どっしりとした木肌と、潮風にも負けず輝く金銀白銀。
彫刻と宝石で装飾を施した外側は、それだけでも十分な価値を思わせる意匠で待ちかまえるように島に佇んでいた。
錠前と、木を組み合わせる銀には蔓草と花が綿密に折り重なって材質以上の職人技を垣間見せる。
長きにおける航海で見つけた数々に勝るとも劣らない立派な品は、やはり厳重な鍵で、力任せにはびくともしない叡智に守られていた。
「幻の島に宝箱たァどうにも曰く付きじゃねぇか、面白い!」
真っ赤な上着をはためかせて笑うロジャーが興味深そうに細やかな木目に手を這わす。
つられて全容を見渡したレイリーも蔓草の彫刻の溝に溜まった砂を指で払った。
「何処からか流れ着いたにしても…何にせよ、よくこんな綺麗な状態で…」
「これだけポツンとここにあったんだろう?普通宝箱を砂浜に置くか?」
「随分立派な造りをしてますしね、砂埃の割に劣化も少ない。例え中が空っぽだとしても、箱だけで相当な値が付きますよこりゃ…お」
人数にして8人目、時間にして30分をかけ、ようやく指先六本の戦いが終わる。
手先の器用さと手癖の悪さを兼ね備えた生え抜きの、言わばピッキングのエキスパートでも8人がかりの大作業だ。それだけでもう、得体の知れなさが十二分に醸し出されている。
サビではなく砂の破片がふんだんに詰まった鍵細工がじゃりじゃりと音を立てた。
咬み合わさった細く長いネジを慎重な手つきで動かして、とうとう宝箱の番人はただの部品に変わる。
砂浜に敷いたバンダナの上ではこれも芸術と言って差し支えなさそうな銀色がきらめきを持って輝いた。
「さて、何が出るか…!」
にっ!三日月を彷彿させる笑い方でロジャーは目を輝かせる。
例え中から海王類が出ようが七武海が出ようが、かの白ひげが出ようがなんとでもしてしまいそうな勢いが彼のまなこには思う存分備わっていた。
…自分とて海賊、血の気の多さ云々を人に言えるレイリーではないが、ことロジャーは別格である。彼の派手好きはとどまるどころか見習い達にまで伝染するほどだ。
せめて、(これでも一応)病を患っているロジャーの負担にならないことを祈るような、そうでないような複雑な気持ちでレイリーは宝箱を見守った。
*
螺鈿細工と言う物がある。
夜光貝や白蝶貝、あこや貝などの貝殻から真珠色に光る部分を切り取って磨き、その薄片を漆器や木地にはめ込んで装飾としたもので、光の加減によって虹色の光沢を持った層が様々な表情を見せる技法だ。
―例えるなら、それ。
プラチナよりもまだ柔らかな風合いにロジャーの服の色が映ってほんのり赤みが増し、何とも美しい色彩を見せた。濁らない秘宝の色には、それだけでも目を惹かれる。
今までは宝箱の屋根で遮られていた陽の光がふんだんに注ぎ込まれて、それはますます輝いた。
潮風に吹かれて、丸みを帯びた線がはっきりとうかがえる。
明らかになった端正な輪郭は、今まで幾度となく秘宝財宝を掌中に収めてきた海賊団を黙らせるだけの存在感を持っていた。
ゆっくりと、小さな仕草で、瞼を押し上げたと同時にロジャーの弾けるような笑い声が潮騒を打ち消す。
「フッ…ハっハハハハ!こいつァたまげた!!最後の最後で、こんなお宝を拾うことになるなんてな!」
「ロジャー…笑い事じゃないだろう」
他のクルーたちをこぞって置いてけぼりにしたまま、なんのためらいもせずに、ロジャーは砂浜に片膝を付く。
上機嫌で“お宝”をのぞき込んだりつついたりする背中を横目に、レイリーは改めてゴール・D・ロジャーという男がなんたるかを思い知った。
「いやァ…おれは嬉しいのさ相棒。グランドライン制覇最後の島で、今までで一番面白い宝を見つけた。おれと同じだ、これは何の巡り合わせだかなぁ?」
「同じ…?」
「なあ、そうだろう?おれとお前は同じ声が聞こえてるはずだ。んん?違うか?」
敷き詰められた真っ白な布の上に横たわるそれを、慎重な手つきで持ち上げて笑いかける。
