ
(これ以上の誉れなんて)
++あとがき+++
王子がせくすぃー過ぎてもうDOUしようもない件について、そう思うのは果たして菱だけですか(爆)
さ/わ/む/ら/い/っ/き/もびっくり!←…
ツンとデレの使い分けが絶妙な王子さま、嫉妬→宣戦布告なんてもう王道すぎで楽しかった
Mr.ドンと若干書き分けれてないとかは言わない方向でお願いしまs(殴る蹴るの暴行)
当初は超シリアスだったはずなのに何時の間にかラブ米的に←…
シリアスよりもやっぱりこの手のテンションの方が安心する私です。
クリフォード夢はどうしてか長くなりがちで困る。
うちの王子さまは本当嫉妬してばっかだな!(禁句)
無駄に色気を振りまく王子がお気に入り。ワイフは着々と躾られとる気がしてならないわたしです。
やはり結局行き着く先はワイフ→←←王子!何気にVS蛭魔が楽しかった。お粗末様でした。
タイトル*ララドールさまより
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