円舞曲



 駅のホームで列車を待つ。

 ごく当たり前のこと。













 駅にあった休憩室でクロスとは列車を待っていた。
 この日はちょうど雨。
 気温が下がり、肌寒くなるので休憩室に入ろうとは思いつき今に至る。
 現在、休憩室にはクロスと、アナウンスから流れる音楽以外は長椅子が2つ背中合わせで3つ並ぶ姿があるだけだった。

 売店で買った旅行雑誌を見ながらは先程買ってきたホットココアを一口飲む。
 甘さが口の中に広がってくる。

 雑誌から目を離し、クロスを見ると窓の外を眺めながら煙管を吹かしていた。

 同じ様にも窓の外を見る。
 ホームには傘を持って列車を待っている人が2,3人目に入った。


 寒くないのかな……とは思う。










 すると、改札口を駆け抜けていく女の人の姿が目に映った。
 長い金髪をなびかせ、淡い青のドレスを身に纏っている。
 どこかの貴族だろうか。


 ホームの出入り口で女の人は肩で息をしながら辺りをきょろきょろと見ている。




 ホットココアを飲み干してあまり見てはいけないなーと考えるが見てしまう。




 「誰か探してるんですかね?」








 一応、はクロスに尋ねてみる。
 同じものを見てるか分からないが。



 「……さぁな」



 コン、と煙管の灰を落とす音が聞こえた。



 元帥も同じ人を見てたんだ……。
 ま、目に入るよね。


 まるで舞踏会から抜け出してきたような姿だ。




 その姿に見入っていると休憩室の音楽が止まり、代わりにもうすぐ列車が来ると言う放送が流れる。






 「、行くぞ」



 「……ん」



 クロスは荷物を掴んでを呼び休憩室を出た。
 その後にも続く。



















 ホームに出るとさっきの女の人がいた。
 側には少し着崩れた服を着て、大きな鞄を持った男の人。


 何か言い合っているようだった。





 すると、男の人がこちらに向かってくる。

 後からその女の人もついて行く………涙を流しながら。



 別れ話をしているのか。
 2人が通り過ぎていくときそれっぽい会話が聞こえた。

 女の人と男の人2人を見るからして、『身分違いの恋』というやつだろう。







 列車がホームに着き、大人、老人、子供いろいろな人たちが降りてきた。
 何度も肩がぶつかるが、いちいち気にしていられない。








 列車に乗り込み、予約していた席を探す。
 予約していた席は2人が向かい合って座れる。
 窓の外からさっきまでいた休憩室が見え、中には5,6人ぐらい人がいた。









 そういえば、さっきの2人のは何処に行ったんだろう。




 窓から顔を出し、左右を探していると2人は列車の入り口にいた。



 男の人が女の人の頬を撫でながら何かを告げた。
 次の瞬間、女の人は両手で顔を覆う。
 今にも男の人は泣きそうだが、ずっと女の人を見ている。



 男の人の手が女の人の肩に触れようとしたとき列車の出発音がホームに響き渡り、手が肩に触れる寸前で止まった。





 男の人が手を元に戻し、女の人に背を向け列車の入り口に足をかける。





 すると、女の人は男の人の腕を掴み、唇を重ねた。






 それは一瞬の出来事。









 男の人は列車に入り、女の人はホームに座り込んだ。









 列車は少しずつ走り出す。
 歩く早さから風を切る早さに。




 雨が服と髪を濡らしていく。


 女の人は自分が濡れている事を厭っていない様だった。





 「


 窓から顔を出していたはクロスに呼ばれ、顔を列車内に戻す。

 雨で髪が濡れていた。

 鞄からタオルを取り出し、髪をふく。





 「見たらいけないとは思ったんですが……」


 気になってしまった。


 まさか自分にこんな野次馬根性があったなんて……
 ショック。








 ちゃんと椅子に座り、軽く息を吐く。


 好き同士なのに別れたであろうさっきの2人の姿を思い出す。


 男の人はどこかへ去った。

 女の人は残された。


 男の人はもう2度と女の人の所には戻らないだろう。


 ……なんか嫌だ。



 私なら残されるのはごめんだ。





















 「元帥」


 髪を拭くのを止めて目の前に座っている男を見る。

 この人ならどうするだろうか。








 「何だ」


 「もしですよ?例えですからね?」


