まるで飴細工でも曲げるように、ぐんにゃりと硬質な支柱が曲がる。
等間隔に規則正しく形を保ち、機能を果たしていたそれなりに頑丈な棒達は見るも無惨にひしゃげたり折れたりゆがんだり。
ほんの数秒前までは栄えあるアメフト世界大会の抽選器として立派にお役目を果たしていた巨大ビンゴには思いを馳せた。
「ちょ…いいんですかこれ??」
「ガハハハハ構いやしねぇ!!」
「ちょっとは構って下さいよ………!」
青ざめた司会進行役の女性がモーガンを窺う。
豪快に笑いながらソファーにふんぞり返る彼の隣で空のボトルを始末していたは溜息混じりに呟いた。
「何だぁ?ゴキゲンななめじゃねぇか」
「巨大ビンゴで抽選会やりたいってモーガンさんが言ったからわざわざネットで探し回ってアメフトボール用に作り替えてもらって…!しかも昨日三時間かけて組み立てたのはスタッフのおっちゃん達と私ですよ!?それが第一回でオシャカになったら誰だって怒るでしょう普通に!!」
言っていくうちに段々とヒートアップするの口上に会場の視線がちらほらと集まる。
特に日本選抜の選手達は一層疑問を持ってに眼差しを向けていた。
見た目からして純日本人のと根っからのアメリカ独尊主義のモーガン。
まったく共通点のない二人が同席している理由はただひとつ、がアメリカチームのサポートリーダーでモーガンがユース大会の主催だからにすぎないのだが、腕章もなにも付けずにいつものジャージ姿の所為で奇妙な組み合わせにしか見えなかった。
「あの人、日本人…だよね?」
耳に懐かしい日本語が聞こえる。
居心地の悪さを感じては声のトーンを落とした。
「本来なら大会規約に則って厳重注意ものなんですけど」
「堅ェこと言うなよ、最高じゃねェか強ェ奴とヤリてえ!ってギラギラはよ…逆なら即失格にしてたがな。そういう勇気と無謀カン違いしたバカが相手でこそ俺ら最強アメリカの殺戮ショーも盛り上がるってもんだ…!」
「ちょっ…少しは包み隠して下さいよっもう!モーガンさんは屁でもないかもしれませんけど私にまで火の粉降り被るじゃないですか」
「なァに善良な一般市民ヅラしてやがる!!オメーもアメリカにがっつり組み込まれてんだよ諦めな!」
「痛い痛い痛い!!全然現役の時から衰えてないんですから力加減考えて下さいってば良い歳こいて!」
「カカカッ!」
45歳本気のヘッドロックをお見舞いされて、の悲鳴が上がる。
またもや集まった注目に辟易しながらモーガンの腕を何とか外してもらってジャージの襟元を正しながら再び溜め息を吐いた。
「とにかく、モーガンさんがああいうの好きだっていうのは知ってますけど次に似たようなことがあったら流石にそれなりの措置執りますからね」
「好きにしな」
外したサングラスをもてあそびながらそう呟いたモーガンは、何やら楽しそうに口元を歪める。
どうにも嫌な予感を払拭できないは無意識のうちに顔をひきつらせた。
ひとつあるのだ、心当たりが。
『そして最後の大トリを引くのはもちろん!ユナイテッド・ステイツオブ・アメ――リカ――!!』
高らかに声を上げたアナウンスに会場が色めき立つ。
ざわざわ、期待と緊張感と敵対心闘争心その他諸々が混じり合った場内で、しかしは最大限冷めていた。
「…誰 も 来てない…??」
シン、静まり返った『U.S.A』のカードが置かれたテーブルは、当初のセッティングのまま一ミリも動かずに沈黙を貫く。
てっきりバッドあたりが愉快な演出でもするのであろうと半ば祈りにも似た願いを掲げていたはその可能性も否定するしかないと判断を下した。
多少団体行動から外れるおちゃめな彼ら。
「――――事ある毎に胸がドキドキして心が締め付けられるみたい。少しでも目が離せないし、ちょっとしたことでハラワタが煮えくり返りそう。この気持ちになんて名前を付けましょうねモーガンさん」
「教えてやろうか、“明確な殺意”だ」
やけに静まり返った空間にとモーガンの声がはっきりと響きわたる。
当時を知るスタッフや選手達はのちにこう語るだろう、あの時は確実に会場の温度が5度ほど下がったのだ、と。
「………あ、んっっっのっ宇宙一身勝手な暴君サドが―――――!!!!」
「ガッハハハハ!相変わらず苦労してるじゃねぇか?」
「待ってて下さいモーガンさん今ネットで完全犯罪の方法検索してますから…」
「とうとう殺すか!!バレないようにやれよ!」
「細心の注意を払いますっ」
わなわなとうち震えたの片手が物凄い勢いで携帯をタイピングし始める。ががががが、目にも留まらぬ早さだ。
先ほどとは比べものにならないぐらいの憤慨っぷりでは唸る。
「あり得ない…他の四人が居るから大丈夫だと思ってたのにあのドSっっ!!!!!」
「そこいらのバーで女引っかけてんじゃねぇの?」
「そんなことはどうでもいいんです!」
「カカカカ!旦那の浮気は“どうでもいいこと”か!取りあえずクジは引いてけよ、ワイフ?」
「あんな鉄の塊動かせませんよ!ドンじゃあるまいしっ。大体、旦那じゃなくて一緒に住んでるだけで…あ」
「ガハハハハ!墓穴掘りやがったな!」
「あああああもうなんなんですかアンタ達は!?もうやだ!そういう所ほんと嫌!!」
明らかに楽しむそぶりでモーガンはソファーに身を沈める。
背もたれにのけぞってげらげらと笑い声を上げる主催には今度こそ頭を抱えた。
主成分は殺意にも似た愛情
(我ら最強アメリカ国!!)
++あとがき+++
久々にこのノリとテンション楽しかった\(^o^)/
いつぞやにネタブログで載せた話を膨らませてみました。
なんだかんだでモーガンさんはワイフを可愛がってくれてると良いな!
あの巨大ビンゴがおっちゃんたちとワイフの汗と涙の結晶だったらウケる(笑)とか思いながら始終にやにや←
モーガンさんに対してワイフは結構慇懃無礼。モーガンもそんなワイフがお気に入りな感じで
時折秘書的なことさせたり、雑多な用事で何かにつけてワイフを構えば良いよ^q^
この後ワイフはバーに乗り込みます!仲良し米組大好きです!!
タイトル*流星雨さまより
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