※ 321th down「I am No.1」ネタバレ注意
『―』
不思議な聞き触りの音で目が覚めた。
耳慣れない韻を踏んで、ふわふわと輪郭だけがあやふやに耳に残っている。
少し首をもたげてみれば、見慣れた刺青の入った褐色の肌。
(…よい、しょと)
ゆったりと回された腕を解いてしまわないように、細心の注意を払って体勢を変える。
腕の中を縄抜け宜しくくぐってタタンカの隣で背中を起こすと、薄く開いた唇がまたなにかを喋った。短い囁き。
注意して耳を澄ますと、聞き心地のよい声は返事を期待せずにまた話した。―寝言だ。
寝ていても端正な顔を難しげに歪めて、の腰辺りに回った腕に力が籠もる。ううん、と唸ってまた喋る。
今度はもよく知る日本語、ヨーロッパ系、そうかと思えば中国、響きからすればおそらくロシア、まったくわからないものも時折飛び出した。
ここ最近ずっと、ドンを手本にたくさん言葉を覚えていた所為だろう。
タタンカは勤勉だ。でもだからって夢にまで出るなんて。
声を出さないように肩を震わせて笑いを飲み込む努力を試みる。
試みた端から寝言で吠えた犬のビジョンが頭をよぎってしまってあやうく呼吸困難になるところだった。(あーもうかわいい…)
やんわりと覆い被さるようにタタンカの頭を抱きしめて、しわが寄ってしまっている眉間に口づけを落とす。
頭を撫でて、背中をさすって、グローバルな寝言が止むまで、の腹筋はひっきりなしに痙攣を生じさせた。
もドンに習って言語を学ぶ身であるし、日本に居たときからそれなりに語学を嗜んでいたので(ただしは1から10まで突き詰めてから他の言語に移る。タタンカのように一気に手広くするのは苦手なのだ)それなりに意味が拾えるものもあったのだが、しかし意味も雑多な単語ばかりをよくもまあ次から次へと話すものである。
「…あんまり無茶しないのよー」
ごく小さな声を額にかけて、唇に苦笑いを浮かべる。
羊の代わりにタタンカの寝言を数えながら、も再び目を閉じた。
* * *
―ゆめをみた。
はじめてと会ったときの夢だ。
声を交わすより、ユース大会の顔合わせよりも前に、タタンカは一度を見たことがある。
一方的であれば『会った』ではおかしいのかもしれないが、を、という人としてタタンカが初めて認識したのは確かにその時だった。
人種も国籍もまったく違う人々の輪に混ざって、英語圏以外の言葉を鮮やかに操って、大人たちの間を取り持つように人の話を聞き、伝え、そしてまた架け橋を渡す。
残念ながらその当時のタタンカに聞き取る事が出来たのは英語だけで、けれどすぐに、意識はの声や話し方や、その姿、存在感にひどく惹かれた。
発音のお手本にしてもおかしくないぐらい、澄んだきれいな声に彩られた言葉はそこにあるだけで意味があるように美しい。
聞いているうちに、今度はその言葉を理解したいと次第に思った。それがを知る近道のようにタタンカは思ったのだ。
もっと、たくさんの声を、言葉を、話を、意志を、その人を知りたいと渇望や切望にも似た憧憬を抱いた。
そんなことを思える人の存在があることを、はじめて知る。
だから、おれは、
(ああ、すごく、なつかしいゆめだ)
(なつかしい、はじまりのゆめ)
『タタンカ』
ゆらゆらと、水の底をたゆたうようにしていたタタンカの思いの行く先が声を捉えた。
その声の元に笑顔があることを当然のようにタタンカは知っている。
目を開けて、囁きの元を辿って、こちらを覗き込むに右手を伸ばす。
応えるように首を傾げた輪郭に指を這わすと長い髪が滑り落ちた。
頬に手を添えて、
次にすること
(「“おはよウ”」
「はい、“おはよう”。タタンカ、昨日寝言すごかったよ」
「うソっ!?」
「言語入り乱れて寝言のサミットみたいだった。ムービー見る?」
「ウワ、やめてヨ!消しテ!恥ずかしイ!」
「うそうそ、ムービーは嘘」
「もウ!」)
++あとがき+++
かわいいタタンカが書きたかった。思っただけだった(爆)
色々捏造入っちゃったけどまあ楽しかったので(でへ←…)
『寝言が第二言語で出るようになったらネイティブと遜色ない証』って聞いたことがあったて、そっから派生してこんなお話。
タタンカが寝言で六者会談みたいなことになったら寝言で吠える犬みたいでかわいいと菱は思うんだみたいな!←ものすごい隙間産業
『寝言で第二言語〜』ネタは多分Mr.ドンでも上げる予定。話の内容はもうちょっと別バージョンで。
蹂躙とか言っちゃうタタンカをオトメンにするのがものすごく楽しかった。当初はワイフ視点のみの予定だったのにいつの間にかタタンカ視点のほうがものすごく楽しかった
ものっそいテイスト変わったけど年下オトメン彼氏好きなのでよしとします(オイ)
それにしてもタタンカはネタバレの扱いが難しい…身長とか喋り方もネタバレに入 り…ます、よ…ね?(不安)
タイトル*流星雨さまより
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