アーノルドのおじさまから『管理がてら』と二人暮らしには勿体ないほどの一軒家をあてがわれてから、もう一年以上。
今では別荘、のようなものなのだろうか。かつてはオバーマン家の人々が住んでいた建物に、今はドンとのふたりきり。
住み始めの頃は広い家にもなかなか戸惑いがあったけれど、慣れとは恐ろしいものだ。
優に三人は一度に使えそうなバスルームの手前、脱衣所と洗面所と、洗濯場を兼ね備えたスペースに上がる。何処まで土足で良いものか、これも始めの頃物凄く戸惑った。
ことあるごとに敷居の手前で立ち止まるを見てドンが手をひっばってきたのはまだ記憶に新しい。
愉快そうに唇を歪めて、それに逐一憤慨していたのが少し恥ずかしいぐらいだ。
畳んだバスタオルを棚にしまい込みながら、些細な記憶の引き出しを覗く。
ガチャンと、扉の開く音で、引き出しは容易く閉じたのだけれども。



ぽたり、髪の毛から滴る雫がバスルームぎりぎりの位置に落ちた。
恐れ多くもタオル一丁のドンの裸を目の当たりにしようが、はあまり動じたりしない。これも慣れだ。
いつかのように赤面したり恥じらうには、頭をカナヅチか何かで殴られて記憶喪失にならない限り無理だと思う。
水に濡れても相変わらず逆立ったままの金色、髪も身体に似て相変わらず屈強なようだ。そんな所に目がいくほどの余裕だって今ではある。

「なに、タオルなら今持ってき、」

もとより大した距離を持たなかった左手でバスタオルを差し出した所で、の体は素早く引き寄せられた。
手首を掴むには十分過ぎる大きな掌が意思を持って動く。
気付いた時にはドンにヘッドロックをかけられる形では浴室にひざまずいていた。

「ちょ、おま…っ!ちょ、待て、熱っつ!阿呆やめろ!」

小脇に小首を抱え込まれたままじたばたともがくに構いもせず、ドンは容赦なくシャワーの標的をこちらに定めてくる。
勿論入浴の意欲など持っていなかったは服のまま、着々と張り付く布の感触に辟易した。
髪の毛が肩や背中だけでは飽きたらず、顔にまで張り付いていく。
ザーザーと頭から首を伝ってふんだんに湯責めに科せられた理由を問おうとした矢先に、ドンが口を開いた。

「随分キツい匂いだと思わんか?Kitty」

コックを捻ってシャワーを止めると、こん、細長いボトルをの鼻先で開ける。
柑橘系独特の匂いが嗅覚を掠めた。
初めて嗅ぐ匂いだ。ドンが好んで使う、いつもの物ではない。

「は…におい?なにこれシャンプー?」

俯けていた顔を上げてドンを見やる。
右腕でがっちりとを捕まえたまま、左手に持つシャンプーを目の高さまで持ち上げてドンは僅かに眉を寄せた。

「ああ、物は試しにと変えてみたはいいが、どうも分量がわからん。よって試させろ」

言うが早いか、くるりとボトルを逆さにするとドンはの頭上にそれを掲げる。
ポンプ式ではなくキャップを開けて直に手に取るタイプの口から、500円玉大どころか首筋にまでシャンプーの液が垂れてきてようやくはドンの意とするところを悟った。

「ばっか…おっ、まえ八つ当たりかっ!!明らかに量がおかし…てか使いきる気だろてめぇ阿呆やめろ!ほんと止せ!」
「そう暴れるな、。目に入るぞ」
「どの口が抜かすかこんにゃろ…!!」

ぬぐぐ、と腕を引き剥がそうとするよりも、ボトルが空になる方が断然に早い。
シャンプーの分軽くなった容れ物はあっけなくタイルの床に倒れた。
ほどほどにしておけば芳しい香りも、むせかえりそうなほどに強まれば心地良いものとは程遠い。
ドンの使うものだ。どうせ馬鹿みたいに値が張るに決まってる。
それを何の惜しみもなく使ってしまった左手が次はの頭を洗い始めた。
おおよそ用法用量そして適量を守らなかった液は、あろう事かの、99のユニフォームにまで染み込んでいく。

「ほんとに全部使いやがった…ベタベタして気持ち悪いんですけど」
「日々紫外線に当てられた髪を労って何か悪いことがあるか?」
「大ありだよ馬鹿。シャンプーが髪質に合わなくて禿げたらドンの所為だ」
「そうならないために今こうして手入れをしている」
「っヤローあっちこっちボケ散らかしやがって………!」

しゃしゃ、片手だけで軽快に髪を洗い上げていく手際は無駄に良いものだからなにか余計と腹立たしい。
洗うのも一苦労な長さを絡ませることもない指先に、は負けた気分になるのだった。
においとベタつく服は差し引いての心地よさで自然と減る口数に、ドンがくつくつと喉を鳴らす。

「寝るなよ」
「寝ねぇよ」

が乱暴な言葉遣いをしても、ドンは諫めたり窘めたりしない。







(じゃれあう日常)


++あとがき+++
ワイフ初期は初々しかった模様^q^罵倒レベルはフェーズ4まであるヨ!
今では全米が恋するMr.ドンの筋肉も見慣れた感ji(殴)
日常の一ページ的なのに挑戦したくて書いたはいいがアメリカの家屋事情があまりよくわからなかったので色々曖昧(´^`;勉強せねば…!
自宅とか俺ルール満載ですが夢なのですみません目をつぶっていただけたら幸いです←…
ちなみにシャンプーはトライアル的なアレ。
ドンのシャンプーはプロ級希望。

タイトル*流星雨さまより


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