※ 312th down「新世代へ」ネタバレ注意
「ぅ〜………気持ち悪い」
ぐでん、酔いつぶれたような体勢でが机に突っ伏す。
長い髪がたゆたうように広がって紋様を描いた。
Mr.ドンご執心の彼女の、特にお気に入りの長い黒髪に守られた凛とした横顔には、今や苦悶の表情が浮かんでいる。
風邪でも引いた?額に手をやってみても至って、平熱。(多分)
バッドの差し出したペットボトルの水すら受け付けないようで、は頭を小さく左右に振るった。
「今朝からずっとそんな調子だろ。ちゃんと飯食った?」
「無理、余計気持ち悪くなった」
「…重傷だな」
ぺち、飲料目的ではなく冷却目的として額にペットボトルをあてがうと少しだけ、は和らいだ表情を見せる。
ミーティングまであと数分、場合によってはMr.ドンに連れて帰って貰おうとバッドは考えた。この調子じゃ無理だ。
考えたついでに、ふと、頭の中で電球が閃く。
あ、バッドの口が思いつきの響きを持った。
「あー……………うん、おめでとうワイフ」
「…………は!?」
「ドンじゃなくてワイフに似るといいね。順番逆になったけど結婚式には」
「待て待て待て待て待て!何勘違いしてんだ!!飛躍しすぎなんですけど!?」
「え?違うの?」
「違うに決まってんでしょうがバッキャロ―――!!!!」
てっきりビンゴだと思っていたバッドは、きょとりと目を丸くする。
まだ気付いてなかったのか、バッドの頭は次の考えを導き出した。
どうしてもそちらの発想が消えることはなさそうである。
どうやって落ち着かせようか、理解を得ようか、そっちの方面ばかりがバッドの思考を占めた。
「、外まで丸聞こえだ」
「そうそう、母親のストレスは良くないって」
「………母親?」
「タタンカ、このお馬鹿さんに耳を傾けないで…っ」
「どういう状況?」
タタンカ、パンサー、クリフォードの順番でミーティングルームの扉をくぐる。
バッドの勘違いをそのまま引き継いだタタンカが怪訝そうに固まり、パンサーは首を傾げた。
クリフォードはと言えばを一瞥して事も無げに一言。
「…………とうとうか」
「お前もかクリフォード!いい加減殴るよ!?」
コイツらこんな時だけ息ピッタリぐぁあもう疲れる…っ!心の中でそう毒づいて、は頭を抱える。
そんなを余所にこの同級生たちはひょいひょいと軽口を交わす。
「男か女か賭けようかクリフォード」
「女で顔はワイフ似、性格ドン似に100$」
「じゃあ俺は男で性格がワイフ似、顔は中間に100$。双子なら倍、男女の双子は引き分けな」
「お前ら二人とも表に出ろ!!パンサー、こいつらの話嘘だから!妄想だから!一番純粋なおめでとうの顔やめて!」
「お、ダディが来た」
「てめぇええ!!!!!」
丁度が扉に背を向けた時に、Mr.ドンがその足を踏み入れる瞬間が重なった。
バッドの要らぬ言葉に激昂したが、その胸倉を締め上げる間に、全てを正しく察したドンがやんわりとのウエスト辺りを引き寄せた。
「が在学中にそんなヘマはせんよ。ただの貧血か何かだろう」
「さらっとそういうことを言わないでくれないかな…っ」
「事実だろうDear?まあ万が一何かあっても責任は取るさ。安心して良い」
「もう黙ってってマジで」
「そうしたら可愛いお前が寂しがるだろう?」
「誰がだっ!」
今までのツッコミの反動で一気に気力を失ったがけそりと顔色をなくす。
ふらりと傾いだ上体をドンが捕まえて支える。
片腕一本の力に頼ってよろりと足を踏み出したの足は危なげだ。
「今日はもう帰るぞ、少し休め」
ミーティングルームやロッカーなど全ての鍵が付いたチェーンをのジャージから引っ張り出してタタンカに投げる。
バッドが言うまでもなく、ドンはもはや帰路をとった。
お大事に、パンサーの言葉にもは何かを返す余裕がない。
ぽすん、革張りのソファーに座らされてようやくは此処がいつもの送迎車の中だと気が付いた。
「そんな青白い顔で騒ぐからだ」
「……うるさいな」
ずるずると背もたれを落ちる体を見かねて、ドンが肩を自身の方へ引く。
体格の差での頭から肩までがドンの膝に収まった。膝枕にしては範囲が広すぎだ。
片方だけで顔のほとんどが覆えてしまいそうなドンの掌が、の閉じた瞼を光から遮る。
誘われるように深く息を吐いた、の髪をもう片方の手が撫でた。
「…怖がるな、」
「――………」
「たかだか飛行機8時間の差だ。俺に選ばれることをお前が選んだことを忘れるな」
「…わかってる」
「ならいい。泣くな」
「………わかってる」
自らの掌を濡らす雫を拭って囁く。
の不安に気付かないほど、ドンは愚かではない。
「いずれ、必ずだ。」
だから泣くな、沈黙に言葉を任せて、ドンはひたすらにの髪を撫でて涙を拭う。
の気が済むまでどれだけでも時間をかけてそうするつもりだ。
ドンの掌が少しずつ乾き始めた頃に、スン、鼻を鳴らす音が聞こえて、がくるりと車の進行方向へと体を転がした。
「…改めて言われると恥ずかしいんだってば!」
そうしても無駄だと知りながら、は顔を隠すようにうずくまる。
濡れた声はまだ掠れてはいるが、ドンの求めるそれとよく似た響きを持っていた。唇が、笑みを形どる。
「そうか、死ぬほど言ってやる。耳貸せ」
「鬼畜!」
多い被さるように赤い耳朶に唇を寄せる。
の頬が晴れるまで、まであとすこし。
ただひとつ頂点で輝く
(たった一人の愛すべき人)
++あとがき+++
零さま18000hitありがとうございます!
Mr.ドン(ペンタグラム)夢如何だったでしょうか?
甘いはな、し…になっているといいな(爆)
勿論バッドの勘違いですが、急に妊娠疑惑ネタとかすみませ…っ(黙れ)
ワイフだってまだ18歳の女の子、国籍の壁に不安なお年頃のようです。
Mr.ドンならそれすら吹き飛ばしてくれるに違いないそんな妄想、お付き合い頂き有難う御座いました!
これからも【CERAMIC】をよろしくお願いいたします。
タイトル*ララドールさまより
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