※ 309th down「THE WORLD IS MINE」ネタバレ注意
ドンとの住まう、二人用には些か大きめの家には、有名な童謡を彷彿させる、彼の気に入りの振り子時計がある。
の身の丈よりさらに大きなそれは、元はオバーマン家邸宅にあった由緒正しいものだ。
美しく手入れをされて正しく年季の入った質感はあるものの、未だに時刻を正確に知らせる役目を果たしている。
こまめに職人が、調律?をしなければならないという難点はあるけれど、あの重みのある音が刻限を告げる様がは好きだ。
ただ一人アメリカに住まう時計職人にしか手入れが出来ない、というその運命じみた所にも、何とはなしに親近感を覚えた。
なにせスイス最高峰の時計職人にすらそっぽをむいた、筋金入りの頑固時計である。
その振る舞いは、まるでドンみたいだ。
価値観は彼の絶対的な感覚のみ、そのテリトリーに入れる人間を推し量るセンスは何者にも左右されない。
いや、でもやはり時計ではなく職人の方か、誰かの手を借りなければ動けない無生物には似付かわしくない。
しかし職人はどちらかと言えば街場の小さな昔からそこで息づいたささやかな人柄の持ち主であったのでやはりドンとは少し離れている。どうだろう。
むしろ自分のほうが時計か、いやでも―
「、嘘は吐かんのか?」
そんなことをつらつら考えていると、不意に、ドンの横顔がこちらを向いた。
ソファーの左側に腰掛けて、ぶ厚い専書に目を通していた彼は、唐突とも思える言葉でを翻弄する。
嘘?が、なんなの?視線で問い掛け。
「あと少しでエイプリルフールが終わる」
正しくの疑問に答えたドンは、そのまま本を閉じた。
日常に埋もれがちなこのイベントに、ドンが興味を示すなんてなんだか意外だ。
アンティークな文字盤はあと二分のタイムリミットを告げている。
「これと言って特に…ない」
「喜ばしいことだ、正直者のDear」
するん、指輪のはまった大きな手が頭を一撫で。
くつりと機嫌よく喉を鳴らしたドンは、しかし、と呟く。
「しかし、折角の日だ。何かしら嘘を吐いてみるのも悪くなかろう」
「宣言されてから嘘吐かれても困るよ」
「何、信じるか否かはお前が決めれば良い」
撫でる指先にうとうとと目を伏せながら、ドンの“嘘”を待つ。
『――………』
ぼぉん、ぼぉん
ドンの言葉に、時計の旋律が重なって、その声色が、真意が、分からない。
―ドン、今、何て言った?
「は……………?」
「おっと、日付を跨いでしまったか。嘘を真実に変えねばならんようだな」
涼しい顔で嘯いて、何事もなかったかのようにドンは振る舞う。
こっちはそれどころではないと言うのに!
「ちょ、おまっ…わざとだろてめぇ!」
「仕方あるまい、嘘つきは嫌いなんだろう?」
「そのぐらいで嫌いになるわけが…っ」
「ほう、良いことを聞いた」
「あぁあああもう、やだ!」
未来のマリアへ捧ぐ
(―『4月10日、お前の誕生日に、正式な俺の伴侶として世に公表することに決めた』)
タイトル*ララドールさまより
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