強風のあおりを受ければ一溜まりもなさそうな小さな影が、ロジャーのものと共に砂浜に写った。
固唾を飲んでそれぞれが見守る色んな緊張感の真っ只中、まるでロジャーの次の言葉に耳を澄ませるように、一瞬すべての音が止まる。
あの、さも良いことを思い付いたと言わんばかりの満面の笑みを見た時点で、古株達はなにか途方もない確信を抱いた。
ああ、これは―――
「よし、お前おれの娘になれ!」
『何ィ――――――!!!???』
事も無げにしれっと言い放ったロジャーの言葉を追い越す勢いで、上陸していたクルーが叫ぶ。
つくづく、わかってはいたが――ほぼ同時に顔を見合わせた狙撃手とレイリーは互いに肩をすくめあった。
目を剥いて顎を外さんばかりのリアクションを見せた面々を見てロジャーがからからと笑う。ことの原因は呑気なものだ。
笑い事じゃねぇですよ!そう慌てふためくバギーの隣で、これまたシャンクスが笑うものだから余計収拾が付かなくなっている。
「…唐突過ぎるぞ」
「なァに言ってやがる…!おれ達は海賊、そしてこいつァ今の今まで宝箱に入ってた正真正銘の宝だ。海賊が財宝を持ってて何がおかしい。おれは何か間違ったこと言ってるか?」
「出た!船長の海賊論」
「こりゃもう決まりだな、レイリー」
「まったく…」
軽々とロジャーの腕に収まった宝は、両手両足、ついでに言うと頼りないまでに小さな肩に、これまた小さな頭を持つ、まだほんの二、三歳程の…‥子どもだ。
一体いつから宝箱の中に居たのか、向こう側が透けて見えそうなほど色白の腕が、恐る恐る赤い袖を掴む。
ただひとり得心したように小さな背中を宥めるロジャーは、早々に細い首にかかるネックレスを見つけ出した。
子どもの髪に比べれば見劣りはするものの、見事な意匠のそれをレイリーに示す。
「これに彫ってあるのが名前だと思うか?」
「だろうな…・ジェイ・フェイシティブ―珍しい、名前が先だ」
ミドルネームまできっちりと彫られたネックレスの文字を読み上げたレイリーを見やって、ロジャーがかすかに眉を動かした。
さぁどうする、と言わんばかりの仕草は副船長としての決断を促す時の常である。こういう所は何故だかいつも義理堅い。
そしてその意思に結局沿う形になるのも、ひとえにロジャーの力だと思わずにはいられなかった。
「―良い名前だ。よろしくな、」
乗船承諾の返事を裏側に、の頭を撫でる。
やれやれ、と呟いたのは航海士と先ほどの狙撃手だが、その口振りには早くも愉快そうな響きが見え隠れした。
そうした大部分のクルーの歓迎と、まだまだ呆ける若い衆に向き直って、ロジャーは高らかに声を張り上げる。
「こいつの名前は!おれ達の記念すべきグランドライン制覇の証、永きにおける航海を飾るに相応しい最高の宝だ!!」
まるでそのために生まれてきたようなこの不思議な宝との遭遇。
―はじまり、はじまり。
これが恋だというのなら
私はいつから
恋をしていたのですか?
(史上初にしておそらく最初で最後の宝発見の日)
++あとがき+++
書いてしまいましたよレイリーさんと 幼 女 夢!!←…
設定の原型は一年近く前からあったのですが、どうにも話が思い付かず半お蔵入り。それを若干リサイクルして今のお話に。
たくさんの方々のおかげで日の目を見ることができました!精一杯ありがとうございます!!
この話をベースにして海賊王船長を筆頭にロジャー海賊団のねつ造やらなんやらを色々やらかしてしまいそうな予感がひしひしいたしますが…自分の最大限読みたい話を書いていこうかなと自給自足根性丸出しでいきます。
初回の時点で宝箱に夢主という展開ひとつとっても趣味なシチュエーション\(^o^)/わたしすごくたのしかた年の差d=(^o^)=b!!←
レイリーさん大好き!おー!!
タイトル*水没マーチさまより
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