部屋を暗くしてキャンドルを一本
誰かの誕生日という訳でも、これからロマンチックにプロポーズという訳でもなくセッティングされた小さな灯りが揺らめいて不明瞭に輪郭を揺らす。
思い思いの場所に座って一人の話し手以外の全員が口を噤んで耳を澄ませていた。
俗に言う、納涼。もっと言えば日本では定番の行事だ。
暑さを紛らわせるための怪談を一度してみたいとお馴染みワット経由の知識でパンサーが言い出してタタンカの興味を引き、それならとバッドも意気込んで、半ば引きずられる形で呆れた風ではあったけれどクリフォードもソファーに腰を落ち着ける。
正しいかどうかは分からないが他の四人よりは知識のあるドンとでそれっぽいことを簡単に教えて、パンサー持参のキャンドル(これもワット経由。因みに燃焼時間225時間のキングサイズ)に火をつけた、までは良かったのだが。
「ドン…いいのコレ?」
「本人達は涼しそうだから良いんじゃないのか?納涼目的だろう」
「まぁ涼しいっちゃー涼しいけどさ…明らかに日本文化を勘違いしてるだろあの四人」
「オリジナリティ溢るる愉快な光景だ。ああ、もうすぐこちらの番だな…どれ、ここは一つとっておきの話をせねばなるまいな」
「ちょっとやめてよ今でさえパンサー泣きそうなんだから」
声を潜めてドンの袖を引く。
どことなく嬉々としたように見える横顔は錯覚だとすることにして、は溜息を吐いた。
クリフォードでもバッドでもタタンカでも、そしてこれからするであろうドンの話も、納涼と言えば納涼だ。
背筋は凍るように冷えるし、怖いもの見たさの欲求はくすぐられる。聞いた後での後味の悪さもピカ一だ。
パンサーに至ってはしばらく一人で寝れなさそうにさえ思える。(素直に良いリアクションを返すからこそ、筋金入のサド軍団の加虐心に拍車をかける結果になったのだろう)
だがはあくまでも“怖い話”をするものだと教えたのであり、それは幽霊だとか怪奇現象だとかそういうまさに“怪談”と位置付けされるものであって、間違ってもパンサーのトラウマ一歩手前レベルの話をしろと言ったつもりはない。
ましてや人間“が”恐ろしい話や、“口外したら国家に付け狙われるような重大な黒い秘密”を暴露しろなどとは。断じて。
「どうよワイフ、ちょっとは涼しくなった?」
「…しばらく人間不信に陥りそうなぐらいにね」
人の後ろ暗いネタには事欠かない年下の思いがけないダーティーな暴露大会と化したこの場で打ち震えるパンサーの耳をふさぐべく、は視界の悪い暗闇を進んだ。
この後、パンサーを除くペンタグラムには無期限怪談禁止令を出そうと思います。
きっと黒い夢の中にいる
(「ワイフ…ニッポンの人はみんなあんな怖い話を知ってるの?」
「パンサー、誤解しないで。日本人はハリウッド界の壮絶な舞台裏とかカジノのえぐい駆け引き事情とか大自然の容赦ない食物連鎖の話とか政界の限りなく黒に近いグレーな話とかしないから。あの人らが普通じゃないだけだから」)
++あとがき+++
夏なので納涼ネタ。ペンタグラムの怖い話はリアルなドロドロが怖い話\(^q^)/
バッドは情感たっぷり、クリフォードは若干嬉しそう、タタンカは淡々と、ドンはあの演説ばりな説得力で。それぞれがかなり嫌な持ち味(爆)
ありがちかな、とも思いましたが楽しかったからいいや。
怪談話を根本的に勘違いしてるペンタグラムとかたぶん超かわいい
それに怯えて夜中一人でお風呂入れないパンサーとか考えただけで一夏越せそうです(主食:萌←自称)
季節的にペンタグラムとか相変わらずのねつ造すみません(滝汗)ペンタグラムは仲良しこよし!!
タイトル*ララドールさまより
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