※ ジャンプ6・7号ネタバレ注意


すぅ、と規則正しいリズムで触れた体躯は上下を繰り返す。
ソファの背もたれを挟んで向かい合い、寄りかかってくる人の目覚めはまだ遠く、しがみつくように回された両腕だけが意思を持つみたいにクリフォードをその場に縫い止めていた。
下手に身動きのとれないまま、間抜けにも中途半端に固まった空間から抜け出すことも出来ずにいる。
この状況を打破できる一番の人物をクリフォードは知っていたが、何よりこの場に来てほしくない人物もまた同じだ。
矛盾する二つの事実を胸にクリフォードはごく小さく溜息を吐いた。

はじまりは、が―ユース大会選抜チームの影の立て役者とも言える彼女が、ミーティングルームも兼ねたロッカールームの片隅で熟睡していたこと。
その場に、切れたスパイクの紐のスペアを取りに来たクリフォードが居合わせた。
決して寝心地の良さそうでないソファに寝そべって、一目でとわかる真っ黒な髪がたゆたうように背中を縁取る。
作業の途中で意識をとばしたらしく、なにも羽織らずに横たわる彼女がこのまま体調でも崩した日を想像するだけで、クリフォードにはおぞましく思えた。得策ではない。
そこまで思い至ったクリフォードはMr.ドンの上着を勝手に引っ張り出した(これこそ、クリフォードが王子たるゆえんである)
回り込むようにソファの背もたれ越しに手を伸ばして見慣れたストライプの生地を落とす。(気遣いをもってするならば“掛ける”だが、クリフォードのそれは正しくは確実に“落とす”であった)
ふわりと十分な余裕を持って、の肩口から足の付け根までを覆った上着から、香水のかおりが立ち上る。
そして、

「―――………」

慣れ親しんだ香りにつられるように、ゆるゆるとの瞼が上下を一往復と半分。
焦点の合わない瞳が、底なしの色を持ってクリフォードに行きつく、刹那

非常に不本意ながら、Mr.ドンと間違われたクリフォードは、抱き枕よろしくに捕まったのだった。

意味を為さない回想にふけっている間に、吐いた溜め息は数知れず。
いっそ振り解いてしまえれば、この小さい頭に頭突きをかましてしまえればと幾度となく思いあまっては、その背後にある凶悪な影に嫌気がさして振り出しに戻っていった。
そして何よりもその凶悪に振り回されている所為でここまで疲れているを前にすれば尚更、叩き起こすことも忍ばれる(王子の王子による唯一無二の気配り)
しかしそんな甘っちょろい考えをすぐさまクリフォードは後悔することになった。

「ククククリフォードぉぉ!?何してんのヤバいって!」
「おま、勇気あんなぁ〜・・・ワイフに手ェ出したらマジ死ぬぞ?」

ペンタグラムと呼ばれる5つの角のうち、4つの角が集結してしまった事にである。

「うるせぇな・・・見ればわかんだろうが。しがみついてんのはこっちなんだよ」

タイミングも最悪にロッカールームに戻ってきたパンサーとバッドが口々に騒ぎ、タタンカが目を見張る。
親指を地面に向けて振り下ろして見せながら、自前の三白眼をさらに険しく知らしめた。
言うまでもなく、“ワイフ”はのニックネームである。
この短期間に集ったペンタグラムが、一番に学んだのが“ワイフ”を決して呼び捨てにしないということだった。(さもなくば後がめちゃくちゃ面倒くさい)(しかしもっと面倒くさいことは目前まで迫っているのだ。意味もなくペンタグラムはその五芒を欠けさせたりはしない)

「ね、寝ぼけてんのかな」
「それにしたって・・・まずいな、もうすぐMr.ドンが・・・」
「何がどうまずいんだって?タタンカ」
『!!!』

クリフォードの予想に違わず、物々しいオーラを纏ったMr.ドンが一歩、また一歩と歩みを進める。
とうとう、その距離を歩幅二つ分なまで縮めた凶暴な男はその殺意を微塵も隠さずその不機嫌を顕わにした。

