…このように君主は野獣の方法を巧みに用いる必要があるが、野獣の中でも狐と獅子とを範とすべきである。それというのも獅子は罠から自らを守れず、狐は狼から身を守れないからである。それゆえ罠を見破るには狐である必要があり、狼を驚かすには獅子である必要がある”」
「よろしい」

君主論の一説、“君主は信義をどのように守るべきか”を英語でも日本語でもない言語を使って暗誦してみせる。
そらんじていたの言葉を原本で確認していたドンは一区切りついたところで本を閉じた。
時刻は25時に近い。背中を緩やかに枕に預けて、状態をほんの少しだけ起こしているドンの組んだ足の上、太股を横断するようにうつ伏せに寝転んだの髪に自身の手を伸ばす。
両腕をクッション代わりにして顔の下半分を埋めるはちらり、ドン以外にはわからない程度に頭をこちらに擦り寄せた。
が横に使っても十分機能を果たすベッドは広い。
膝から下を子供のようにぶらぶらと上下させて、目を伏せたは、ばすん!一直線に両足を下ろした。
その様子がしっぽを振り下ろす猫のようで、ドンは唇に弧を描く。
うだうだと身じろいだ所為でおかしな風に全身に巻き付いた真っ白なシーツが、煩わしそうだ。
引っ張ってもそう簡単には外れなさそうなので、ドンは心置きなく真っ白な布を引っ張りあげる。

「ぉあ!…ちょっ、と!」

ぐるん、体を反転させて力業で仰向けの形を取らされたが声を上げた。
腹筋より少し上のあたりに乗り上げた背中が、ドンの体の厚みで山なりにしなる。
仰け反った頭に腕を差し入れて支えてやると、不可解な顔でねめ付けられた。

「一声かけろ!びっくりする!」
「…進歩したなァ?Kitty」
「なにが、」
「昔のお前なら飛びすさっていたところだろう。時の流れは偉大だ」
「そいつァ、よかった、な!」
「よせ、くすぐったい」
「にゃろっ!」

目一杯腕を伸ばして、髭のあたりで乱暴に暴れる指を笑ってやるとは躍起になって身を乗り出す。
右手を支えに起きあがって、ドンのマウントポジションを押さえることが可能なのは、今のところ彼女だけだ。
ひとしきり遊ばせて、あしらって、気が済んだ頃を見計らって両手を素早くの肩に掛けると、ぶん!左向きに振りかぶって反対に今度はドンがのしかかる。
やめろあほうつぶれる!!あながち間違いではない事実を叫びながら暴れるは、現実でそんなことはあり得ないと知っていた。
肘から下をベッドに付けてを下敷きにするドンが、加減をしているのも勿論わかっている。
だからそのまま眠ってしまうこともあるし、逆に下剋上を目指して反旗を翻して返り討ちにあうこともままある事だった。

今日は返り討ちの方だ。

「いだだだだだだ!」
「ほら、参りましたはどうしたDear?」
「ざけんなこの!」

―じゃれ合いのような時間は二人の気が済むまで続く。







(友達以上、恋人以上)


++あとがき+++
ドンに「よろしい」って言わせたかった。ドンとワイフの夢は1話1話の温度差が激しい件^q^
ほのぼのとギャグの間がない!よ!多分これワイフ半分寝ぼけてます
バトンから派生したお話でした!引用は君主論第18章より。

タイトル*流星雨さまより


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