ロジャー海賊団のクルーに、非戦闘員はいない。
船医やコック、航海士に船大工、果ては針子など専門職を持つ者も多々いるが、基本的には全員が海軍からの攻撃を受けて立ち、敵襲をはねのけ、役割を果たした。
ともすれば、全方位荒くれにしか見えないようなワイルドな容貌をした男が、ものの見事に裁縫をしたり、野菜の皮むきをこなしたりすることもごくごく当たり前の風景。
見た目と中身が総じて一致しているとは限らない、その代表例達が、まさに今レイリーの目の前でおおよそ見た目とは不釣り合いに不安げな顔をさらしていた。

「…ってなに食うんですか?」

やたらめったら出刃包丁が似合う調理場の料理長・ジングルが呟くと、他のコック達も揃って仕込みの手を止める。
厨房の入り口近くに山ほど野菜を積んだ樽を囲み、皮むきの傍ら神妙な顔で何を話し込んでいたかと思えば、レイリーは何とも複雑な気持ちで眼鏡を押し上げた。
不思議なことに強面ばかりが集うロジャー海賊団の、“歌って踊れるコックさん”ならぬ“戦って暴れるコックさん”集団は、精悍な見かけに寄らず繊細である。

「………あのな、は至ってふつうの人間だ。秘境の海王類じゃあるまいし、普通に考えておれ達と同じモンでいいだろうが。何をそこまで心配してんだよ」
「そうは言っても、おれらあんな小さい子どもなんて相手にしたことねぇし」
「てかそもそも寄ってこねぇから下手すりゃ海王類より未知の存在ですよ」
「面倒くさすぎるぞお前ら…大体、俺に聞く前に本人かクロッカスに聞け」

そのはと言えば進行形でクロッカスの検診真っ只中だ。
今行けば手間も省けるだろうと告げたレイリーに、ジングルの周りに居た面々はとんでもない!と首を振るう。

「無理無理無理無理!絶対ェ無理です!顔見て泣かれたらどうするんスか!?」
「特にコイツなんか絶対駄目ですって、下手に鉢合わせてトラウマにでもなったら大問題じゃないですか!」
「オイお前嫌われたくなかったら今のうちに顔隠しとけって!!」
「急にんなこと言われたって都合いいモン持ってねぇよ!」
「取りあえずこれでいいだろ!被っとけ被っとけ!!」
「この通り、もコイツらもお互い色んな意味で立ち直れそうにねぇんですよ」
「…お前らが思いのほかを可愛がってて何よりだよ。ただウチに鍋被ったクルーはいらねぇ」

顔を横一線に走る傷跡を持つクルーにこぞって鍋を被せようとしていた一堂を止めるべく、レイリーは手近にあったレードルで逆さにされた銀色の鍋底を叩いた。カァン、鐘のような音が厨房に反響する。
ダイレクトに金属音を叩き込まれた古傷持ちはギャッ!と短く悲鳴を上げて装着していた鍋から顔を引き抜いた。途端に、固まる。
鍋を半端に頭上に掲げたままレイリーの肩の向こう側を凝視する目線を追って振り返ると、その先にあるのはちょうど厨房の入り口あたりだ。

「なんだここに居たのか」

―噂をすれば何とやら

一瞬で緊迫感に包まれたコック達に構わず、ロジャーは早くも定位置となりつつある左腕にを乗せてずかずかと厨房内に突き進んだ。
おかげで件のクルーが鍋を被ろうか否かでうろうろしている。無論それもスルーだ。

「どうだった?」
「喉と足がちょっとな、長いこと使わなかった所為で加減がわからねぇらしい。まあ治らねえモンでもねぇし、地道に戻せばいいさ。しばらくはおれがの足だな」
の前で足とか言うのやめろ」

先程の名残で持ったままだったレードルの磨かれた柄先でロジャーの鳩尾を突く。
言葉遣いを諫めたレイリーの鉄拳制裁から逃れながら悪童のように笑って、そうしてようやくロジャーの意識はコック達へ―正確にはの興味を示した仕草へ―と向いた。

「おぉ?どうした」

ちんまりと片腕に収まっていたの、かすかな機微を酌んで目線を合わせる。
言葉での会話はないものの、向かい合っている姿はやはりそれなりに“親子”で、あのロジャーがかと思うと少しばかり不思議な気分だ。生命の神秘を感じると言ってもいい。

片道通行の相槌を何度か打ってから、無駄に貫禄のある三白眼が古傷持ち(いまだに鍋を手放しかねている)へと注がれた。
つかつかと歩み寄ってなにをしでかすかと思えば―

「ん、落とすなよ。軽いぞ」
「あ、ハイ…え゛っ!?」

流れるような仕草でを腕に預けて手を離す。
勢い余って受け取ってしまってから慌てふためく姿に、ロジャーはようやく本日初の怪訝な顔を見せた。

「ちょっ、待っ…ちょっ、船長っ」
「なんだよ落ち着けって。噛みつきゃしねェからよ」
「なんでだろう今おれ船長とまったく意思が通じる気がしねえんですけど!」
「仲良くしろよ」
「すんません船長空気読んで!おれみたいなのが居たらだって怖がりますって泣きますって」
「怖がるぅ?バッカ言ってんじゃねェよ。おれとレイリーとクロッカスの3人パスしてんだぜ。おめぇなんか屁でもねェよ」

腰が引けまくりのコックをよそにげらげらと笑うと、そこいらの野菜や包丁をいじり始める。
その言葉を裏付けるようにの手が真一文字の傷跡に伸びた。
おそるおそる目線の照準をへと合わせた古傷持ちにロジャーとレイリーが足りない言葉を補う。

「もう痛くねェのかってよ」
「さっき俺もやられた」

レイリーが右目の古傷を指で示してみせると、それまでのコック達の緊張がわずかに緩んだ。
撫でるように左右に動くの手をこわごわと包んで、ぎこちなく笑う。

わずかに首をもたけだひとりの少女に、屈強な野郎共が骨抜きになるまであと数秒。



さあ、しようか



(顔の怖さは子煩悩に比例?)


++あとがき+++
お久しぶりでーす(白目)レイリーさんの古傷撫で回し隊・菱でsu(←黙れば)
ようやっと2話、2話目にしてねつ造クルーひゃっほーい\(^o^)/(爆)
コワモテの人て大抵子供好きですよねみんな大好きギャップ萌え(にこ!)
レイリーさんがツッコミ入れるとことレードル持つ下りが<太字>超楽しかった…!
ロジャー海賊団のメンバーは船長・レイリーさん・クロッカス・バギー・シャンクス以外名前がわからないのでオリジナル名などでだましだましいきまry
オリキャラの名前を覚えるのって面倒だと思うのでなるだけ少な目に…(^^;)
あのロン毛ポニテグラサン斧使い(3巻及びエピソード0参照)の人とかロン毛白髪3連編み(3巻参照)の人とか名前性格ポジション(狙撃手とか)ちょう気になる…(・言・)くわっ
ロジャー海賊団はそれなりに大所帯なのに上下関係あんまり厳しくなさそうなのを個人的に大プッシュします

タイトル*水没マーチさまより


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