「ほぉ・・・?これはこれは、誰に断り入れてそいつに触ってんだ“プリンセス”クリフォード」
「どいつもこいつも・・・」

うんざりとした気分で、もう何度目かも十何度目かも何十度目かもわからない溜め息(本日最長)
もうそろそろ本気で頭突きをかましてしまいそうな自分を必死に抑し殺して言葉を紡ぐ。

「アンタの香水が俺のユニフォームにまで移ってんだよ。それで愛しのワイフが勘違いして抱きついてきたんだろ」

“わかったらさっさとなんとかしろ”とクリフォードが呟くと取り合えずばを引き剥がすことを先決としたらしい。
当然のようにに詰め寄ると、Mr.ドンは何のためらいもなく、立てた。

何をかと聞かれれば、歯を。何処にかと聞かれれば、耳朶に。

すやすやと安らかに眠るに容赦なく、獰猛な肉食獣のように(黒豹の二つ名はパンサーのものではあるがまさにそのように)凶暴なさまで噛みついたのである。
…当然、手加減という言葉は、彼の辞書にはない。

「痛゛…った!!」
「Goodmorning dear.」
「は…?ちょ、あたしは食べ物じゃないって何回言ったら・・・って王子?」

痛みで飛び起きたの意識が、眼前のクリフォードよりもMr.ドンの奇行にフォーカスされるあたり気の毒すぎる条件反射だ。
瞳をしばたかせて素っ頓狂な声を上げるは、(そういうには若干横柄すぎるが)忍び寄る受難にまだ気付かない。

「よう、目が覚めたんならさっさと放してくれ。旦那の視線で蜂の巣にされそうだ」
「ぅえ?・・・ぇぇええぇええ!?うそやだごめん王子ほんとごめ、んっ!!」

最後の最後でセンテンスが遮られて、の上体がくらりと傾ぐ。
軽々と引き剥がされた腕が行き場を失って、くるり、ダンスのターンでもするように身体が反転した。ドンのほうに。

「ちょ…っと、ドン!!」
「この大馬鹿が…喰っちまうぞ」
「んなっ、あほう!!!

ぐきりと音がしそうなほど顎を掴まれても尚、寝起きとは思えない鮮やかな右ストレートが繰り出される。
しかし毎度ながら軽くいなされているあたり、頭に血の上ったは学習が少しばかり足りなかった。
美しい軌道を描いた右腕は容易く見切られて、拳の衝動はそのままMr.ドンに引き寄せられる力に繋がる。
上手い具合にバランスを崩したは、有無を言わさず腕の中に収まった。
自ら死地に赴くようなものである。Mr.ドンという名の。

「痛い痛い痛い!冗談抜きで折れるってば放して!!」
「バッド、タタンカ、クリフォード、パンサー、出たら鍵締めてけ」
「はいはい、了解」
「いや―――!ふざけんな!!」

みしみしとここまで聞こえてきそうな程ホールドされ抵抗らしい抵抗もままならぬまま、表情と言葉とわずかな身じろぎだけが唯一に残された動作だ。
精一杯腕を突っ張りながら脱出を試みる、その目的はもはやインポッシブル。
そのわずかな隙間から顔を覗かせて、はクリフォードに謝罪のジェスチャーを取ってみせた。

「あ、王子!ほんとごめん!!今度なんか埋め合わせするからね!」
「アンタそれより自分の心配しろよ・・・」



  する

(「相変わらずワイフは愛されてんなー」
 「この悲鳴の何処がだ・・・?」)


++あとがき+++
いやー…やってまったね自分
ドンだけならまだしもタタンカ、バッドまでねつ造。
星組(=ペンタゴン)は仲良しだと良い
最後の文はタタンカとバッドのセリフです。
ルイス・D・クリフォードによるバカップル観察日記。副題をワイフの受難(笑)
D.Gray-manのクロス夢主に『ミセス』、アイシールド21の本庄夢主に『嫁』の愛称があるのでMr.ドン夢主には『ワイフ』の称号をば。すきです。嫁ネタ(爆)
クリフォード夢は無理でしたので、王子さまの視点で書きました。
これはこれで楽しかった^^星組わっしょい\(^o^)/


  タイトル*暗くなるまで待ってさまより


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