ヒュオォと切り立つ崖の上。どっしりと構える黒い影には蝙蝠のような影がひしめきあう。
「・・・・ぅゎ」
「まー、相変わらず素敵な建物」
アレンとの目の前には黒の教団・本部があった。
【BEAUTIFUL】−2−
「アレン、大丈夫?」
そう言ってが座り込んだアレンに手を貸す。
「すいません。ちょっとさすがに疲れちゃって・・・」
「無理もないわ・・随分登ったもの」
「と、とりあえず行ってみましょう」
「えぇ」
まだ疲れ気味のアレンに手を引かれては教団に向かった。
* * *
「なんだいこの子達は!?」
科学班室長・コムイの声が響く。
“この子達”とはモニターに映ったエメラルドグリーンの髪の少女と白髪の少年―とアレンだ。
「ダメだよ、部外者入れちゃあ〜。なんで落とさなかったの!?」
「あ、コムイ室長。それが微妙に部外者っぽくねーんスよね」
リーバーが言い、リナリーが説明する。
「ここ見て、兄さん。この子達、クロス元帥のゴーレム連れてるのよ。それに、この女の子・・・」
「知り合いかい?」
「・・・ううん、なんでもない」
(まさか、ね・・・)
かつてリナリーが見た“”は黒髪黒眼だった。
だが、今モニターに映っている“”の髪と瞳は黒とは程遠い 目の覚めるような鮮やかなエメラルドグリーンだ。
『すいませーん』
* * *
「クロス・マリアン神父の紹介で来ました。・と、アレン・ウォーカーです」
「教団の幹部の方に謁見したいのですが」
の口から“クロス”という単語が出た途端科学班に動揺が走る。
「元帥の知り合いだ!あの人生きてたのか」
「“紹介”って言ってますけど、室長、何か聞いてます?」
リーバーが聞けば、コムイは眉根を寄せながら一言。
「・・・・・・・・・・・・知らない」
この一言が後に起こる惨劇の引き金となった。
* * *
『後ろの門番の身体検査受けて』
「「後ろの門番・・・」」
そう言ってとアレンが後ろを向くと、“Gate keeper”の文字が顎?にはいった彫刻のような・・・・・・顔が。
「どうも」
「初めまして」
健気にもアレンとが挨拶をすれば、門番の顔が出てきた。
―ぐおっ
かなりのギョロ目がとアレンを捉える。
(ひっ)
(わぉ、夢に出てきそう)
二人が各々そう思ったのも束の間、身体検査が始まった。
“レントゲン検査!アクマか人間か判別!!”
「わっ」
(レントゲンって屋外でしていいんだ・・・)
―ブブブッ
しばらくの間門番の検査が続く。
“!?白髪のほうの左目が映らない?
ってか女のほうに至っては映ってねぇし!!バグか!?”
―ボッ
門番がそう思った矢先、とアレンからペンタクルが浮き出た。
「!!」
―ブー
「「・・・ブザー?」」
「こいつらアウトォォオオ!!!」
「ひっ」
「キャアッ」
門番の叫び声に思わずアレンとから悲鳴が出た。
「へっ!?」
「こいつらバグだ!ペンタクルに呪われてやがる!アウトだアウト!!」
ぎゃあああああ、とあまり美しくない門番の悲鳴が走る。
「ペンタクルはアクマの印(マーク)!!この二人、奴等の・・・千年伯爵の仲間(カモ)だー!!!」
「んなっ?」
「OH MY Goddness・・・・」
青くなるアレンの横では思わずそうこぼした。
無線ゴーレムからは慌てふためく声が聞こえている。
「やっぱりクロスに来てもらうべきだったかしら・・・・」
「あのっ、今はそんなコト言ってる場合じゃ・・・」
―ザン
「!?」
髪の長い青年が門番の上から二人を見下ろしている。
むき出しの警戒心。
「っエクソシストだわ」
「たかだか二匹で来るとはいー度胸じゃねぇか・・・」
とアレンはギラ、と殺気を帯びた目で思い切り睨まれた。
「ちょっ、ちょっと待って!!何か誤解されて・・・」
(話しても無駄そうね)
「アレン!よけなさい!!」
がアレンに向かって叫ぶ。
―ドン!!
青年の振り下ろした刀がアレンの左腕にヒビを入れた。
「アレン!!」
「・・・・お前・・・その腕はなんだ?」
「・・・・・・・・・・・対アクマ武器ですよ。僕達はエクソシストです」
「何?・・・・・・・門番!!!」
青年のドスの効いた声と眼差しに門番は半泣きだ。
「ぃあっ、でもよ、中身がわかんねェんじゃしょうがねェじゃん!アクマだったらどーすんの!?」
「僕達は人間です!確かにチョット呪われてますけど立派な人間ですよ!!」
「あたしは大分呪われてるけどね・・・」
の声が聞こえたのだろうか、アレンと門番が騒ぐ一方で青年がを睨む。
だがその程度で怯む彼女ではない。
「・・・」
「そんなに睨まないで。あたし達はアクマなんかじゃないわ」
「チッ・・・・ふん、まあいい」
青年はそういって刀を構えなおした。
「中身を見ればわかることだ」
“対アクマ武器発動!!”
「この『六幻』で斬り裂いてやる」
(刀型の対アクマ武器!!)
