※ 312th down「新世代へ」ネタバレ注意
追い詰められている。まさに今の状況を一言で表すならばそうだ。絶体絶命だ。
火サスのお約束、断崖絶壁に追いつめられた犯人ですら、もう少し選択の余地はある。
刑事を返り討ちにしてしまうか、一か八か海へと決死のダイブを計るかだ。限りなく少ないパーセンテージであろうと人対、人(あるいは自然物)。可能性は、ある。
しかしそれに比べて今の状況ってなんだ。辱めかこの鬼畜っ!言わない、いや言えないけど!
「いたく余裕だな、?」
「い、いやいやいや、推し量ってこの混乱!違う意味で高鳴る胸の鼓動!」
遮るものは空気のみ(つまりはなにもないの意)の距離の近さがじりりと狭まってゆく。
しゅうと通った鼻梁が、の額を掠めた(近っ!)
ふわり、くすり、口元だけを見てもその表情が伝わって、それはこのような状況でなければ大変喜ばしいはずなのだ。
だが、上品に微笑んだクリフォードはの生命維持活動その他諸々の本能の警鐘を逆撫でする仕草で、つぅ、うなじにつづく首筋をなぞる。いかがわしい!
陰湿だ、陰険だと心の中で嘆きながら、部屋の四隅に追い詰められたは壁にめり込む気分で背中を白い壁紙に押し付ける。
「エイプリルフールに乗じた下らねえ嘘かと思ったら…」
「だから謝ったじゃんか!事故!不慮の事故!てか初め聞く耳持たなかったの自分だよね?!」
そうだ、“ハッタリがへたくそすぎる”とダメ出しをしたのは間違いなくクリフォードだ。
ちょっとした謝罪を勘違いして、取り合わなかったのだって自分でしょうってああもう調子こいてすみませんでした睨むのやめて!
「…お前がドMなのはよく分かった。余程痛い目が見たいらしい」
うん、これは流石にひどくないかな!人間の尊厳的に!
でもそれ以上に何を企んでいるか分からない据わった眼の鋭さと、クリフォードと自らの今後の輝かしい未来について最早恐怖以外の何物でもない感覚に戦々恐々とする中、するり、滑らかな肌がぴたりとの頬に引っ付いた。
うわ、お肌すべすべ、女子的に複雑…ってそうじゃない!
「く、クリフォー、ド!?」
の左の頬に、色白の頬が隙間なく添えられて、クリフォードの表情は窺えない。
耳元に、柔らかな感触。
脳髄に直接叩き込まれる低音に皮膚が粟立つ。
「マゾに身体的苦痛がどれだけ意味をなさないか俺はようやく学習した」
「っ…い、ままで散々虐げておいて言う台詞がそれか!?てかまたマゾとか言うでしょ王子のくせにっ!」
「そうやって煽るお前が悪い。覚悟しろ、制裁のお時間だ」
それだけ言うと、クリフォードはの口を左手で鷲掴む。囁く。
おおよそ普段は御拝聴できないような、歯の浮くような台詞をみっちり叩き込まれて、誓わされて、は生まれて初めて、人の声帯が凶器足り得ることを知った。(叶うことなら知らないままでいたかった)
狼にばかり恋してしまう羊のはなし
タイトル*ララドールさまより
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