がちぃ!防具とヘルメットがぶつかり合い、屈強な体躯がみしりと音を立てる。
火花こそ散らないが、凄まじい勢いで当たりあう逆さまの星マークがきらり、太陽の光に反射した。
日本では鎧の球と書いてアメフトと読むらしいが、それに相応しく厳つい防具に身を包んでMr.ドン以外のペンタグラムはベンチに腰掛けていた。

「あれ、ドンいない?」

思い思いの体勢で、フィールドを眺めていた四人の後ろから、芯の通った声が響く。
Mr.ドンのチームのマネージャーで選抜ではサポートリーダー、ここいらで一番目立つ真っ黒なストレートヘアの持ち主だ。

「さっき監督に呼ばれてたみたいだよ」
「ぇー…入れ違いとか…いいや、待っとこ」

パンサーの言葉に溜息を吐いて、とすん、ベンチの端も端っこの所に腰を落ち着ける。
手にした赤いバインダーからペンを引き抜いて、さらさらと何かを書き付けていった。(驚くべきことに、彼女は利き手で二本のペンを同時に正しく扱うことができる)

「ドンに何か伝言?」
「んん、ちょっとね」

間に三人の星を挟んで、バッドがにスペルを投げる。
答えるの発音も、ネイティブと遜色ないほど流暢だ。
お手本のように忠実で、正確かつ精密な言葉達は何よりもその意味を分かり易く伝えている。
サポートリーダーに抜擢されてからほんの数日しか経っていないが、一度でも彼女と喋ったことのある人間なら目を瞑っていても判別できるぐらい、存在感のある綺麗な英語を喋る日本人の女の子、それが彼女の第一印象だった。

インテリながらもさくさく動き回るは、いつも何かしらの作業をするのが当たり前らしく、バインダーの紙を一枚めくって、またペンを走らせる。
真っ白な上下揃いのジャージに赤いバインダーが彼女の基本スタイルだ。
常に忙しなく動き回っていても、染みひとつ付いたところを誰一人として見たことがないと密かに有名。
はからずともの母国カラーの二つが、日の光を随分と取り込んでも、ドンは一向に帰ってくる気配がなかった。

、先に帰ったらどうだ?どっちみち明日も練習あるだろう?」

書類の整理をとっくに終わらせて、フィールドを眺めていた彼女の横顔は時間を持て余していた。
今日はと言えば、もう彼女以外の大半のマネージャー達は午後の早い時間に仕事を切り上げて帰っている。
残っているのはぐらいのものだろう。
膝の上に肘を置いて頬杖を付く彼女をタタンカが気遣う。

「何ならメールでもすればいいじゃねぇか」

押し付けるように、クリフォード。通称王子と呼ばれるだけあって物言いが尊大になりがちだ。
しかし言い方はともあれ至って真っ当なこの一言が思いも寄らぬ出来事を呼び起こす事になる。
相変わらず、頬杖を付いたままで、

「あー…でも今日合い鍵ドンしか持ってない。洗い物一回で済ませたいし、」

ほろん、唇から零れ落ちた流暢な英語は、明らかにそう語っていた。

『合い鍵』?『洗い物』?

4人の星たちが一様に頭上にクエスチョンマークを浮かべて言葉に詰まる。
当の本人はと言えば、今の自分の発言がもたらす影響力になどまるで気付かずにアメリカチームの練習風景の背景と化していた。話さない、動かない、瞳はぼんやりと楕円のアメフトボールを追いかける。
バッドが、彼にしては珍しく、控え目に(恐る恐ると言っても良い)の名前を呟いた。

「…………?」
「………………わたし、今、なんて言った?」

ぎぎぎぎぎ、機会仕掛けの人形のようにの動きが挙動不審にまみれる。
心なしか青ざめた顔でが呟いた。ぞっとするぐらい声は平坦だ。
それは逆に、ペンタグラム達に、不必要なまでの確信を抱かせた。
ああ、それは、つまり、

「お前が恥ずかしいから黙っておけと言ったんじゃなかったかなKitty?」
「一生の不覚………!」
「自分でバラしてしまうのだから世話がない」

呆れた声が、のねじとなって、彼女の動きを滑らかに戻した。滑らかに、うなだれて、拳を握り、彼女は嘆く。
くつくつと喉を鳴らす、ドンの笑いが空気を揺すった。

「ああもうまじで死ね二秒前の自分……」
「そう悲観に暮れることはないさ、俺はお前のそういう所を本当に好ましいと思う、聡明なDear?」
「うわぁ超腹立つなにその無駄に良い笑顔」

視線だけをドンに合わせて体をベンチに沈ませるはまるで、いつかワットが見せてくれた日本の有名なコミックの、燃え尽きたぜ真っ白な的なボクサーによく似た体勢だとパンサーは思った。(ちょうどジャージも白いし)
観念したように瞼を下ろして溜息を吐く。
長い目の前髪をかきあげて、そしてまた、溜息。

「…もういいよ、鍵忘れてきたから貸して。あと今晩オーブン料理するから帰ってくる前に連絡入れて」
「ああ、わかった。なるだけ早くするように心掛けよう」
「(わー…すっげー新婚の会話)」
「(の顔色を除けばな)」

ふてくされたのこめかみ辺りにドンが口づけを寄せる。
顔を真っ赤にして“人前!”と声を荒げたあとに、小さく彼女が呟いたのに気付いたのは、仕事上言葉には耳敏いバッドだけだった。

“――――”

そして次の日、選抜サポートリーダーのニックネームは、バッド発祥ペンタグラム経由で『ワイフ』に変わる。



問1:その愛が





証明しなさい。



(Answer.言うまでもありません。


++あとがき+++
ワイフ呼び発祥の地はバッド
ユースで召集されてから間もない頃だと思われます^q^うちのワイフは墓穴を掘る子www
このときはまだ多少他人行儀だったワイフとペンタグラム(ドン除く)なので、一緒に住んでるのは内緒にしたかったのにぽろっと吐いちゃった、みたいな(…)
ドンはものすごい嬉しそうな顔をしていたに違いない^q^
最後になんてデレた台詞を囁いたのかはみなさまのご想像にお任せします(笑)

タイトル*流星雨さまより


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