 「…あぁ」



 煙管から煙が出て、匂いが辺りに広まる。

 この匂いにも慣れてきた。




 「元帥に好きな人がいて、…何かのきっかけで側からいなくならなきゃいけないとしたらどうしますか?」







 「は?」






 かなり意外な質問だったらしい。
 驚いた元帥の声は滅多に聞けない。


 「どうします?」


 同じ言葉を繰り返す。



 「……………答えろってか?」



 「はい」



 元帥はふーっと煙を吐いた。






 「置いてく」


 さらりと言われ、この人らしいと思う。



 「お前は何があっても着いて来るタイプだな」



 ククッと笑われるが、図星の為否定できない。



 「好きな人とはずっと一緒に居たいじゃないですか」




 だから今此処にいる。
 元帥の側に。

 そうでなければ、今頃は本部にいるか任務をしてる。







 「そんなものか?」



 「そんなのもです」





 女心の分からん奴め。




 じゃあと言葉をつなげる。

 「誰なら連れて行くんですか?」


 好きな人を連れて行かないのなら。
 弟子は連れて行くだろうからそれ以外でと言うと、「あー?」とめんどくさそうに唸られる。




 窓を開けて煙管の匂いを逃がす。





 外に雨は降っていなかった。












 さっきまでいた街は姿を消し、代わりに新しい街が現れる。



 目的の街まであと8つだと心の中で数える。












 「……愛した女だな」







 「は?」






 呟かれた言葉が耳に入り、思わず疑問符を投げた。




 「さっき言っただろ?"誰なら連れて行くのか"と。俺が連れ歩くのは弟子と愛した女だ」





 ……………。
 私はどっちに入るんだ?
 一応、私の師匠はこの人で、関係は師弟になる。





 「………」



 「反応なしか?」





 一体どう反応しろと?




 「いえ、私はどっちに入るのかなって思って…」







 クロスから目を逸らす。
 「お前?」と訝しむ声が聞こえる。







 「お前はどう考えても後者だ」



 はっきりとした声。

 後者?

 前者は『弟子』、後者は…



 「それに俺は一度もお前をまともに『弟子』と思ったことは無い」





 『弟子と思ったことは無い』?
 なんで…………あ。

 頭がその言葉を理解したとたんに顔が一気に赤くなった。








 「そうですか…」



 顔が熱い。



 「そうだ。愛した奴は常に側に置いておく」





 クロスは開いていた窓を閉めた。
 を見ながら面白そうに笑っている。




 「へー"常に"ですか」



 目をあわさないように下を向く。
 顔の火照りはまだ直らない。



 「まぁな。俺はさっきの男のように置いては行かん。俺が愛した女は俺の所有物だ。本人は気付いていないが…な」



 すごい独占欲ですね。
 また「へー」っと繰り返す。








 「、良い事教えてやるよ」




 良い事?



 「なに?」











 「お前は俺の"所有物"だ。その髪も声も体も心も…な。良く覚えておけ」




 両手で顔を覆う。


 こんなとこで何言ってんのよ。この人。




 「私ものが一つもないじゃないですか」




 「当たり前だろ?……ま、俺の体の半分でいいならやるよ」





 煙管の匂いがまた辺りに満ちてきた。






 「……微妙ですけど、一応貰っておきます」



 体半分。



 クロスが微かに笑っているのが分かった。




■円舞曲■




 「元帥、好きですよ」





 「残念だが、俺は愛している」








Very very Thanks Dear.TACHIBANA!!



+++++++
 こ、ぉーの男前ェ――――!!!!!(殴/落ち着け)・・・すいません取り乱しました。
 1100HITの際にリクエストさせていただきましたっ。クロス元帥夢にございます。
 橘さまによる素敵キングクロス元帥の惜しみない言葉の数々に、加えて最後の一行
 菱が心を蜂の巣にされたのは言うまでもありません。だってこの色男が(黙れ)
 ストライクゾーンストレートど真ん中な元帥をありがとうございましたっ。これからもよろしくお願いしますm_ _)m

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