※ 312th down「新世代へ」ネタバレ注意

つくづく、細い背中だとタタンカは思う。
誰と並んでも際立つ華奢さ、けれど普段はそれを感じさせないほどの品位と誇りに満ちている。
細いけれど、頼もしいその背中が、うち震えるさまはどんな事よりもタタンカに驚愕を与えた。
あの、が、何よりもしなやかにおおらかで心根の優しく、義理堅い彼女が、負けず嫌いで仕事に忠実で迅速な聡いひとりの人が、18歳の少女に変わる。
苦しげに引き結ばれた眉と口元、眇められた眼は悲壮な色を称えていた。
握り拳が小刻みに震えて、肩、背中、額から爪先まで頼りないものに思えて、

ふわり、逞しい腕が、優しさを伴ってを包む。
は、息を呑むの頭を長い指先が撫でていった。
静寂が語る。タタンカ以外の何もかもが居ない空間は静穏に満ちている。

、もう少しだけ、頑張レ。あと、少しでいイ」

今までも何度か、はこうやって悩んだことがある。
その都度、彼女を支えたのはMr.ドンだった。
だからタタンカに上手くできるかは分からない。
ただ、を悲しませてはいけないとも思った。
慰めるのは得意ではない。そうやって気を回すより、ぎらぎらとしたフィールドで本能に近いまま振る舞う方が楽だったから。
統べる者のように気の利いたあやは、出てこないだろう。そもそも慰められたという事実は彼女の美学に反することだ。
だからタタンカは飾らない。
今出来ることは、できうる限り簡単に、率直に、の背中を撫でてやるだけ。
4月1日、その瞬間まで、涙を押し留める役割を果たすのだ。

「明日になったら、全部嘘ダ。お前が望むなら、俺は聞かなイ。見ない、全部、なかったことにするから」

は聡い女性だからきっとすぐに気付いただろう。
正しく受け取られた自身の言葉に、タタンカは安堵した。
夜空が真ん中に来た頃を見計らって、ひっそりと、呟く。

「もういいんだ、頑張ったナ。偉いぞ

ぐすす、俯いた眼差しから垂直に落下した雫が床を打つ。
申し訳なさそうに、遠慮がちに、小さな手がタタンカの二の腕あたりに添えられた。
Mr.ドンではなくタタンカに、頼った、その事実が何よりも、嬉しい。ただ、喜ばしい出来事とは言い難い分は複雑だ。
の体躯を一周してもまだ有り余る腕を駆使して、タタンカは白い指を握り締める。
輪郭を確かめるように握って、撫でて、そこから心をひた籠めるように徹するのだ。
が、いつものように振る舞えるまで、気が済むまで、タタンカは涙の番人を司る。
ひどく長い間、は泣いて、そうしてようやくその双眸を上にした。
額を合わせて顔を覗き込んだタタンカの刺青をの指がなぞる。くちづける。最後の一雫が瞬きに消えた。

「…タタンカ」
「ああ」
「これも嘘にカウントする?」
が望むなら、と俺は言っタ。好きにすると良イ」
「…ありがとう、すごい好き」



が泣くとき



タイトル*ララドールさまより


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