すこし、肌寒くなってきた冬の入り口近いこの季節。
冬は、好きだ。クリスマスボウルがある。
アメフト部の部長らしくそんなことを考えながら、正門をくぐりグラウンドを突っ切ろうとした、その時。

「・・・なにしてん、アイツ」

長い手足を随分コンパクトに収納して、しゃがみ込んでいるのは何を隠そう帝黒アレキサンダーズの一軍正レギュラーの…いや、本庄
しゃんとしていれば180pの大台にも見える、超絶モデル体型のチームメイトは寒空の下微動だにせず登校してきた平良にも気付いていない。
それもそのはず、長い手指を余すことなく発揮してその顔を覆っていたからだ。

「おーい、ー生きとるかー?」

“寝たら死ぬでー”と軽いノリで平良はにと歩み寄る。
じゃりじゃりとアスファルトを踏みしめる音に急かされるように、ようやく上げられた顔を見て、平良は思わず目を丸くした。

赤い。

顔から耳から心なしか首までもが、しらじらと赤くなっていた。早い話が、赤面。陳腐な言い回しをするならばリンゴ病。

「・・・寒すぎてしもやけ、とかやないわなぁ。なしてん、風邪でも引いたんか?」

限りなく途方に暮れた顔をしているタイトエンドに手を貸してやりながら、平良はその線もないなと考える。
万が一、が風邪ならば本庄勝理事長は彼女を家から一歩も出さないだろう。
その溺愛っぷりというか、よき夫婦っぷりというか、過保護っぷりは、本庄家名物である。・・・話がそれた。
とにかく、ようやく立ち上がったの頭に引っかかった枯れ葉をはたいてやりながら平良は慎重に言葉を選んだのだった。
(下手なことを言えば、は今度こそ打ちひしがれてしまうかもしれない。それぐらい、照れ屋で奥ゆかしい)

「えらい調子悪そうやで」
「―平良、さん・・・」
「なんかあったんか?」
「・・・顔見知りの犯行」

心底悩ましげな顔をしてが深々と溜め息を吐く。
これ以上はツッコんではいけない、平良の中の熟練工にまで洗練されたセンサーが何かを察した。

「今日鷹は?」
「調子悪いみたいだから休ませたの。急に寒くなったでしょ」
「したら今日は一人か。なんや張りあいないな」
「・・・・・うん」

微妙な間が空いた。
いたたまれない。
ここに鷹が居ればなにかと良いパスを出してくれるのだが、あいにくの病欠とあらば致し方ない。
(普段は限りなく寡黙で個人行動だが本庄家のよき良心としては絶大な効力を放つ彼である)
ああなるほど、と相づちをうちながら平良は深追い厳禁とばかりにマフラーを引き上げた。
まだうっすら朝霧の煙るころでも、アレキサンダーズの練習は回っていく。
もう少しすればいつものメンバーが揃って、鷹はいないながらもいつものアレキサンダーズの1日が始まるはずである。
これはそれまでの、言わばウォーミングアップだ。
無理をして、1日にそれを響かせてはいけない。

だから平良は気付かないふりをする。
ここ最近花梨と揃いでつけ始めたと言っていた口紅が、うっすら剥がれて口の端に色が移っているということも
指定のネクタイの結び目が、ほんの少し歪んでいるということも
ライオンのように四方八方に遊ばせたヘアスタイルが、微妙に崩れてるということも。



  リハーサル無しの

(全部気のせい、絶対気のせい)


++あとがき+++
なにした旦那^q^プ
年齢設定とか色々ぐだぐだですみません…
頑なに11月22日に本庄夢を更新したかったわたしです

  タイトル*暗くなるまで待ってさまより


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