―言うなれば、タマネギを刻んだときのアレ、催涙弾や煙のたぐい、柑橘類の汁が目に飛んだ瞬間。
鼻の奥がツンと通り、喉にまで降りて来過ぎな爽快感と非常に刺激的な不快感その他楽しくない感覚が不協和音を醸し出す。
事実こんな悠長な事を考えるのも難しいほど地味に苛つくこの仕打ちは決して初めてではない。むしろ常習。
じんじんと痛む鼻を押さえて目線を下げる。
マルコの前には小憎たらしい子どもの姿があった。

「いい眺めだこと」

ガキのくせに無駄に通った鼻梁と形の良い女優眉、締まった顎を生意気そうに上げてフンと鼻を鳴らす。
年が年ならタバコでもくゆらせていただろう、黙っていても気の強そうな造りの顔をマルコは遠慮なく睨み付けた。

「てめぇ…今日という今日はふん縛って海に放り投げてやるよい…!!」
「あら、そんな顔で言われたっていたくもかゆくもなくってよ」

泣く子も黙るマルコの眼力を涼しい顔で受け止めるが、すまし顔で明後日を見やる、その仕草が、その横顔が、むしろ左目の眦にある印象的な二つの泣きボクロすら逐一小面憎い。
ゆら、甲板に立ち上る青い炎を見て、それまで各々作業をしていたクルー達は口々に叫んだ。

やべェぞ!またがやりやがった!新入りは下がっとけ!

視界の端でわたわたと動き回る仲間達を後目に、マルコはばきごきと指の関節を鳴らした。
じり、相手の出方を互いにはかって向かい合う。
眉一つ動かさずにの左目から伝った涙が甲板に落ちた瞬間、それを合図にするように船全体が大きく揺れた。



たっぷり三時間は暴れまわった後にも関わらず、モビーディック号に傷一つ付かないのはひとえに二人の戦闘スタイルのおかげかそれとも船が強固なのか。
船大工の腕の良さと2人のクルーの腕っ節を嫌な形で実感したサッチは何とも言えない気持ちで溜め息を吐いた。

「女の子相手に大人げねーぞ」
「ほー、この船にオンナノコが居たとは初耳だよい。しつけの悪いクソガキ以外にはあいにくお目にかかったことがねぇな」
「おまえなぁ、元売れっ子舞台女優捕まえて…確かに性格はアレだけどよ」
「クソガキはクソガキだい」

―前略 散々追いかけ回したあげく、首がもげたんじゃないかと仲間達すらぞっとするほど容赦ない覇気付きの拳骨を喰らわせた大人の言う台詞ではないとサッチは思います。

途方に暮れるサッチの隣でキセルをふかしていた横顔がふー…と目を細めた。細く長い煙が潮風に伸びる。

だよなぁ…なんでこうマルコばっかり目の敵にすんだ?」

なあ?ゆったり布をとった着物の袖をなびかせてそう言った声の持ち主から逃れるようにマルコはあらぬ方へと顔を背けた。
天敵である海を眺めてつっけんどんに呟く。

「おれが知るかよい。



『あっちが勝手に突っかかってくるんだ』」
「わーデジャヴ…」

フルスイングされてできた頭のタンコブが痛むのか、あからさまに不服そうなが堂に入った仕草で鼻を鳴らした。
ついさっき一字一句違わず聞いたばかりの台詞がサッチ達の脳内にこだまする。
同族嫌悪?に聞こえないように口パクで示したサッチに、涼やかな眼差しが視線だけで同意を示した。

そもそもとマルコのどたばたなど理由は些細な事である。
今日だってあてがわれた寝台を使わずにが船の物置のそこかしこを転々と寝床にしていることをマルコが諌め、それに被せる形で二言も三言も多くが口応えして煽ったがためにドンパチに発展してしまったのだ。
この口が達者な少女がひょんなことからここ白ひげ海賊団で行動を共にするようになって数日、そんな感じのガチンコが二日に3回のペースで勃発している。
まだまだ両手と足の指一本で足りるほどの複雑なお年頃の女の子には色々あるのだろうが、それにしてもこの二人に関してオヤジが何も言わないのも気にかかるところだ。

は…なんだ、マルコが嫌いか?」
「だ・か・ら、それはあっちなんじゃないの」
「マルコは悪いヤツじゃねェぞ?」
「まあなんて残念、わたし性格が悪いから気が合わないわ。善い人と悪い人は手を繋げないのよ」

二人がかりで諭す言葉をすり抜けるように背中を向けてしまった長い髪が潮風に揺れる。
格言のような言い回しをするのはの十八番だ。
含蓄のある言葉は時に不可解で余韻を残すが、理解をさせてくれようとはしない。先は長そうだ。
航海士でないサッチにでも容易にわかる。この航路はまだまだ大荒れに荒れそうな模様子である。

ぶっきらぼうながらもサッチたち(ニアーイコールマルコ以外)には比較的―当社比30パーセントほどは―つまり10回中7回は一蹴されるか会話のデッドボールだが―きちんと返事をするし、オヤジには一本筋を通した態度を示すし、決して悪い子ではないのだが、とにかく―大事なことなのでもう一度言うがとにかくはマルコに対していっそ清々しいほど好戦的かつまたは反抗的だ。
黙っていればお人形のように可憐な女の子にマルコが主に拳骨などのバイオレンスをくらわせる光景はきわめて目に優しくなくまた効果てきめんにマルコが人でなしに見えるのでやめてほしいというのが白ひげ海賊団新入り及び隊員達大部分の願いなのだが、いかんせんその思いをへし折る勢いで切実に二人は仲が悪い。
相性が悪いなら悪いで接触を避けるかと思えば逆にアグレッシブなぶつかり合いで互いの心の垣根をすくすく育むこの現状だ。
マルコが大人げないとかの可愛げがないとかそういったことを言い始めるとキリがないのは確かだがもうそろそろとばっちりでうっかり死人が出そうなぐらいヒートアップする能力者達をどうするかが隊長会議で話し合われるのもそう遠くない未来だろう。
ほんとなんでオヤジはなんにも言わないんだろう、サッチが遠い目をする傍らはますます頑なに唇を引き結んだ。



女の子は


で出来てる



(ああちくしょう!あいつらまた甲板でにらみ合いを始めやがった!!)


++あとがき+++
と、言うわけで!オヤジの(誕生)日は白ひげ海賊団の日!白ひげ海賊団の日ひいてはマルコの日!と無理しゃり白ひげイズムこじつけて更新しましたオヤジ生誕ありがとう\(^o^)/フッフゥ!
散々外道っ子外道っ子言う割にイマイチ外道っぷり足りなくてしょんぼりしますがとりあえずベースはこんな感じで行きたいと思います。サッチ兄ぃにがおおわらわwww
見切り発車感は否めませんがよろしくお付き合いいただけたら幸いです。

タイトル*newーoldさまより


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