【全部あなたに繋がっていた】


 初めに目に入ったのは高い天井。
 ぼんやりとしながらも見慣れた天井にここが普段ファミリーみんなで
 テーブルを囲んでカードをしたりとしている場所のひとつとわかる。
 ゆったりと幅のとってあるソファ―しかし長身のランチアの足はいくらか納まり切らずに肘掛までを占領している―に
 寝そべったまま何時の間に眠ってしまっていたのだろうか。
 最後に時計を見たのはたしか二時だったはずだが、と右腕にはめた時計を見やればもう六時だ。
 ファミリーの中でも古株のバルツがアンティークショップで見つけてきた革張りのソファは質がよく
 背中も肩も痛まなかったが四時間も同じ体勢でさすがに体が強ばっている。
 まだ覚めきってない頭のまま起き上がって、目を擦ろうと左手を動かしてようやく初めてその違和感に気付いた。

 目の高さまであげた手をそのままに、ランチアは普段いやと言うほど目にしている自分の手をまじまじと信じがたい気分で見つめた。
 左手の小指に巻き付けられた赤く少し太めの・・・毛糸
 垂れ下がる先はランチアの小指から、絨毯に下り、開け放したままのドアまで延々と続いている。


  「・・・・・・・・・」


 これはいわゆるアレだろうかとかなり複雑な面持ちでランチアは固まった。
 軽く糸を手繰り寄せてみるが相当長い糸を使ってあるらしく少しばかり揺れただけだ。
 ひらり、と紙切れがどこからともなく降ってくる。


  “私の心を手繰り寄せて!”


 ・・・ニッキーだ、絶対ニッキーの仕業だこれは

 一見文面からしてみれば女性じみているが、ファミリーの中で紅一点のは絶対にこんなことはしない。
 なおかつ筆跡は明らかに8歳年上でいつまでも子供の心を忘れない我らがファミリーきっての俊才ニッキーのものだ。
 嬉々としてメッセージを書く姿が容易に想像できる。

 そう心のなかで分析しながらもランチアは素直に司令に従うことにした。


 少しずつ毛糸を巻き取りながらランチアは廊下を進む。
 時折後ろを振り向いたり、窓から庭を覗いたりするが
 いつも誰かしらいるはずのファミリーは影もなく、ただただ長く細く糸が続いていくだけだ。
 一体なんの遊びなのかと首を傾げながら行けば、廊下を続く毛糸のうえに一枚の紙が落ちている。
 ほんの少しくたびれてしまっているそれは、写真だ。
 裏返しになっていて、何かは見えない。


  「・・・?」


 拾い上げて神経衰弱のように裏返す。
 隠れていた面には今よりまだ若い仲間が、ボスが、満面の笑みを浮かべている。
 記念撮影のように固まっているみんなの真ん中には、少し緊張した面持ちでシャツの裾をひっぱっている子供が立っていた。


  「これは・・・」


 スラムで拾われたランチアが初めてアジトに来た日
 朝までどんちゃん騒いで過ごしたランチアの歓迎パーティーの日に撮った写真だ。
 一度は天涯孤独になったランチアに、再び家族ができた日。
 大切な一枚をもう一度丁寧に見なおした後、写真を手にランチアはまた先へと進んだ。

 糸を辿って行くにつれ、さまざまな写真が赤い線の上にちりばめられていく。
 ランチアが初めてスーツを仕立てに行った時、ボスを始めとする仲間達のコンプレアンノ―誕生日―の日
 避暑にと別荘へ旅行した時、地元の祭りにと出向いて飲み比べ大会で大騒ぎした時、ファミリー総出で夜通しカードをした時
 ―そして、二人目の小さな用心棒が来た日。
 この次から、写真にはも加わっていく。




 ランチアがアジトに連れてきた時、はまだ10にも満たなかった。
 それでも、すぐに射撃の腕があると判り(実際が一発で的のど真ん中に弾を命中させた時の写真もあった
 ―それはもうお祭騒ぎだったのだ)四年後にはランチアと二人肩を並べていた。

 あの日からもうずいぶんと長い時間が流れたのだ。

  (それでも、)

 一枚一枚を大事に拾い集めながら、ランチアはとうとう一番奥の部屋に辿り着いた。
 薄く開いた扉の間に赤い糸は入っている。
 その扉には最後の写真が貼りつけてられていた。
 
 写っていたのは―ソファで眠るランチアとその隣で笑うの姿
 指にはランチアの指に巻かれた毛糸の反対側を、指に括り付けて。

  (変わらぬ姿で、笑顔で)

 その扉を開いた瞬間


  『Buon compleanno LANCIA!!』


 無数の紙吹雪が宙を舞った。


  「驚いた?ランチア」


 その先で微笑んでいる少女を抱き締める。


  「誕生日、おめでとう!」
  「ありがとう」


 この上ない幸福な気持ちで。

   (指から指へと赤い糸が続いていく)



 





++++あとがき+++++
 提出日ギリギリのところで出すというなんとも駄目管理人っぷりを発揮しつつ滑り込みで提出しました。
 主催関口さまこんな管理人に企画に参加させていただいてありがとうございます。
 ランチアさんスキーとしてはかなりうきうきな企画でした。ごちそうさまです。

 誕生日の5日後にこんな物を提出。どうせなら当日に間に合わせろと心の中で自分を引っ叩いております。
 そして夢主の登場少なくて申し訳なっ・・・・OTL
 雰囲気を楽しんでいただければこれ幸いと思います。←最後までまるで駄目な管理人ですみません(┐-;)


MENU