―ふぉっ ゴッ
「ん?」
【BEAUTIFUL】−1−
(なんか今ヤな音が聞こえたような・・・)
外で洗濯物を干していたは、インドでの仮住まいへと目を向ける。
手は動かしたまま入るべきかどうか迷っていると、後ろから伸びてきた手に両肩を引かれた。
何事かと上を仰げば、見えたのは師であるクロスの顔である。
「師匠?」
「俺は今から東へ行く」
「えぇ」
「、お前はアレンを連れて本部へ行け。二人で平気だな?」
「えぇ。心配要りません」
「あまり無茶はするな。周りを最大限に利用して、必要最低限以外は動くな。いいか、解ったな」
「えぇ。常に心がけます」
「後は極力野郎相手に喋るな。なんか用があるんならアレンを介(=パシリに)して話せ」
「えぇ。極力ね」
「ある程度経ったら俺の処へ必ず戻って来い」
「えぇ。勿論」
従順に返事をする弟子に満足したのか違うのか、クロスが彼独特の笑みを浮かべる。
「あまり戻るのが遅いようになるんなら他の女の所へ行く」
得意げにそう言い放つクロスにはため息をついた。
「クロス」
「返事は」
「・・・意地悪ね。浮気ぐらいなら笑って許すけど、貴方の心は誰にも譲ってあげません。私だけの物です」
「・・・上出来だ」
ほんの少し目を丸くしてから、今度こそ満足げに笑うと、の指に指輪をはめた。
「虫除けぐらいにはなるだろ、外すなよ」
「あら、プロポーズとは言ってくれないんですね」
も言われっぱなしでは気が済まない。
今度はクロスがため息をつく番だった。
「今更そんなモン欲しがる女でもないだろうが」
「ゴモットモ。でも大切にしますよ」
「それでいい。俺はもう行く」
「はい、師匠」
「言い付けは守れよ」
「えぇ。勿論」
最後についでだと言わんばかりにの唇を掠め取っていってからクロスは旅立っていった。
と、は見送るクロスのもつ荷物の中に不穏な物が混ざっていることに気がついた。
「・・・・・・いやだ、あれ金槌じゃない!!しかも厭な染みがっ・・・・・ハッ
まさか!?っっアレン!!」
そう言うや否やはバタバタと足音荒く仮住まいへと走り去っていった。
そして、案の定頭から血を流して倒れているアレンを見つけることになる。
「ぁぁ もう、クロス・・・アレンを殺す気!?」
のそんな声は生憎クロスには届かなかった。
・・・だが、も知らなかった。
ほんのひととき、クロスが振り向き、の背を慈しむように見つめていたことを。
* * *
「本っっ当にごめんなさい。師匠も師匠よ大人気ないんだから。でも悪気がある訳じゃないの
ただ善意もやる気も情け容赦もないだけで・・・・」
アレンの頭の手当てをしながら、は謝った。
「が謝ることじゃないですよ。むしろを置いていったのが不思議なくらいです。
よく連れて行かなかったなぁ〜って・・・」
「発つ時にキッチリ“野郎相手に喋るときはアレンを通せ”って言われたけどね」
「そういうトコ抜かりないっていうか・・・・・・・・・」
「はは。それにあたしまだエクソシストじゃないから、一緒に行って来いって言うのもあったのよ、多分」
「あ、そっか」
「べつに肩書きなんてどうでもいいんだけどね。よし、お終い」
「ありがとう、」
「どう致しまして。今日ぐらいはちゃんと休んでね」
「わかりました。おやすみなさい、」
「オヤスミ」
アレンが部屋に引き上げてからも、は何をするでもないがしばらく窓辺に寄りかかったままだった。
(本部・・・)
「正直・・・あたしも帰りたくないなあ」
の声は暗くて小さくて。
誰にも届いてはくれなかった。
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