―ドン
刀の切っ先がアレンに迫る。
グサリ、と厭な音が響いた。
「「!?」」
「っ・・・・」
「!!!」
六幻がの心臓の辺りを貫いている。
アレンの顔が一気に青くなった。血が六幻を伝う。
だが、即死のはずであるの指が六幻をつかんで引き抜いた。
とたんに、刄が折れる。
『対アクマ武器を素手で!?』
科学班に動揺が走る。それは神田も同じだった。
膠着状態のなか、が崩れ落ちるようにして倒れた。アレンが慌てて彼女を支える。
「!!」
「・・・っ、大丈夫よ。すぐ・・・“戻る”、ッ」
「・・・」
泣きだしそうなアレンにが笑ってみせる。
だが、それも束の間、彼女の顔が苦痛で歪む。アレンはを抱き締めて祈るように目を閉じた。
次の瞬間、の体から軋むような音がする。
音が止むとの傷は完全に癒えていた。
「・・・どういう事だ」
―ジャキ
神田がアレンの首に折れた六幻を突き付ける。だが、アレンは何も言おうとはしない。
労るようにを横たわらせ、膝枕をする。彼女の頭を繰り返し撫でるアレンの手は震えていた。
「・・・・」
「・・答えろ。何故傷がふさがった」
「・・・これがあたしの“呪い”だからよ」
「、」
「いいの、アレン。遅かれ早かれ知れる事だわ」
まだけだるそうにしながらが言葉を紡ぐ。
「“呪い”?これがか」
「・・・何があっても死ぬことは許されない。体があたしを生かそうとしてるの。“呪い”が解けない限りあたしは一生不死身」
「メリットの様にしか聞こえんが?」
「・・・貴方に何が解るんです」
「アレン、止めて。あたしは平気よ」
不満げに呟いたアレンをが諫めた。
「ねぇ、エクソシストさん。確かにこの“呪い”は伯爵にかけられたものよ。
でも、さっき貴方も見たでしょう?イノセンスに貫かれて死なないアクマはいないわ」
「チッ・・」
「僕達はホントに敵なんかじゃありません。クロス師匠から紹介状が送られてるはずなんです」
「紹介状・・・?元帥から・・・?」
「えぇ」
* * *
『コムイって人宛てに』
「・・・・・・・」
モニターに釘づけになっていた目が一斉にコムイに集まる。
「そこのキミ!」
「は、はい?」
「ボクの机調べて!」
「アレをっスか・・・」
そういうのも仕方ないだろう。
コムイの机はうずたかく書類が積み上げられていて、しかも蜘蛛の巣がはっている。
「コムイ兄さん」
「コムイ室長・・・・」
「ボクも手伝うよ」
“まさか、勘違い?”
科学班の思いを代表して、リナリーとリーバーが言外にコムイに聞く。それから逃れるためにコムイも書類の山に向かった。
その山の中からくたびれた手紙が出てきた・・・クロスからのものだ。
「あった!ありましたぁ!!クロス元帥からの手紙です!」
「読んで!」
「 “コムイへ
近々 アレンとという二人をそっちに送るのでヨロシクな BY クロス” です」
「はい!そーゆうことです。リーバー班長、神田くん止めて!」
「たまには机整理してくださいよ!!」
コーヒーのおかわりに向かったコムイにリーバーの叱責が飛ぶ。
次いで、神田を止める声が聞こえた。だが、コムイはたいして反省してないようだ。
「リナリー、ちょっと準備を手伝って。久々の入団者だ。
あ、あと療養所に連絡して、ベッドの予約もヨロシクね、リーバー班長」
「へーへー」
リーバーは抗議を諦めたのか素直に返事をした。
「クロスが出してきた子か・・・鑑定しがいがありそうだ♪」
コムイはそういうとリーバーのマイクをもげる一歩手前まで引っ張った。
* * *
「かっ、開門んん〜?」
門番の両脇の門が仰々しい音を立てて上がる。
次いでとアレンに入城の許可がおりた。
『入場を許可します。アレン・ウォーカーくん、・くん
っと言うワケでごめんねー、神田くん。早トチリ!二人ともクロス元帥の弟子だった。ほら、謝って、リーバー班長』
『オレのせいみたいな言い方ー!』
((・・・理不尽ッ))
リーバーの叫ぶ声を聞いてアレンとはそう思わずにはいられなかった。
だがコムイの声は相変わらず陽気だ。
『ティムキャンピーが付いてるのが何よりの証拠だよ。二人はボクらの仲間だ』
コムイはそう言うが、まだ“神田”は納得できないらしい。
アレンに刀を突き付けたままだ。
と、
―ぱこっ
随分気の抜ける音がした。ツインテールの女の子が神田の頭を書類挟みで叩いたらしい。
「もー、やめなさいって言ってるでしょ!早く入らないと門しめちゃうわよ。入んなさい!」
それだけ言うと女の子が今だに横たわったままのに目をやる。
とたんに、表情が変わった。
「貴女・・・あの時の“”なの!?」
「えぇ・・・久しぶり、覚えててくれたのね。元気そうで何よりだわ」
泣きだしそうなリナリーを宥めるようには穏やかに言う。
「できればもっと沢山話がしたいんだけど、また・・今度に、してくれる?もう限界」
「え・・・・?」
それだけ言うとの瞼が落ちた。よくみれば呼吸が荒い。
「っ!?しっかりして!!」
「待ってください。落ち着いて。大丈夫です」
「どういうこと・・?」
「さっきが言ってたでしょう?・・・これがの呪い。この呪いは体に負担をかけるんですよ。
無理矢理細胞を活性化させて傷を塞ぐ所為で、体力が大幅に削られるうえに強烈な痛みを伴うんです」
「そんな・・・」
「命に別状はないんです。ただ、しばらくは休ませてあげて下さい」
「・・・っ」
『リナリー、今医療班を向かわせたから安心して』
無線ゴーレムからコムイが言う。
リナリーの視線はに向けられたままだった。
* * *
リナリーがを見たのは一回きり。
六年前の事だ。
教団で行なわれていたエクソシストをつくる実験の犠牲者。
は、教団で“つくられた”エクソシストだ。
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